第十四話 赤き神狼と歓待
「神狼様。殿下の希望で庭園で歓待したいそうです」
王城に着き、案内される間に、侍従がそう話す。
(歓待!ごちそう!うまい!最高!)
ルンルンでスキップしながら庭園を見ると、忙しなく動く人々が目に入った。
その中から見知った顔が、こちらに気付き笑顔で近づいてきた。
「特別な神狼フェンリル・イグニス様!」
(名前がわかんないな……)
「お久しぶりです。本日はご足労頂き、ありがとうございます。御活躍は王城にも届いてます!」
『おー、そうか……』
「妹もすっかり良くなりました」
そう言って、後ろでモジモジしていた少女を前に出した。
「ありがとうございました」
ぴょこんと頭を下げた少女は、はにかみながらも元気そうだ。
(こういう時なんて言ったらいいのか分かんないよ!)
『……よく耐えたな』
「あ゙りがとうございます」
少女は涙を滲ませた。
王子は妹の肩を抱き、「良かったな」と優しく声を掛けた。
「今日はリリィが茶葉からメニューまで手配したのですよ!」
(えええ!?期待できないかも……)
女の子向けの歓待か……。なんかテンションが下がったかも。
遠くに見える東屋には、見たことがあるような物が見える。
(あれって、アフタヌーンティーってやつだよね……)
「用意が出来たようなのでご案内しますね」
『あー、分かった……』
とぼとぼと王子の後をついて行く。
「改めまして、先日は神鹿の角を譲っていただき、ありがとうございました。おかげでリリィも元気になりました。思い起こせばあれは、私が初めて聖なる森へ赴き――まだまだ話は尽きませんが、思う存分お召し上がりください」
(長い挨拶にほとんど寝てたわ!肉にも期待できないしな!)
「では、イグニス様こちらへどうぞ!」
ん?東屋じゃないの?
「お肉が好きだと聞きましたので、様々な肉料理を用意いたしました!」
東屋の横に用意されたスペースには、様々な肉料理が用意されている。
肉の脂がしたたり、焼ける音と香りが鼻腔を刺激する。
(ちょっと!めちゃくちゃ最高じゃないか!ビバ王城!)
『じゃあ、まずはこのステーキからもらおうかな!』
「こちらは、黒牛のリブロースステーキになります。こちらのホースラディッシュをお付けになると、また違った味わいになります」
『いやー、美味い!旨味が強い!噛むほどに甘みが出てくる!』
「こちら、シャトーブリアンになります。赤ワインソースでお召し上がりください」
『カッー!なんだこれー!』
「こちらは、ランプになります。玉ねぎのソースでお召し上がりください」
『なんだよランプって!灯かよ、めちゃ旨じゃないか!』
「ハラミもいかがですか、ガーリックソースになっています」
『ハラミ好き!ぶっとぶぞ!』
「他にも、豚や鳥もございますよ」
『豚も鳥も!?』
「ええ、沢山あります」
『じゃ、牛、豚、牛、鳥の繰り返しで!』
「じゅ、順番まで!?」
『重要だから!』
全種類を食べて、サーロインステーキはお代わりをした。
『しかし至高のタレでも食いたいな』
そうポツリと呟いた言葉を王子は聞き逃さなかった。
「至高のタレとはなんですか?」
『ヴェルディのティオが、研究しているタレなんだ。今の最高のタレも美味いんだけど、新作が楽しみなんだよ』
「その話は、妹が用意したデザートを頂きながら、聞かせてください」
『聞かせても良いが、ティオの邪魔はするなよ?』
「もちろんです」と王子はにこやかに言ったが、邪魔したら報復あるのみだ。
残った料理を包んでもらう時間くらいなら、デザートに付き合うのも問題ない。
妹ちゃんの用意したデザートも様々な種類があり、どれも美味しかった。
手の込んだ物が多く、プリンのようなシンプルな物も食べたいと言うと、詳細を聞かれた。
『質問攻めで、もう王城に来たくないかも』
「申し訳ありません。興味深くて、色々聞いてしまいました。次回は最高のプリンをご用意いたします」
『じゃあ、いいかっ!ご馳走様』
少しだけ不機嫌になったが、プリン楽しみだし手土産嬉しい。そして、お礼は忘れない!
王子と王女の名前も憶えた!エルネストとリリィ!
***
「い、行ってしまわれた……」
エルネストとリリィはイグニスの後姿を見送った。
「お兄様、イグニス様……すごく美味しいって言ってくれましたし、喜んでくれましたわ」
リリィはイグニスが、デザートもよく食べてくれたと思ったみたいだが、兄は違ったようだ。
「リリィ、お前は令嬢とのお茶会しか経験がないかも知れないが、イグニス様は肉ほどデザートはお召し上がりにならなかった。そしてプリンなるデザートのレシピを、お授けになったのだ」
「えっ!?アフタヌーンティーは残すものですわ……。デザートのレシピやお料理も、沢山お話は聞きましたし、料理長に伝えますわ」
「これからは、あまり質問攻めにするものじゃないぞ。イグニス様はお優しいから怒らなかったが……少し不機嫌になっておられた」
周りで兄妹の話を聞いていた側仕えたちも首肯している。
「分かりましたわ、次回は自重いたします。それにしても、ヴェルディのティオという方はどういった方なのかしら」
「神狼イグニス様が個人名を出して『タレの新作が楽しみ』と言うくらいなのだ。重要人物且つ重要アイテムなのだろう……」
「イグニス様は邪魔をするなと仰っていましたわ」
周囲のものたちも、確かに言っていたと思案顔になる。
「神狼イグニス様ほどの御方が、ただのタレに心を砕く訳もない!これは神託なのではないか?」
疑問に思う者もいるようだが、続けるエルネストの言葉にハッとするのだった。
「至高のタレとイグニス様は仰られた……至高とは行きつくところまで行った。この上ない高みということだ。その研究を邪魔するなと言う、それは至高のタレを守り育てよという事なのではないか?」
「たしかに……これは国家プロジェクトであり、神託と言えるのでは……」
「ルクレシア王国、至高のタレ守護隊……発足させるべきか」
「いえ。秘密部隊にするべきだと愚考しますわ」
それは飛躍しすぎじゃないかと周りは思ったが、二人の熱い語りに押されて何も言えないのだった。
「お兄様。イグニス様は『最高のタレ』とも言っていましたわ!」
その場にいた者は全員が「「「たしかに!」」」と、また頭を悩ますのであった。
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