第十三話 赤き神狼と王都ヴァルハイト
「最高のタレは味わったし、至高のタレも研究してくれてるっと。から揚げのレシピも教えたし、タレの街ヴェルディの今後が楽しみだな」
なんとなく軽快なスキップで、順調に交易都市ルーエンへ向かっている。
身分証のメダルもあるし、冒険者ギルドに行くしかないでしょー。
(街のルールも知れたし、貴族門でメダルを見せて入街!門番に冒険者ギルドの場所確認!完璧!)
一般の門を横目に、貴族門へとスマートに進む。
『ルーエンへ入街しますっ!』
「ここはルクレシア王国、王都ヴァルハイトでございます」
(なんでやねん!またか!でも、王都でも冒険者ギルドはあるだろうから、問題なしか?)
「もしかしましたら、特別な神狼フェンリルのイグニス様でございますか?」
『そうだとも、我がイグニスである!』
「やはりそうでしたか!姫様を救っていただき、ありがとうございました!」
『気にするな』
「直ぐに王城に連絡いたします!」
『いやいや、メダルで入れてよ!』
門番は見せられたメダルに驚き、王城の使いも直ぐには来ないだろうという事で、メダルで入街することにした。
『冒険者ギルドは何処にある?』
「東西南北の各門に支部はあります。登録や紛失は中央の本部で受け付けていますよ」
『ありがとう』
中央本部は各門からの道が交差した場所にあるらしく、貴族門からでも迷う事は無いそうだ。
左手に王城を目印にトコトコと歩いていく。商業区へと続く門を通ると、ヴェルディと違った趣の街が広がっていた。
『はー、さすが王都!なんか、建物も高いー』
間違って念話で話してしまい、大注目を浴びてしまった。
貴族門周辺だからか、品の良さそうな人が多い気がする。
冒険者らしき人たちをはっけーん。
『ちょっと冒険者ギルドまで連れて行って!』
そう、俺は学習したのだ。分からない事は人に頼るということを。
「あん!?なんだって……って、う、噂の……」
「あ、兄貴どうしやすか……」
『行くのか行かないのか?』
「もちろん。ご案内いたしますです!」
「こちらです」
二人の後をトコトコとついて行く。仲間を二人置き去りだけど良いのか?
学生っぽいし、迷子ではないだろう。
『二人は冒険者稼業はどのくらいだ?』
「俺は八年になります!」
「俺は二年っす!」
おっ、二頭立ての箱馬車!馬も黒で馬車も黒で合わせてるのか!渋いねえ。
金で獅子の紋章か、良いねえ格好いい。
「ここが冒険者ギルドになります!」
「っす!」
『なんだ、受付までじゃないのか』
「も、も、もちろん。受付まで案内します!」
五段の階段をトトトと上り、開け放たれたドアを潜るとガヤガヤとした広い空間だった。
壁には依頼の紙が貼られ、テーブルには粗野な男たちがたむろしている。
『ご苦労だったな、早く女仲間の所に戻ってやれ』
そう言うと男たちは、慌てて冒険者ギルドを出て行った。
そして、さっきまでガヤガヤとしていた冒険者たちは、静かにこちらを伺っていた。
トコトコと受付嬢の前に行き、カウンターに手をついた。
『冒険者登録を頼む』
「失礼ですが、神狼様ですよね?」
『赤き神狼イグニスである!』
「やはり」とか「やっぱりそうか」と後ろから聞こえるが、今は冒険者登録で忙しいんだから静かにしてほしい。
「申し訳ございませんが、身分証がないと冒険者登録は出来ないのです」
(フハハハハハハ!やはりそうきたか!)
『身分証あるぞ!』
キラリと光るメダルを受付けに見せる。何故かテーブルに座っていた者たちも覗き込んできた。
「うわっ、すげえ……」
「ふわふわ……」
「なでなで……」
『我の毛に触れるでない!』
どさくさ紛れに触れた者に威嚇をしておいた。バタバタと、三人がその場に倒れた。
『冒険者というのは、無礼者って書いて「ぼうけんしゃ」と読むのか?』
受付け周りがピリッとした空気に変わる。
「も、申し訳ございません。応接室へ移動しましょう」
案内された部屋は十畳ほどの部屋で、ごく一般的な応接室だ。
深めの器に何か分からない茶を出された。前世で言うところのルイボスティーって感じだ。
「まずは、冒険者たちが粗野な態度を取り、誠に申し訳ございません。今後このようなことが無いように教育致します」
『今回は不問にしよう。では、冒険者登録を頼む』
そう言ったところでドアがノックされた。
(もうなんだよ!さっさと冒険者証が欲しいんだってば!)
「失礼します。当冒険者ギルドのギルドマスターのゴードンです」
『イグニスだ』
(もう自己紹介ばっかで、面倒くさいよ!)
「イグニス様の冒険者証を、すぐに発行してくれ」
「はい。すぐにご用意しますね」
(なんだよ、すぐに作ってくれるなら文句は無い!)
「実はイグニス様に王城から使いが来てまして、王城まで来て欲しいそうです」
(えー、面倒くさいんだけどー)
「エルネスト殿下が、お礼をしたいと仰っておられるようです」
『誰だよエルネストって……』
「お助けになった、リリィ姫の兄上でございます」
『おー、あの子か!でも、行かないよ』
「えっ!?王城で歓待されますぞ?」
『歓待?……おもてなしかっ!美味いもん出るんだろうな?よし、行っても良いぞ』
ちょうど冒険者証も出来上がり、表に馬車が待ってるという事で移動した。
『よし!王城だな、遅れずに付いてくるんだぞ!』
***
「い、行ってしまわれた……」
令嬢は、神狼に連れられて行く二人組を見送った。
「助かりましたねお嬢様。先ほど絡んできた二人組、神狼様に連れていかれましたね」
「血の気が減って真っ青でしたわ。次からは護衛を付けますわ」
ガラの悪い二人の冒険者に絡まれ、どうしようかと思ったところでイグニスが現れ、危機を回避した二人はそそくさと貴族門を潜った。
あのままだと、何かの事件に巻き込まれる可能性もあっただろう。
「それにしても、噂の神狼様に助けていただけるなんて、お忍びも悪くないわね!」
「侯爵令嬢としての自覚を……」
侍女は額に手をやった。
***
ギルド前に残されたギルドマスターや受付嬢などは、神狼イグニスを追い掛ける王城の豪華な馬車を呆然と見送った……。
「乗らんのかい……」
誰が言ったのか、その一言にその場は爆笑に包まれた。
「それにしても、食材ダンジョンの噂も本当だったようだな」
「そうだな。ルーエン家のメダルを持ってたぞ」
「血縁以外で持ってるという噂すら聞いたことがない」
「それにあのモフモフの手触りが……」
「「「お前かい!!」」」
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