第十二話 赤き神狼とティオ
『こんにちはー、イグニスですけどもー。ティオいますかー?』
商業区にある青い三角屋根の商会前で、まずは声掛けから始めたイグニスでっす!
いきなり店に入ると、俺の神々しさにびっくりしたら困るからね。
なかなか繁盛しているようで……いいねいいね、商品が良くないとお客さんはこないからね!
これはタレの極秘開発プロジェクトも期待できるんじゃないか?
遅いからもう一度声を掛けようかと思ったところで、店から見覚えのある男が大慌てで現れた。
「お、お待たせしました。ティオ様は昼間は家業の牧場の手伝いをしていまして、こちらには居ないのです」
どうやらティオは居ないらしい。
『牧場は何処にある?』
「街の東の端です」
『牧場に行けば最高のタレはある?』
「ございます!極秘開発プロジェクトでは、最高のタレをベースに『至高のタレ』を極秘開発中でございます」
(最高のタレの上をいく至高のタレだと……最高じゃないか!是非とも至高のタレを完成させて欲しい)
『うむ。励めよ』
どうだこの威厳に満ちたセリフ!お偉いさんっぽいだろ。
でも、言葉だけじゃ伝わらないこともあるか……惜しいが肉を上げるか。
『から揚げにしたら最高の肉をやろう』
「か、から揚げでございますか?」
『ああ、味付けした肉を、熱した油でカラッと揚げた料理だ。おすすめだから食べてみるがいい』
カリッとしてジュワッとして最高なんだよなあ。
「あ、ありがとうございます」
「からあげ」と何度も呟く男に、味付けを教えながら鳥を取り出し上げると。
鳥の大きさにびっくりしているようだった。
一番小さいやつなのにな……。
(この道を道なりに行って、二軒目の牧場がティオの家かー。いよいよ最高のタレとご対面だー)
道なりに進むと、街壁を越えてしまった。辺りに民家は無いが、柵が張り巡らされそこには牛や羊などが放されていた。
(この辺りが牧場ゾーンなんだな。俺の牧場とは牛の顔つきが違うな……殺気が感じられないな)
街ではないし、タッタッタッタと軽快に駆けて行く。
『おっ!ここだなシュテルン牧場。入っても良いんだよな?入りますよー!』
ティオの牧場は、山の斜面の一部も放牧地のようだ。
区分けされた斜面に、牛が何頭も放されている。
放牧されてない区画は牧草でも育成中なんかな?
『こんちはー。ティオいますかー?』
放牧されていない区画で何か作業していた、おじさんに声をかけた。
「ティオは家に……って、もしやイグニス様!!」
『そうとも、我がイグニスだ!』
おじさんは、ひとしきり驚いた後礼を述べ、ご案内しますと家に招かれた。
「ティオー」
『ティオー』
***
「ティオ。こっちのリンゴで、酸味と甘みを出したらどうだろうか?」
「これは初めて見るリンゴだね!」
家の一室を、最高のタレの開発場所として親に提供してもらったティオは、手に入り得る食材で地道な努力を重ねていた。
「そのままのジャムを作って加えるのと、すりおろして一緒に煮込むのをやってみようかな」
「了解。じゃあ、そっちの梨も一緒に作業に取り掛かる」
「よろしく、ガストン叔父さん」
シュテルン牧場は大きな牧場だけあって、親族で運営されている。血縁だからか仲の良い家族だ。
「ティオー」
『ティオー』
頭に直接響くような声と、小さく聞こえる父の声にティオはハッとして部屋を飛び出した。
「イグニス様!」
玄関で、父に足の裏を拭ってもらっているイグニスが目に入った。一瞬何が起こっているか分からなかったティオだったが、気を取り直したようだ。
「お久しぶりです、イグニス様!」
『おー、元気そうだな。タレをもらいに来たぞ!』
「はい。最高のタレは直ぐにお渡しできます!そして」
『皆まで言うな、分かってる……至高のタレだろ』
発言を遮られ、告げられた『至高のタレ』という言葉に驚愕するティオだった。
息子が神狼に救われ、神狼に請われたタレ及び新しいタレを開発してるなんて誉を、黙っていられなかったのだろう。父親は涼し気な顔だった。
「どうぞ、お上がり下さい神狼様」
さすがというか、年の功だからなのか父親は神狼を家に招き入れた。
しかし、父の手が絶妙にぎこちなく動いているのをティオは見逃していなかった。
「あっ、そうですね、お上がり下さい」
『おじゃましまーす』
ここは牧場の家なので、生活圏は一段高く作られていて、土足厳禁だ。
『最高のタレで食べようと思って、肉持ってきた!』
「はい!拝見しますね」
ティオの返事を聞き、神狼は牛を出そうとした寸前で止まった。
『危なかった!ここで出したらえらい事になってたよ!』
「もしかして、まだ解体されてませんか?」
『獲れたてだ!』
ティオは思案し口を開く。
「今日はうちの牧場の牛を使って食べましょう!」
『この間のあの肉か!良いな!』
「では、用意してくるので少々お待ちください」
尻尾をブンブンと振る様子に目尻を下げ、ティオは応接間を出て行った。
「お待たせしました!」
『やった!』
神狼は尻尾を回す勢いで喜んでいる。
「こちらが最高のタレで焼き上げたもので、こっちが下味のみで最高のタレを付けてお召し上がりください」
『うまい!この間よりも美味いぞ!』
出された大きく切られた肉を、ペロリと平らげた神狼の前に次の皿が置かれた。
「こちらが最新版の最高のタレ五号になります」
『フルーティー!美味いが、現時点では最高のタレの勝ちだな』
「やはりそうですか……もう少しキリッとした食味を目指してます」
『悪くはないんだ。まだ一つにまとまってないな』
「ご意見ありがとうございました」
ティオは大きく頭を下げた。その瞳には、さらなる研究の意思が感じられた。
『長居したな、そろそろ行くとしよう』
そう言って玄関を出た神狼は、『これを上げる』と言って、アイテムボックスからドサドサと牛と豚と鳥を出して去って行った。
「い、行ってしまわれた……」
「牛や豚・鳥系統なのは確かだけど、これ、魔物だよね……しかも高位の……」
その場に置かれた魔物たちを見て呆然とするシュテルン家一同だが、そこは家業と無縁ではない、解体作業にすぐに取り掛かった。
夕刻になり、魔物の解体も終わった頃にマルーンが訪れた。
「あ、マルーンさん!さっきイグニス様が来られたんです!」
解体済みの肉を見てマルーンも、ここにも肉の施しをされたのだと瞬時に理解した。
「私には『から揚げ』なるものを伝授して頂きました」
「もしや、神狼様は豚や鳥にも新しい料理法があると暗に教えてくれたのでは」
「きっとそうです。神狼様の慧眼には感服します」
「私もです」
その場にいた者は頷きあい、瞳には強い意志が宿っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをいただけると、執筆の大きな励みになります!




