第十一話 赤き神狼とロードランナー
うしうしぶたぶたうしぶたぶた、どれにしようーかなー。
何の肉を食べるかに悩むイグニスでっす!
最高のタレが俺を呼んでるぜ!
ウキウキで跳んでいると、遠くにヴェルディが見えてきた。
「ちょっと待て!お前が赤き神狼イグニスだな!?」
えっと、メダルはあるし、肉も牛豚鳥を取り揃えた!あとはタレだけー。ヴェルディが近づいてきたから少し速度を緩める。
「ちょっと待て!イグニス!」
他に何か忘れてないだろうか?訪ねるのはヴェルディの少年ティオ!よし完璧。あとはヴェルディに入るだけだ。
さらに速度を緩めていく。
(最高のタレで有名なてぃおに会いに来た!よし、念話練習も問題なしだな)
「ちょっと待って。イグニスさん……」
変な声が聞こえると思ったら、後ろから追いかけてくる鳥さんがいた。
えー、ちっちゃい鳥さんなのに元気だなー。
『なんか用か?』
ゼェハァと息を切らしながら、鳥さんが目の前にきて止まった。
『俺様の名前は……神走ロードランナー…………世界一のスピードで走るかも?』
後半は何を言ってるのか聞き取れないが、自己紹介がしたかったのか?いや、そんなことで追いかけて来るはずがない!
『もしかして、最高のタレを狙ってんのかっ!』
「最高のタレ?」
『お前には渡さん!』
俺は全速力で街へと向かった。
あははは!俺には追い付けまい!
ヴェルディの門前で急ブレーキをかけて止まり、しっかりと列に並んだ。
数分後、鳥さんがやってきたが、残念!俺が先に並んでるから!
「まって……」
『横入り禁止でっす!マナーを守ってくださーい』
鳥さんは目尻に涙を湛え走り去った……。
(泣くほど、最高のタレが欲しかったのなら、分けてあげたのにな)
いよいよ俺の番だな、メダル用意!
「えっと、誰かの従魔かな?飼い主は後ろの君か?」
『従魔じゃない!イグニス!身分証のメダルもあるぞ!』
アイテムボックスから取り出し、門番に見せるとざわめきが起こり、門番同士で何やら揉めているようだ。
「イグニス様。この身分証では、ここから入街できません」
(な、な、なんだって!)
「こちらは一般用ですので、貴族様用の門に向ってください」
(へっ!?門に種類があんの?ここをちょっと行ったとこ?)
なんだよ、もう少しでエドヴァルドを恨むとこだったぜ。早とちり良くない!
貴族門は行列もなく、門番にメダルを見せると、すんなり通してくれた。
門番が微妙に緊張していたが新人さんなんだろう。がんばれ!
門を抜けると石と木で出来た建物が並んでいた。
(おー、文明を感じるー。なんか見慣れない景色にワクワクするな)
で、ティオはどこだろ?
いきなり行き詰ったんだが?
こんな時は簡単!
『ティオ!!会いに来たよ!!』
人通りの少ない道に衛兵らしき者が、各家から現れた。
槍を持ち、左右を確認している。
一番近いこいつに聞いてみるか。
『ティオ知らない?』
話し掛けるまでは槍を構えていたが、何かを感じ取ったのか槍を戻した。
「もしかして赤き神狼様ですか?」
『神狼イグニスとは俺の事だ。そんな事よりもティオ知らない?』
「ティオ様ですか?どこの家の者か分かりますか?ここは貴族街になります」
『最高のタレのティオなんだけど?』
衛兵は顎に手をやり考え込んだ。他家の衛兵も集まり、ティオを探してくれるようだ。
「どうやら、『最高のタレ』極秘開発プロジェクトなるものがあるようです」
(極秘開発プロジェクトなのに噂になってるとか、機密保持ガバガバですやん。居場所がわかって助かったけども!)
さらに美味しくしようとしてるとは、さすがティオだな。
最高のタレ極秘開発プロジェクトは、マルーン商会の建物でしているそうだ。
『商業区のマルーン商会だな。世話になったな』
衛兵たちに商業区へ抜ける貴族門を教えてもらい、トコトコとマルーン商会へ向かった。
衛兵が言うには、街中ではむやみに走らない方がいいらしい。
何か事件か何かだと思われるらしい。世知辛いねえ……。
(えっと……。青い三角屋根の大きなお店で、直ぐ分かるって言ってたな)
マルーン商会はたぶん、ティオをよろしくねって、お願いした商人だよね。
自分の商売のネタにティオを利用してたら、宣言通りに雷の刑に処す!
『こんにちはー、イグニスですけどもー。ティオいますかー?』
***
「くっそー!イグニスめ!」
砂煙を上げながら小さく足の長い鳥が、涙目で駆けている。
速度世界一を自負していただけに、最近噂に聞く赤き神狼に対抗心をメラメラと燃え上がらせていたロードランナーは、初めての接触に失敗して落ち込んでいた。
「たしかにあいつは早かったけど、早かったけどもだ!あいつ跳んでる!!あれは卑怯だろー」
怒りが収まらない様子のロードランナーだが、口から出る罵詈雑言の割には口角は上がっていた。
「えっと、ピョンピョンピョーンって感じだったか……。いや、ビュンビュンビュンって感じかな。こうか!」
ロードランナーはいつの間にか、イグニスに似たフォームで速度を出し始めていた。
「フフフフ。次会った時は覚悟しろよ。イグニス!」
イグニスに似せても所詮は真似事……。それ以前にイグニスに対するその憎しみは、憎悪というよりも憧れに近いという事に気付いていないロードランナーだった。
東門方面から、タッタッタと軽快な足取りで現れた赤いフェンリル。どうやら身分証が侯爵家のものだったため貴族門へ誘導されたようだ。
溢れるオーラを感じ、最近出回っている噂話を思い出した。
【赤き神狼イグニス】
数々の眉唾物の噂話だが、この姿を見れば納得もする。しかし、ただの門番や民には分からないだろう。
ある意味、気付かない方が幸せなのかもしれない。
「ようこそヴェルディへ」
緊張したがやり切った……今日は良い肉でも買って帰ってやろう。
そして、赤き神狼の話を家族に聞かせよう。きっと息子は目を輝かせて話に食いつくだろう……。
俺はグラハム伯爵家の衛兵をしている。ここはタウンハウスで現在は伯爵は領地におられる。そんな門裏の詰め所に念話が届いた。
『ティオ!!会いに来たよ!!』
なんだなんだと周りの家からも衛兵が飛び出てくる。
目に入ったのは緋色の狼……いや、この神々しさは神狼様か!
反射的に構えていた槍を引っ込める。敵対行動と取られないか心配だが、話し掛けてみよう。
「もしかして赤き神狼様ですか?」
『神狼イグニスとは俺の事だ。そんな事よりもティオ知らない?』
やはり、噂の緋色の神狼様だったか。
「ティオ様ですか?どこの家の者か分かりますか?ここは貴族街になります」
それにしてもティオ様とは?
『最高のタレのティオなんだけど?』
俺が話し掛けたことによって、他の衛兵たちも集まってきた。口々にティオ様について考察を語る。
するとバルトロメオ男爵家の衛兵が、噂話というか商業区で話題になってる話があるらしい。
神狼様に助けられた少年が、肉のタレを商会で大掛かりに開発しているらしい。
どうやら神狼様は、人間の食文化にも影響を与えているのか!」
「どうやら、『最高のタレ』極秘開発プロジェクトなるものがあるようです」
俺がそう言うと『極秘開発プロジェクトなのに噂になってるとか、機密保持ガバガバですやん』と、至極まっとうなことを言われた。これは確かにと納得するしかない。
商業区へと抜ける門を教えると、『マルーン商会』と何度も繰り返しながらトコトコと歩いて行った。
今日の報告書の大半は神狼様についてになるだろう。きっと、居合わせた衛兵の全てがそうだろう……。
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