第十話 赤き神狼と牧場
ザザッザッザッザザッザッザッザザッザッザッ
(はぁー、穴掘り楽しすぎる―)
数日洞窟に住んでみて分かったんだけど、洞窟って涼しいんだよね。
だからって、穴掘りしたらもっと涼しくなるなんて思ってないからね!
穴掘りするのは、この下の方に肉の気配がすんだよねー。しかも美味しそうなヤツ!
この気配の正体がやっぱり知りたいよね。美味い肉ならヴェルディに持っていけば、最高のタレで美味しくしてくれるだろう。
ドンドン気配が近づいている!
この先なんだけどなあ。この岩盤硬いなあ。
(そーーれ!!)
仕上げとばかりに、少し力を入れて掘ったら広い空間に出た。
(おー、こんなところに草原があるー。美味しそうな肉もいっぱいなんだがー)
ウハハハハ!アハハハハ!
(肉取り放題なんだが!)
黒い牛のようなヤツに突撃したら動かなくなる。そしたらアイテムボックスに入れるの繰り返しだ。
(神鹿なら死なないし、逆に睨んでくるのに牛は弱いな。ここは今から俺の牧場にしてしまおう!)
ひとしきり狩りをして楽しんだところで気が付いた。
ヴェルディでもルーエンの時みたいに、身分証の提示を求められるのかな?
いや、ヴェルディではティオを呼び出してもらえば良いんじゃん。
そっか、ルーエンでは知り合いがいなかったのが失敗だったんだな。
なら、バハムートにも肉持って行くか!うんうん。それが良いな。
こんなところで気付くなんて、もっと早くに気付くべきだった!
反省は大事!だけど後悔はしない!それがイグニス!
(肉もたっぷり収納したし、こんなもんかな。なんか階段があるし、上がっていくかな。)
上がった先には豚が溢れんばかりにみっちり詰まっていた。
(ちょ、これは増やし過ぎ!)
こういう時はこうすると良いんだよ。
『コラアアアアア!!!』
俺の咆哮にバタバタと倒れるブタをアイテムボックスに収納し、次の階段を上がっていく。
(なんだろ此処って美味しそうなのしかいないんだけど!)
次の階には大小様々な鳥が、地上にも空中にも大量にいた。
地上の鳥を蹴散らしながら、上空に威嚇をする。
ポトポトと落ちてくる鳥をアイテムボックスに収納するという作業に、面倒くさくなってきた。
(おっ。あれって冒険者ってやつじゃない?ここはフレンドリーに接していくべきだろう)
鳥を時間を掛けて倒してる者たちを発見した。
『こんちはー。精が出ますねー』
鳥を倒しきった冒険者たちは、俺の神々しさに言葉を失っているようだ。
なにか仲間内で話している、緋色の神狼様やら尊き方なんて聞こえてくる。
「神狼様でしょうか?」
魔術師っぽい格好をした女が訊いてきた。
『赤き神狼イグニスとは我の事だ!』
「会えて光栄です!ルーエンの冒険者仲間にも自慢します!」
『ルーエンか……我は入街できなかった』
わざと悲し気にそう言うと、冒険者たちはざわついた。
「なぜだかお聞きしても?」
『身分証が無いから入れないと追い返された』
ざわつきはさらに大きくなり、他のグループの冒険者たちも集まった。
「追い返されたのですか?」
『バハムートも入れるように言ってくれたのだが、頑として聞き入れてもらえなかった』
少ししょぼくれてそう言うと、冒険者たちは少しお待ちくださいと誰かを呼びに行った。
「イグニス様。お待たせしました」
冒険者たちが連れてきたのは身形の整った、冒険者というよりも騎士といった格好の者たちだった。
「お初にお目にかかります。ルーエン領主家嫡男エドヴァルド・ルーエンでございます」
おー、ルーエンの偉いさんきたー。これは威厳が大事だな!
『神狼イグニス。ルーエンの入街を断られた神狼だ』
少し神威を込めて言ってみたが、何人かは気を失ったようだ。しかし鳥たちも倒れたから差し引きゼロだろ!
「それは申しわけございません。こちらルーエン家の紋章メダルでございます。こちらをお見せ頂ければ、何処でも入ることは可能と思います」
是非我が家にもお立ち寄りくださいとメダルをくれた。
これ身分証になるってことだよね!?
『これ身分証になるってこと?』
「もちろんでございます。我ルーエン侯爵家が保証した証でございます」
そそくさとメダルをアイテムボックスに収納し、ふと思った。顔つなぎ大事。
『礼と言ってはなんだが、肉を分けてやろう』
俺はアイテムボックスから、牛と豚と鳥の美味しそうなやつを見繕って、エドヴァルドの前に取り出した。
おすすめの料理名も教えておこう。うんうん。これで好印象だね。
『じゃあ、またな!』
今回はしでかしてないので、悠々と先にある階段を上がって行った。
階段の先は外になっており、遠くにルーエンの街が見えた。
(肉も大量に仕入れたし、ヴェルディに向かうか!)
***
「い、行ってしまわれた……」
通称『食材ダンジョン』と呼ばれるこのダンジョンで、異変が報告されたのは一月前。詳しく調べたところ、スタンピードが起こる前兆だと分かった。
管理運営の冒険者ギルドと共同で、我ルーエン侯爵家騎士団とスタンピードの殲滅にやってきた。
食材ダンジョンは三層しかない比較的管理のしやすいダンジョンだが、弱い魔物も数が多くなると脅威度は跳ね上がる。
一層の強敵はコカトリス。強靭な足で蹴りを浴びせ、尻尾の蛇に睨まれたら石と化す……。
二層の強敵はハイオーク。巨体から生み出される棍棒の威力は岩をも砕く……。
三層の強敵はブラックミノタウロス。質実剛健とはこの魔物のためにある言葉だ、鋭い刃は通らず硬い皮膚を傷付けるだけ。二つの角は敵を巻き上げ致命傷を与える……。
そんな魔物たちを間引かなければいけない。このダンジョンは交易都市ルーエンの食糧庫であり、守らなければいけない。
ダンジョンを守ることはルーエンを守る事なのだ。これは命懸けの戦闘だ。
「一層の討伐を開始する!」
俺の号令と共に騎士団と冒険者たちが散開し、魔物と戦闘を開始する。
想定よりも魔物の数が増えていて苦戦を強いられる。
このままだと、二層なんて手がつけれない。三層なんて考える事すら出来ないだろう。
ジリ貧だなと考えていたところ、急に魔物の勢いが止まった。
「エドヴァルド様!何やら緊急事態のようです!」
「何があった?」
「それが……神狼様が現れ、スタンピードを鎮めてくれたそうなんです」
「それはもしかして、王子を助けた赤き神狼様か!?」
「そのようでございます」
「眉唾だと思っていたが、我らやルーエンまでも救ってくれるというのか……」
急ぎ神狼様の元へ行くと、噂に聞いた緋色のフェンリル様がいた。
その輝く赤き毛並みは唯一無二の美しさ、その慈愛のこもった眼差しは神狼の名に相応しいものだった。
「お初にお目にかかります。ルーエン領主家嫡男エドヴァルド・ルーエンでございます」
そう挨拶したが、緊張の為に噛まずに話すのにいっぱいだ。
『神狼イグニス。ルーエンの入街を断られた神狼だ』
えっ!?断られた?ご立腹なのか?周りの者がバタバタと倒れていく……。
どうにか、ご機嫌を損ねた事を挽回しないといけない!この威光はスタンピードどころではない!
「それは申しわけございません。こちらルーエン家の紋章メダルでございます。こちらをお見せ頂ければ、何処でも入ることは可能と思います」
是非我が家にもお立ち寄りくださいとメダルを渡した。
このメダルは、侯爵家の人数分しかない厳重に管理される貴重な物だ。
『これ身分証になるってこと?』
「もちろんでございます。我ルーエン侯爵家が保証した証でございます」
ルーエン家が後ろ盾になってもよろしいのですか?と寧ろ聞きたいくらいだ。
『礼と言ってはなんだが、肉を分けてやろう』
そう言って私の前に並べられたのは、死を覚悟して討伐をしようと誓った、ハイオークにブラックミノタウロスだった。これが三層の悪夢、ブラックミノタウロス……。
取り出された強敵の姿に驚く暇もなく、未知の言葉が続く。
えっ!?美味しそうだから、おすそ分け?えっ、トンカツ?ブラックミノタウロスは焼肉?最高のタレ?
『じゃあ、またな!』
そう言って、イグニス様は階段を颯爽と駆けて行った。
残された私たちはブラックミノタウロスなどの検分をし、冒険者たちに詳しい事情を聞き、確認のために二層へと向かった。
細心の注意を払い二層へ下りると、そこは平時の二層に戻っておりスタンピードの兆しもない。
三層も平時と変わらない……イグニス様はスタンピードを止めてくださったのだ!
入街を断られたことに怒りもせず、ただただ私たちのために。モンスターを狩り我らの重荷にならぬように、肉のおすそ分けという形で証拠を残してくれたのだ。
これで食材ダンジョンは守られ、交易都市ルーエンも守られた。
なんと謙虚で思慮深く、慈悲深い御方なんだ。
「神狼イグニス様。ありがとうございます」
そう手を合わせた私に続いて、その場の皆が手を合わせた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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