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このなかにひとりゆうしゃがいる  作者: 廃くじら


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3/5

第3話~レオポルド①~

「……聖剣も迷ってるのかもしれないね」


自分たち六人だけが聖剣を装備可能という異常事態を受け、吟遊詩人ナギはそんなことを口にした。


「高位の魔剣は意思を持つと聞く。聖剣であってもそれは同様だろう。突然六人がかりで引き抜かれて、聖剣自身も私たち六人の内誰が勇者か分からなくなっているのかもしれない」


その言葉は何ら根拠のあるものではなかったが、不思議と一行の胸に落ちた。


「それは逆に言えば聖剣に勇者だと認めさせることができれば、事実はどうあれソイツが勇者に決まるってぇことかいの?」

「……まぁ、可能性としてはあるんじゃないかな」


ナギ自身はあまり乗り気には見えなかったが、ハイドの言葉を否定しない。


つまり聖剣に対して『この人が一番勇者っぽいですよ』とアピールして認めさせることができれば、他の五人はこの状態から逃れられるかもしれないということだ。そういうことであればターゲットは決まっていた。


『じゃあ、リーダーで』

「言うと思った嫌に決まってんだろ!!?」


リーダーことレオポルドは勢いよく拒否するが、しかし他のメンバーの考えは一致していた。


元騎士で金髪碧眼の美青年。戦士としての才能に恵まれていて新人冒険者の中では頭一つ抜けた技量の持ち主。貴族として高等教育を受けており決して頭も悪くなく、その気になれば完璧な貴公子として振る舞うことも出来る。リーダーとしてよくパーティーをまとめており、他の冒険者との交流にも積極的。多少ヤンチャで責任を嫌うところはあるものの、レオポルドが能力・人格共に申し分ない人物だというのは衆目の一致するところだった。


「いいかっ!? 俺は絶対勇者じゃない! 万が一にも俺が勇者なんてことになったら間違いなく世界は滅びる! これは冗談でも何でもなく、マジだからな!!」


しかし本人は本気の表情でそう言って、断固拒否の姿勢を崩さなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


聖剣という厄介事を抱え込んでいようと、新人冒険者で大した蓄えもない彼らは働かなくては生きていけない。そして冒険者の仕事というのは不安定で、常に自分たちパーティーにとって都合の良いものとは限らない。特に新人冒険者に遺跡探索や魔物の討伐依頼が回ってくることは少なく、その仕事内容はちょっとした雑用や力仕事などが主体。レオポルドたちのような六人パーティーは常に全員一緒に行動するというわけにもいかず、月の半分くらいはバラバラに仕事を受けていた。


ちなみに六人の内、特に引く手数多なのは神官のヒルダと魔術師のシド。ヒーラーはどんな仕事でも腐ることはないし、在野の魔術師は極めて貴重だ。またヒルダほどではないにしろ簡単な治癒魔法を使え、剣も使える吟遊詩人オールラウンダーのナギもよく他パーティーから応援に呼ばれている。斥候のハイドも呪文遣いほどではないが探索系の依頼を中心にニーズがあった。


反面、不人気なのは戦士の二人。特別な技術を持たなくてもなれてしまうのがこの戦士と言う職業で、冒険者の中でその存在は飽和状態。そのため新人の戦士には一か月間土木作業しか仕事が回ってこないなんてこともざらだった。


とは言えレオポルドとキーアはそんな新人戦士の中では比較的恵まれた方だ。まずキーアは女性であるという一点で一定のニーズがある。男子禁制の依頼は意外に多く、女性戦士が必要とされる状況は一定数存在した。またレオポルドは元騎士ということもあり、ならず者揃いの冒険者の中では比較的信頼されやすかった。実力や実績に大きな差がないなら、ゴロツキのような見た目をした者と爽やかなイケメン、どちらに仕事を任せたいかは言うまでもない。人当たりの良い彼は同業者から応援を頼まれることも多かった。




「今日は急なお願いに対応していただいてありがとうございます~」

「あ、いやいやそんな……」


のんびりとした雰囲気のエルフの青年に頭を下げられ、レオポルドは困ったように頭をかく。これが単なるお礼なら「気にしないで下さい」と返して終わりだが、実はこのやりとりはもう十数回目。いつになったら終わるのかと内心辟易していた。


この日レオポルドはヒルダとシドと三人で他のパーティーが引き受けた護衛依頼にサポートで参加していた。話を持ってきたのは冒険者歴一年と少しの先輩パーティー。馴染みの商人に護衛を依頼されたものの、五人パーティーの内二人が別件で手が離せず、顔見知りだったレオポルドたちに急遽お鉢が回ってきた形だ。


先ほどからレオポルドにペコペコ頭を下げているのがリーダーでエルフの精霊遣いマイス。彼の他に商人の馬車を取り囲むように女戦士ラーン、斥候のカシスがいる。


「本当に助かりました~。いつもお仕事を頂いている依頼主なので何とかお引き受けしたかったのですが~、ルーイくんもイーノ先生も別件で手が離せなくて──」


全員が全員そうではないが、長命種で千年以上生きる者も珍しくないエルフには、このマイスのようにリズムとペースがズレた者が一定数存在する。彼らに悪意はないし、話の内容からしても善良な人格者であることは間違いない。だが既に半日近くこの中身のないお礼と謝罪に付き合わされ、レオポルドの忍耐は限界に達していた。


「あのねマイスさん。お礼とかもう結構なんで。無駄話は止めて仕事に集中しましょう」

「…………」


少しきつい言葉でマイスの言葉を遮ると、彼の目が大きく見開かれる。言い過ぎたかとレオポルドがフォローの言葉を続けるより早く、マイスはニヘラと笑みを浮かべた。


「そうですか~? いや~、レオポルドさんはやっぱり良い方ですね~」

「…………それほどでも」


気にしていないどころか通じていなかった。レオポルドは胸を襲う虚しさと諦念につい青く透き通った空を仰ぐ。


マイスのお礼攻勢は一旦収まったものの、代わりに今度は全く中身のない世間話が始まった。


「──というわけでして~、ギルド長のところの白猫ちゃんが子供を産んで、それが何と四匹でして~」

「…………はぁ」


溜め息混じりの相槌。


「いや~、レオポルドさんはやっぱり良い人ですね~。やっぱり騎士の方というのはレオポルドさんのように皆さん礼儀正しくて親切なんですか~?」

「は──」


適当に聞き流していると、合間にふとそんな質問が挟み込まれた。


不意を突かれた形になったレオポルドは、適当に誤魔化せばいいものを、ついまともに相手をしてしまう。


「……俺なんてそんな。騎士って言っても上司から辞めるよう促されて、実家からも勘当されたような人間ですから」


口にしてからすぐに後悔した。こんな話を対して面識もないエルフに話すなんてどうかしている。すぐ冗談だと撤回しようとし──


「そうなんですか~、大変ですね~」

「────ええ、まぁ」


あまりにマイスの反応がのんびりしているものだから、一々訂正するのさえ馬鹿馬鹿しくなる。


「何かお仕事で失敗でも~?」

「……まぁ、そんなところです」


そうやって投げやりになっていたからだろうか。パーティーメンバーにも語ったことのない己の過去を、肝心な部分はぼかしつつ口にしていた。


「何度も無謀な突撃を繰り返して、上から『お前は騎士に向いてない』って言われちゃったんですよ」

「? どなたかに迷惑をかけてしまったんですか~?」

「そういうわけじゃ──」


否定しかけて説明するのが難しいなと言葉に詰まる。


実際のところ、騎士団在籍中レオポルドがその“無謀な突撃”によって周囲に迷惑をかけたことは一度もない。そもそも彼がそうした行動に出たのはいつだって“他の誰かに危険が迫っている時”で、彼の行動はそれを救うためのものだった。事実、最初の頃はそれを注意されはしても、同時に感謝もされていたのだ。


だがそれを繰り返す内、周囲の目は徐々に変化していった。


「──今はまだそうなってないだけで、いずれ周りに迷惑をかけることになると思われたんでしょうね」

「む~? まだ起きてないことで叱られるのは酷いですね~」


のんびりとした口調のまま、少しだけ憤慨した表情でマイスがそんなことを言うものだから、レオポルドは思わず笑ってしまった。


「ははっ。いや、実際上司の言うとおりなんですよ。俺は性根が歪んでる。両親にもそのことを見抜かれて、跡取りには相応しくないって家を勘当されて──」

「…………」


そこまで言って、レオポルドはマイスがポカンとした表情で自分を見ていることに気づき、口を閉ざす。


喋り過ぎた。適当にお茶を濁そうと苦笑して改めて口を開こうとした瞬間、聞こえてきた必死の叫び声がそれを遮った。



「──助けてくれぇぇぇっ!!」



前方から荷馬車が凄い勢いで駆けてくる。叫んでいるのはその荷馬車の御者台に座っている商人風の男だ。


その男は荷馬車を走らせレオポルドたちの方に近づいてくると、御者台から転がり落ちるように駆け寄り必死の形相で縋りついてきた。


「お願いだっ! あんたらっ、どうか、助け……っ!!」

「落ち着け!」


異常に気づいてレオポルドたちの雇い主が男に駆け寄り声をかける。


「!? あんたパイロンさんじゃないか? 何があったんだい!?」


どうやら現れた男は雇い主の知り合いだったらしい。パイロンと呼ばれた男は雇い主に気づくと、彼の身体にしがみ付いて助けを求めた。


「ブルボンか!? ちょうどよかった、頼む! この先にオークが出た!」

『!』


強靭な肉体を持つ敵性亜人種の名に、まだ未熟な冒険者たちの緊張が一気に高まる。


「護衛の奴らが、俺を逃がすためにオークと戦ってる! 頼む、あのままじゃ、やられちまう! あいつらを助けて──」

「落ち着くのです!」


焦るパイロンの言葉をシドが遮る。


「まずそのオークと残った護衛の人たちの数を教えて欲しいのです」

「あ、ああ……」


シドがパイロンから敵に関する情報を引き出そうとしていた。状況が分からなければ助けに行くも何もない。例えばオークが一〇体以上いて残った護衛が五、六人という状況だったなら、自分たちが全員で救援に向かっても全滅する可能性が高いだろう。その場合は依頼人を守るためにその残った護衛を見捨てる判断をせねばならない、が──


──そんなこと許せるか……っ!


「あっ! リーダー!!?」


ヒルダが気づいて叫んだ時には、レオポルドは一人パイロンがやってきた方向に向かって駆けだしていた。


──俺以外の人間がそんな真似、絶対に認めねぇ!!

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