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このなかにひとりゆうしゃがいる  作者: 廃くじら


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14/17

第14話~ナギ①~

「大変だったわね~」

「……本当にな」


ヒルダの労いの言葉にレオポルドが取り繕う気力もなく深々と溜め息を吐く。その横でキーアとナギも似た表情でコクコクと同意していた。


今彼らがいるのは行きつけの酒場の個室。一行は五日前、突如森の中に現れ消失した巨大トレントにまつわる後始末が一段落し、その慰労会を開いていた。


あの一件にはレオポルドたち以外にも数多くの冒険者が関わっており、後始末も冒険者ギルド総出での大仕事。レオポルドたちも森から逃げ出した魔獣の駆除に駆けずり回っていた。


後始末には元の依頼に不参加だったヒルダたちも協力していたが、巨大トレントの出現を目の当たりにし、魔獣のスタンピードに巻き込まれ死にかけてから息つく間もなく働き続けていたレオポルド、キーア、ナギの精神的疲労はヒルダたちの比ではない。ヒルダたちは彼らを労わるようにそっとグラスに酒を注いだ。


結局この一件では冒険者に二〇人近い死者が出ており、引退に追い込まれた者を含めると倍近い冒険者がギルドを去っていった。街全体を暗い空気が覆い、普段冒険者で賑わっている酒場もお通夜のような雰囲気だ。一行も周囲の目を気にして普段使わない個室を利用し、普段より口数少なく互いを労い合った。


「結局、例のトレントが出現した理由も消えた理由も分かってないんだっけ?」


ある程度お腹が膨れて、酔いもほどほどに回ったタイミングでヒルダが先の一件について触れる。


「学院と知識神神殿の専門家が現地を調査しているそうなのですが、今のところ原因は分かっていないのです。状況的に大地から突発的に大量の瘴気が噴き出したんじゃないかと言われているのですが、だとしたらどうしてその瘴気が消失したのかという疑問にぶつかってしまって喧々諤々の議論の最中らしいのですよ」

「ふむん? 結論は直ぐには出そうにない感じかの?」

「ですね。近々、中央からも調査員が派遣されてくるんじゃないかと思うのです」


巨大トレントの存在は消失した後も街に暗い影を落としていた。巨大な魔樹の威容はこのバイカルの街からも目撃されており、原因が不明なだけに住民たちはいつまたあのような化け物が出現するのではないかと不安を抱いている。


「実際に近くでモノを見たリーダーたちの感想は?」


ヒルダはチラと個室の入口に視線をやり、扉の外に人の気配がないことを確認してから続けた。


「その……例の聖剣アレと何か関係があると思う?」

『…………』


この一件で、彼らが悩んでいたのはこれだ。


一月近く前に彼らがうっかり引き抜いてしまった聖剣。大いなる災いを打ち払う勇者の武器として伝わるそのアーティファクトを抜いて間もないタイミングでこのような異常事態が起きたのだ。聖剣と巨大トレントの出現に何か関連があるのでは──自分たちのせいで今回の一件が引き起こされたのではないかと不安に思うのは当然のことだった。


「……正直、分からん。あれは本当に世界の終わりみたいな光景だった。あれが大いなる災いだって言われたら納得するしかないぐらいにな。だけど──」

「うん。もしそうだとしたら、どうしてあんな風に突然消えてしまったのかって疑問に立ち戻る。例の聖剣アレはことが起きていた最中、ずっとヒルダたちの手元に在ったんだろう?」


ナギの確認にヒルダがハッキリと頷く。


「ええ。それは間違いない」

「あれが大いなる災いだとしたら、聖剣アレが一度も振るわれることなく解決したっていうのはおかしくないかい?」

『…………』


ナギの言葉に一行は黙り込んだ。状況的に何か関係がありそうな気はするが、しかしただの偶然ということも十分にあり得る。何とも微妙な相関だ。


キーアがずっと何か言いたげな素振りを見せてはいたが、思考の海に沈む一行はそれに気づかなかった。


「──分からん。情報が少なすぎる」


お手上げだとレオポルドが両手を挙げて嘆息する。そして話題を切り替えるようにシドたちに話を振った。


「そっちはどうだったんだ? 聖剣アレについて何か分かったのか?」


ヒルダ、シド、ハイドの三人が先の駆除依頼に不参加だったのは、学院の設備を借りて聖剣について詳しく調査する為である。


その問いかけに三人は顔を見合わせ、代表してヒルダが口を開いた。


「悪い報告と微妙な報告があるけど、どっちから聞きたい?」

「良い報告はないのかよ……ま、いいや。先に悪い方から教えてくれ」


本当に悪い報告なら聞く前に向こうから言ってきているだろうと、レオポルドは腹を括る。


「結論から言うと、例の聖剣アレを私たちに紐づけてる魔術契約だか呪いだけど、解呪は不可能だということが判明したわ」

「……なるほど、悪い報告だ」


レオポルドが嘆息する。元々この調査の主目的は自分たちと聖剣との繋がりを絶ち、聖剣を手放すことだったのだから、それが叶わないというのは誰がどう考えても悪い報告だ。


疲れた様子で天井を見上げるレオポルドに代わってナギが話を引き継ぐ。


「一応、理由を教えてくれるかい?」

「学院の機器で分析したところ、私たちと例の聖剣アレの繋がりは、年代測定で一万年以上前に編まれた術式であることが分かったの」

「それって……」

「そう、まだ天地創造の女神以外の神が存在しない神代の黎明期。単に聖剣にマーキングされたって程度ならまだ解呪の見込みはあった。でも女神が編んだ術式がベースになっている以上、解呪は絶対に不可能よ。女神は他の神々の上位存在なんだもの」


現代において多くの人々に信仰されている光の神々というのは、太古の昔に女神によって神の座へと引き上げられた元人間である。この世界で最も解呪を得意とするのは僧侶の奇跡とされているが、例え光の神々を降臨させてその力を借りたとしても、女神の力に対抗することはできまい。


ただしこれは悪い報告ではあるが最悪ではない。元々そうした可能性は覚悟していたので予想の範疇ではあった。


ナギは気持ちを切り替えて続ける。


「それで、微妙な方の報告は何だい?」

「聖剣の機能が一部解放されたのです」


ヒルダに視線でバトンを渡され、説明を引き継いだのはシドだった。


「機能の解放? 判明とかパワーアップとかではなく?」

「ええ、実際に見てもらうのが早いのです──『来い』」


──ヒュポッ!


『!?』


シドがそう命じた瞬間、その手の中に長屋に置いてきたはずの聖剣が突然出現する。初めてその現象を見るレオポルド、ナギ、キーアの顔が驚愕に歪んだ。


「こんな感じて、呼べば来るようになったのです。あと、ここでは見せれないのですが、ピカピカ光って瘴気を浄化したり魔術を解呪する機能も生えてきたのです」

『…………』


ナギたちは顔を見合わせ、絞り出すように疑問を口にした。


「……元々あった機能に気づいたんじゃなくて、解放されたと考える根拠は?」

「シドたちの頭の中にそのイメージが伝わってきたのです──例の巨大トレントが消失して暫く経った後に」

『…………』


これまた微妙な話だ。


「……大量の瘴気に反応した、とかそういうことかな?」

「分からないのです。ひょっとしたらあのトレントと聖剣アレの機能の封印が関わってたかもしれないのですよ」

「あんな毒々しい魔物が聖剣アレの封印に関わっていたと?」

「逆に聖剣アレがあの魔物を封印していて、封印に割いていたリソースが解放されたという線も考えられるのです」

「なるほど。封印が解けた魔物が勝手に消えたことに説明がつけば、筋は通るかもしれないね」

「…………」

「…………」


二人は何故聖剣の機能が解放されたかについて意見を交わすが、結局これといって有力な説は思いつかなかった。


「……ふぅ、確かに微妙な報告だ。解放された機能は使い方によっては役立つかもしれないが、裏を返せば何か厄介事に巻き込まれるリスクが高まったとも言える」


ナギの総括にレオポルドやハイドは「うへぇ」とウンザリした表情で舌を出す。


先の見通せない状況に疲弊した空気が流れる中、シドが少し言い辛そうにその話題を切り出した。


「げんなりした気分のところ申し訳ないのですが、シドたちにはもうあまり時間の余裕がないのです。これからどう動くか、今のうちに決めておきたいのですよ」

『…………』


シドの言葉に一行は顔を見合わせ、代表してレオポルドが口を開く。


「それはつまり、そろそろ聖剣消失ふんしつの件が国のトップまで伝わって調査の手がこっちに伸びてくるかもしれない、って話か?」

「はいなのです」

「ナギの予想だと早ければ一か月ぐらいでトップが動き出すんじゃないかって話だったよな。確かにそろそろそれぐらい経つけど、あれはあくまで最短での話だろ? 向こうもなくなった聖剣アレがピンポイントにここにあるって確信して動けるわけじゃないだろうし、具体的に動いてるって情報があるわけでもない。そこまで焦らなくても良くないか?」


やや呑気とも言えるレオポルドの意見にシド以外のメンバーが同意するように頷く。しかしパーティー最年少の魔術師はキッパリと首を横に振った。


「それはあの巨大トレントが出現するまでの話なのです」

「? あれと王国の動きが何の関係があるんだ?」

「想像してみて欲しいのですよ。聖剣消失ふんしつの話を聞いて混乱し、どこから調査すべきか困っていた王国のトップ。そんな時、タイミングを同じくして国内で天を突くような巨大なトレントが出現し、しかもその直後に跡形もなく姿を消したのです。その話を聞いた彼らはいったいどう考えると思いますか?」

『…………あ』


シドの指摘に一行が異口同音に呻き声を漏らす。


つい先ほどまで彼ら自身がそれについて話をしていたのだ。王国の上層部がその可能性に気づかない筈がない。


「……つまり、例の聖剣アレを抜いた誰かが、あの巨大トレントを倒したと考えて現地に調査に来る?」

「恐らく、なのです」

『…………』


しばしその場に沈黙が流れ、最初に口火を切ったのはヒルダだった。


「え? ヤバいじゃない! そういうことならとっととこの街を離れないと!」

「落ち着かんか、ヒルダ。そんな単純な話ならシドが先にそう提案しとるわい──そうじゃろう?」


ハイドの言葉にシドが頷く。


「はいなのです。むしろこのタイミングでこの街を離れるのはリスクが高いと思うのですよ」

「どうしてよ?」

「目立つからなのです。聖剣アレを抜いた人間が名乗り出ていない以上、王国上層部はシドたちが逃げていることに気づいている筈なのです」

「──ああ、なるほど。となれば当然、冒険者の出入りはチェックされるだろうし、このタイミングで街を離れた冒険者がいれば怪しまれない筈がない、か」


ナギの言葉をシドは深々と頷き肯定した。更にハイドが顎を撫でながら補足する。


「……ふむぅ。今この街の雰囲気は最悪じゃが、見方を変えれば儂ら冒険者にとっては稼ぎ時じゃ。このタイミングで逃げるとなると確かに目立つじゃろうなぁ。ギルドのデータはどこぞの台帳と違って改竄できるもんじゃないし、儂らの居場所はギルドに照会すれば筒抜けじゃ」

「だな。それに今後も冒険者を続けるつもりなら今この街を離れるのはうまくないぜ。もしこの状況で理由もなく街を離れれば、俺らはこの業界で『化け物にビビッて街を見捨てた腰抜け』ってレッテルを貼られることになる」

「う~ん……」


ハイド、そしてレオポルドの言葉に、ヒルダは腕組みして唸る。


そのまま一同が沈黙し考え込んでしまったのを見て、この場で結論を出すのは不可能だと判断したシドが話をまとめた。


「街に残るのも離れるのもどちらもリスクはあるのです。実際にこの街に調査の手が及べば逃げるしかないですが、その前に考えなきゃいけないことがあると思うのですよ──このままこのメンバーで冒険者を続けるか否かも含めて」

一先ずラストまで書き終えました、


台風が接近してお暇な時間にでも読んでいただけるよう、明日ラスト3話投稿します。

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― 新着の感想 ―
 キーアが前回瘴気を払ったことで聖剣の権能が解放された?  いわゆる「善行」に属する行いを続ければそれこそ探知もされず視覚的にも隠蔽できるようになって安全確保できるようになる?  「善行」を継続させる…
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