表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このなかにひとりゆうしゃがいる  作者: 廃くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/17

第12話~キーア①~

「悪いっ! デカいのが行ったぞ!」


最前線で戦っていた先輩冒険者が警告を飛ばす。見ると赤黒い瘴気を纏った巨大な猪が前線の隙間を突破してこちらに向かって突撃してきていた。後方で包囲網を敷き、主力が打ち漏らした魔物を始末していたレオポルドたちに緊張が走る。


「リーダー! 足止め!!」

「応!」


この場にいるのはレオポルド、キーアの戦士二人と吟遊詩人ナギの計三人。援護役に徹しているナギの指示でレオポルドは持ち込んだ弓で魔猪を狙い撃った。


普段は剣と盾を持ちタンク役を担うことが多いレオポルドだが、元騎士ということもあって弓でも槍でも一通り扱える。今日はメンバー構成と依頼内容を踏まえ弓矢をメインに使用していた。


──ビュン!!


レオポルドが放った強弓は正確に魔猪の頭部に命中するが、分厚い上に瘴気で強化された毛皮を貫くことができない。


「クソッ!!」

「そのまま続けて! キーアはステイ! 飛び出さない!」


槍を持って突撃しようとしていたキーアがナギの指示で踏みとどまる。


レオポルドは続けざまに矢を放つが、碌にダメージを与えることも突進の勢いを緩めることも出来でいない。


魔猪との距離が一〇メートルほどに縮まり、戦士二人の身体に緊張が走る、と──


「『大地よ 悪戯な見えない小人よ ちょいとソイツの足をすくってくれるかい──【落とし穴(ビット・フォール)】』」


射程に入ったタイミングを見計ってナギが呪文を発動。地面がボコリと抉れバケツ大の穴が空いた。


──ズボッ!


『グモオォッ!??』


矢に気をとられ足元への警戒が疎かになっていた魔猪は穴に足が嵌って勢いよく転倒。魔猪は勢いのまま地面を転がり、穴に嵌った前足はあり得ない方向に曲がった。


「キーア!」

「うん!」


そこで改めてキーアが突撃。


──斬ッ!!!


パーティー随一の破壊力を誇る少女の槍は、よろめきながら立ち上がろうとする魔猪の太い首を一刀のもとに両断した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


この日、レオポルド、キーア、ナギの三人は冒険者ギルドから発せられた大規模依頼に参加していた。


依頼内容はバイカルの街にほど近い森で大量発生した魔物の駆除。まだ具体的な被害が出たわけではないが、放置すれば今後街や近隣の集落にどんな影響がでるか分からない。事態を把握した領主から駆除依頼が発せられ、ギルドからも手の空いている冒険者は可能な限り参加するよう通達があった。


ただし今回ヒルダ、シド、ハイドの三人は不参加。僧侶であるヒルダと魔術師であるシドは以前から自分たちに付きまとう聖剣との繋がりを解呪すべく動いており、その調査のために予約した実験施設の日程が偶々駆除依頼と重なってしまったのだ。


悩んだ末に二人は聖剣の調査を優先。戦闘向きではない斥候のハイドもそれならと二人の手伝いに回って駆除依頼を辞退した。




魔物が発生した森はかなりの広さで、駆除依頼は一〇〇人以上が動員され一日がかりで行われる。


午前中の仕事を終え、森から少し離れた場所で他の冒険者たちと一緒に昼食休憩をとっていた折、分厚いベーコンサンドにかぶりついていたキーアがふと思いついた疑問を口にした。


「……今更かもしれないけど魔物って何なのかな?」

「どうしたいきなり?」


レオポルドが干し肉をナイフで削り、黒パンに乗せながらキョトンと問い返す。


「そう言えば私、今まで何となく雰囲気で魔物って言葉を使ってたけど、実際はどういう意味なのかなと思ったの。ほら、今日の依頼は『魔物化した獣の駆除依頼』だけど、私みたいな鬼種は地域によっては魔物扱いされることもあるでしょ? あと、魔族と魔物の区別も結構ごちゃごちゃだよね」

『…………』


キーアの疑問にレオポルドとナギが顔を見合わせる。


貴族出身で高等教育を受けてきたレオポルドは勿論、吟遊詩人として見識が深いナギにとってそれは一般教養の範疇。だがキーアのように魔物という言葉の具体的な定義を理解してない者は実のところ意外と多かった。


二人はどちらが説明するか視線を交わし合い、小食で既に食事を終えていたナギが口を開く。


「……そうだね。キーアはオーガの血を引いているわけだし、その辺りの言葉の使い方は覚えていた方がいいだろう。簡単に言うとね、魔物という言葉は学術的な狭義の意味合いと、魔物になりやすい種族まで含めた広義の意味合いと、二つの使われ方をしているんだ」

「がくじゅつてきと、なりやすい……?」


よく分からないと首を傾げるキーアに、ナギは微笑して続けた。


「まず魔物という言葉は狭義においては『瘴気に汚染され凶暴化した生物』の総称だよ。さっき僕たちが駆除した猪や鹿、野犬なんかがこれにあたる。どんな生物であれ長期間瘴気に触れていれば魔物化する可能性はあるし、人族が魔物化することだってないわけじゃない」


魔物化した生物は従来より遥かに強靭な肉体と魔力への適性を獲得する代償に理性を喪失し凶暴化してしまうのだが、ナギはその説明を省いた。


「そうなの? でも私、魔物化したヒューマンとか見たことないよ?」

「それはヒューマンを始めとした人族が瘴気を祓う光の神々の加護を授かっているからさ。よほどの不信心者か悪徳に堕ちたものでもない限り、基本的に人族が魔物化することはない」


そうした理由もあり人族の多くはいずれかの光の神々の宗派に属している。実際には真の意味での信徒などほんの一握りだが、それでも折に触れて神に祈るだけでも瘴気を祓うという点においては十分な効果があった。


ちなみにレオポルドは戦神、シドは知識神、そしてヒルダとハイド、ナギは交易神を信仰している。


「逆に言えば、光の神々の加護がない者は瘴気に侵され魔物化しやすいということでもあってね。ゴブリンやオークのような亜人種はそれ自体は厳密には魔物というわけじゃないんだけど、魔物化しやすい種族ということで一括りにそう呼ばれることが多いのさ。……あ~、つまりキーア。君のようなその──」

「私みたいな鬼種オーガもその括りってことだね」

「……その通りだ」


父親が鬼種だというキーアは半分ではあるがその血を引いている。地域によっては迫害を受けることもあるが、当の本人は気にした様子もなくあっけらかんとしていた。


「ただ鬼種はゴブリンあたりと比べれば比較的魔物化のリスクは低いとされているし、ウチのパーティーには神官のヒルダがいるからね。君が魔物化することはまずないから安心して良い」

「うん、分かってるよ。心配してくれてありがとうね」


キーアはニコリと笑って話題を変えるように別の疑問を口にした。


「魔物と魔族はどう違うの?」

「厳密には魔族も魔物の一種だよ。魔物化しても理性を保っているものを特に魔族と呼ぶんだ。だからそもそも知性が低い獣なんかが魔族になることはない。言うまでもないことだけど、瘴気によるブーストとそれを使いこなす知性を兼ね備えた魔族は並の戦士では太刀打ちできない本物の化け物だ。見かけても決して近づいちゃいけないよ? ちなみに魔族の中でも更に強力な個体は魔王なんて呼ばれることもあるね」

「魔王……」


魔王という単語に微妙な反応を見せるキーアに、ナギが片眉を上げる。


「……何か気になることでも?」

「そういうわけじゃないんだけど……ほら、例の聖剣アレって、女神さまが魔王を倒すために作ったって説があるんでしょ?」

「ああ、うん。そういう話もあるにはあるね」


周囲には他の冒険者もいるため、彼女たちは聖剣という言葉をぼかす。


ちなみに聖剣が魔王を倒すためのものだという説に何か具体的な根拠があるわけではない。ただ他に聖剣が振るわれるべき対象が他に思い当たらず、聖剣はいつか現れる強大な魔王を倒すために女神が授けたものだという説は人々の間で根強くあった。


「そもそも女神様ってこの世界を創った一番すごい神様なのに、何でそんな回りくどいことしたのかなって思って……最初から魔物や魔族なんて生まれないように創れば良かったんじゃないの?」

「────」


その素朴な疑問にナギは意表を突かれた様子で目を丸くする。そしてすぐに破顔してその疑問に答えた。


「それは女神本人に聞いてみないと分かりそうにない疑問だね。ただ、僕は個人的には女神はそうしたくでもできなかったんじゃないかと思ってる」

「何で?」

「勿論、かの女神が他の光の神々より強い力を持っていたことは確かだろうけど、何かを創ることと、その創った何かが完璧であることとの間には天と地ほどの隔たりがあるだろう? 別に天地創造の女神と言っても全知全能の存在ってわけじゃなかったんじゃないかな──と、こんなことを言ったら女神の信者に刺されてしまうね」


なるほど、とキーアはナギの説明に頷く。


キーアも料理は作れるが、料理人プロのように美味しくは作れない。女神は料理下手だったんだ、と勝手に頭の中で話を展開した。


ナギはそんなキーアの頭の中など知る由もなく、肩を竦めて続けた。


「その意味で、魔物化は女神でも解決しえなかった世界の矛盾の一つだ。ひょっとしたら本当に例の聖剣アレにはそれを解決する力が秘められているのかもしれないね」

「……キーア。お前、妙に魔物化に引っかかってるみたいだけど、知り合いとか家族で心配な人でもいるのか?」


食事を食べ終わったレオポルドが口を挟む。


レオポルドは、もし身内に魔物化の懸念がある者がいるなら光の神の神殿に行ってお祓いを受けるようアドバイスするつもりでそう口にしたが、デリカシーのない話の持っていき方に横で聞いていたナギは思わず顔を顰める。


幸いキーアはレオポルドの物言いに気を悪くした様子もなくアッサリ首を横に振った。


「ううん。ただもし例の聖剣アレが魔物っていうか、鬼種わたしたちへの特攻みたいなのがあるなら、リーダーに頼んでウチのお父さんやお兄ちゃんたちをぶっ飛ばしてもらおうかと思っただけだよ」


その言葉にレオポルドは思わずナギと顔を見合わせる。


「……今までキーアの家族の話とか聞いたことなかったけど、親父さんや兄弟と仲悪いのか?」

「言ったことなかったっけ? 私、家族と喧嘩して家出してきたんだよ」

「初耳だ。な?」

「……そうだね。色々センシティブな事情があるのかなと思って今までキーアの家族の話は一度も聞いたことがなかった」


レオポルドの言葉にナギが頷く。


「そうだったの? でも別に皆が気にするようなことは何もないよ。単にお父さんが脳筋で、お兄ちゃんたちもみんな乱暴だから一緒にいたくなかったってだけだもん」

「お兄ちゃんたち、って兄弟は多いのか?」

「うん。私は末っ子で、私以外は男ばっかり17人。何でお兄ちゃんってあんなに横暴なんだろ?」

「…………」

「どうしたんだい、リーダー? 突然暗い顔をして?」

「いや、ひょっとして俺も実家にいた時、弟からそんな風に思われてたんじゃないかと不安になって……」

「え? リーダー、お兄ちゃんだったの? 弟さんってどんな人?」

「どんな人って──」


そんな風に食事を終えた三人がダラダラと歓談していると、森を監視していた部隊が緊張した声音で休息中の冒険者に警告を発した。


「全員すぐに準備しろ!! 何かやべぇのが来るぞ!!」


直後、辺りに異様な地響きが鳴り──森が、起き上がった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時は少しだけ遡る。冒険者たちが魔物の駆除を行っていた森の中で、一人の若い男が佇んでいた。その足元には哨戒中だった冒険者パーティーの遺体が転がっている。


「……ふん。所詮は人間、この程度か。これならオレがわざわざ手を下すまでもないな」


そう言って彼は直ぐ傍らの巨木に触れ、そこに視認できるほど濃密な()()を注ぎ込む。


──ズゴゴゴゴゴ……ッ


地鳴りと共に立ち上がる木々の枝に飛び乗り、側頭部に隆々たる二本角を生やした男は腕組みしたまま不機嫌そうに呟いた。


「愚妹め。余計な手間をとらせおって」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 このパーティを囲い込む、或いはひとまとめにして監視・管理をし易くするために「聖剣」で縛った?  まー今の段階では空想妄想の域を出ませんね。  キーアは鬼種の中でも「いいとこ」のお嬢さんである可能性…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ