繰り返される悪夢
約束の日。
春の陽射しが優しく降り注ぐ、駅前のカフェの前。
蒼は少し早めに着いて、ベンチに座っていた。
スーツの上にコートを羽織り、手には小さな花束——
詩乃が好きだと言っていた、白いカスミソウ。
心臓が少し速く鳴っていた。
詩乃との「ご飯」の約束。
あの酒の夜以来、蒼は少しずつ、詩乃に心を開き始めていた。
メッセージのやり取りが増え、一緒にランチをする日もあった。
詩乃の笑顔が、凛の影を優しく包みながら、新しい光を灯す。
蒼はもう、詩乃への想いを否定できなくなっていた。
今日、少しだけ本音を話そうと思っていた。
「詩乃、君のことが好きだ」
待ち合わせの時間。
時計の針が約束の時刻を指した。
でも、詩乃は現れない。
5分。
10分。
15分。
蒼はスマホを握りしめて、メッセージを送った。
「着いたよ。待ってる」
返事はない。
胸の奥に、小さな不安が芽生えた。
30分経った頃、スマホが鳴った。
着信。
知らない番号。
蒼は、反射的に出た。
「はい」
電話の向こうから、落ち着いた、でも緊迫した声。
「蒼様ですか?こちら、○○病院です。
詩乃さんが、交通事故で搬送されてきました。
ご連絡先が緊急連絡先に登録されていたので……すぐに来ていただけますか?」
世界が一瞬で音を失った。
蒼の耳に、あの日の病院のサイレンが重なる。
凛の事故。
雨の夜、
突然の電話。
「恋人が事故で……すぐに来てください」
過去のトラウマが、完璧に再現された。
手が震えた。
花束が地面に落ちた。
蒼は無我夢中で走り出した。
タクシーを拾い病院へ。
頭の中は真っ白。
「また、失うのか」
「また、引き裂かれるのか」
「詩乃、詩乃、頼む、無事でいてくれ」
タクシーの中で蒼は、拳を握りしめて祈った。
凛の顔と、詩乃の顔が重なる。
似ているから、こんな運命なのか。
愛そうとしたから、また奪われるのか。
涙が溢れた。
病院に着いたとき、蒼は受付に駆け寄り、声を震わせて聞いた。
「詩乃……詩乃さんは、どうですか?」
看護師の言葉が、蒼の心をさらに引き裂く。




