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現れたのは、3年前に事故で失ったはずの恋人…?  作者: ネロ
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3/11

酒の夜の告白

詩乃の「グイグイ」は全く止まる気配がなかった。

毎日のように会社の近くで待ち伏せしたり、メッセージを送ってきたり、「今日のランチ、一緒にどう?」と誘ってきたり。

蒼はいつもと同じように、穏やかだが冷たく、断り続けた。

「すみません、仕事が」

「今日は予定が」

「また今度」

でも、心の中では少しずつ揺れていた。

詩乃の笑顔が凛に似ているたび、胸が痛くて、温かくて、切なくて。

彼女の明るい声が、灰色の日常に小さな光を灯す。

一緒にいると、少しだけ息がしやすくなる。

でも、すぐに恐怖が襲ってくる。

この人を好きになったら、また失うかもしれない。

新しい絆を作ったら、凛の記憶を薄めてしまうかもしれない。

忘れたくない。

失いたくない。

愛したいのに、愛せない。

その板挟みに、蒼は夜毎一人で苦しんでいた。

酒を飲む量が増えた。

アパートに帰って、缶ビールを何本も空けて凛の写真を眺め、「ごめん」と呟く。


そんなある夜、蒼はバーで、深く飲んでいた。

カウンターに突っ伏すように座り、ウイスキーをストレートで煽る。

そこに、詩乃が現れた。

「蒼さん!こんなところで会うなんて、縁がありますね!」

いつもの明るい声。

蒼は酔いのせいか、いつものように逃げなかった。

詩乃は隣に座って、

「一緒に飲んでいいですか?」

と笑った。

蒼は無言で頷いた。


二人は、静かに飲み始めた。

詩乃は他愛ない話をした。

仕事のこと、最近見た映画のこと、好きな食べ物のこと。

蒼は、ほとんど相槌だけ。

でも、酒が進むにつれ、蒼の口が少しずつ開いていった。

「蒼さん、いつも遠慮してるみたいだけど、私、何か嫌なことしましたか?」

と、真剣な目で聞いたとき。

蒼はグラスを握りしめて、ぽつりとこぼした。

「……違う。君は、昔の大事な人に似てる。

三年前、事故で失った恋人に」

詩乃は黙って聞いていた。

蒼は酒の勢いで、初めてすべてを話した。

凛との出会い、幸せな日々、突然の事故、病院で握った冷たい手、それからの喪失の恐怖。

「誰かを愛したら、また失うかもしれない。

大切に思ったら、また引き裂かれるかもしれない。

そう思うと、怖くてたまらない…

だから、関われない。

君に近づいたら、また同じことが起こるかもしれない。

それに……新しい人を好きになったら、あいつの記憶を上書きしてしまう気がする。忘れたくない。

あいつのことを、胸から消したくない」

声が震えていた。

涙がグラスにぽたりと落ちた。

詩乃は静かに、蒼の手をそっと握った。

「蒼さん……そんなに苦しんでたんですね。ごめんなさい、グイグイ来すぎて。

でも、話してくれて、ありがとう」

詩乃は優しく、でもまっすぐに言った。

「私は、凛さんじゃない。でも、蒼さんが凛さんを愛していた気持ちは、ちゃんとわかる。

忘れるのが怖いのも、失うのが怖いのも全部、愛してた証だよ。

でもね、新しい人を愛しても過去は消えない。

凛さんのことは、ずっと蒼さんの胸の中にいる。それは変わらない。

私と話すことが、凛さんを裏切ることにはならないよ」

蒼は詩乃の手の温もりに震えた。

初めて誰かに、すべてを話せた。

詩乃は続けた。

「私は、蒼さんのペースでいいから傍にいたい。

友達としてでも、それ以上でも、蒼さんが決めてくれればいい。急がなくていい。

ただ、一人で苦しむのは、もうやめてほしい」

蒼は言葉を失った。

ただ、詩乃の手をぎゅっと握り返した。

その夜、二人は遅くまでバーにいた。

蒼は初めて、少しだけ心を開いた。

トラウマは、まだそこにある。

喪失の恐怖も、忘れることへの不安も。

でも、詩乃の温もりが灰色の世界に、確かな、小さな光を、灯した。


詩乃のグイグイは、これからも続く。

蒼は、まだ逃げそうになるかもしれない。

でももう、完全に閉ざすことはできなくなっていた。

詩乃の笑顔が、凛の影を優しく包みながら、新しい朝を少しずつ近づけていた。

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