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現れたのは、3年前に事故で失ったはずの恋人…?  作者: ネロ


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2/6

似てしまった影

蒼は、三年前の事故から、変わらず一人で生きていた。

毎朝、同じ時間に起きて、同じルートで会社へ行き、同じ席でデスクワークをし、同じ時間に帰宅する。休日は、スーパーで買い物をして、アパートで静かに過ごす。

誰とも、深く関わらない。

それが、彼の、守るためのルールだった。


ある春の夕方、蒼は、いつもの小さなカフェに入った。

仕事帰りに、コーヒーを一本買って帰るだけの場所。

カウンターで注文を待っていると、隣に、一人の女性が立った。

「すみません、そこの砂糖取ってもらえますか?」

声が、柔らかくて、少し上ずったような、懐かしい響きだった。

蒼が顔を上げた瞬間、息が止まった。


彼女は、亡くなった恋人——りんに、よく似ていた。

髪の長さ、笑うときの目尻の皺、少し首を傾げる癖、声のトーンまで。

似すぎていた。

蒼は、無言で砂糖を渡した。

女性は、「ありがとうございます!」と、明るく笑って、名前を名乗った。

「私、詩乃しのって言います。このカフェ、初めてなんですけど、おすすめのコーヒーありますか?」

蒼は短く、「ブラックが、無難です」と答えて、自分のコーヒーを受け取り、すぐに店を出た。

心臓が、鳴り止まなかった。

似ている。

あまりにも、似ている。

でも、違う人だ。凛じゃない。

だから、関わるな。

いつか失うくらいなら、始めからいらない。

忘れるくらいなら、新しい人を、愛さない。

蒼は、その日から、カフェに行く時間をずらした。


でも、運命はそんな蒼の逃げを、許さなかった。

一週間後、会社の近くのコンビニで、また詩乃に遭遇した。

「わあ、また会いましたね!縁があるのかな?」

詩乃は、グイグイと話しかけてきた。

蒼は、「偶然です」と冷たく答えて、会計を済ませて出ようとした。

でも詩乃は、

「お一人ですか?よかったら、一緒にコーヒーでもどうです?私、この街まだ慣れてなくて、誰かと話したくて」

蒼は断った。

「すみません、予定が」

でも、詩乃はめげなかった。

「じゃあ連絡先だけ!また会えたら、お話ししましょう!」

名刺のようなものを渡され、蒼は受け取るしかなかった。


それから、詩乃の「グイグイ」は始まった。

会社の近くで待っていたり、偶然を装って声をかけてきたり、メッセージを送ってきたり。

「今日もお疲れ様です!」

「このお店、おすすめですよ」

「週末、何か予定ありますか?」

蒼はいつも短く返事をして、距離を保とうとした。

心は惹かれていた。

詩乃の笑顔が凛に似ているたび、胸が痛くて、温かくて、怖かった。

似ているから、好きになりそう。

でも、好きになったら、また失うかもしれない。

新しい人を愛したら、凛の記憶を上書きしてしまうかもしれない。

忘れたくない。失いたくない。

だから、関わらない。

でも、詩乃はそんな蒼の心の壁を、お構いなしに、明るく、グイグイと崩しに来た。


「蒼さん、なんかいつも遠慮してるみたいだけど、私のこと…嫌いですか?」

ある日、直接聞かれた。

蒼は初めて、少しだけ本音をこぼした。

「……人付き合いが、苦手で」

詩乃は笑って、

「じゃあ、私が慣れさせてあげます!」

蒼は、逃げ続けた。

でも、心のどこかで詩乃の明るさが灰色の世界に、小さな、でも確かな、色を加え始めていた。

似ているから怖い。

似ているから、惹かれる。

失う恐怖と忘れる恐怖の間で、蒼はまだ揺れていた。

詩乃のグイグイは止まらない。

蒼の壁は、少しずつ音を立てて崩れ始めていた。

この出会いが蒼の転換になるのか。

それとも、また逃げてしまうのか。


蒼の心はゆっくりと、動き始めていた。

詩乃の笑顔が、凛の影を優しく重ねながら、

新しい光を灯し始めていた。


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