閑話 ジェレミー2
ジェレミーの授業は意外にもわかりやすかった。
そもそも私が覚えようとしている土魔法というのはそもそもロベール伯爵家のような農業が盛んな領地を持つ貴族家に発現しやすい魔法で、血筋で遺伝するものらしい。そのため貴族家の人間以外で使えるのはジェレミーのように分家の出身か落胤、遠い親戚などだそう。
そんな風に前提条件から詳しく話してくれるので、この世界の常識がいまだに怪しい私からしたらかなり助かる。
「遺伝するのは火水木金土の属性。光と夜はそう言うのに関係なく目覚めるらしいけど、滅多にないから法則性は見つかってないよ。」
「『身体強化』は?」
「魔力が豊富で使い方が分かってれば誰でも使える。だからと言ってアイツみたいに使いこなせるのは一握りだけどね」
ちょっと離れたところで素振りをしてるレオを横目に苦々しそうにいう。風を切る音が尋常じゃない…。私も『身体強化』は得意な方だけどレオほどにはなれないかもしれない。
「というかそもそも対外魔法と体内魔法は違うんだよ」
「??対外魔法?」
「そんなことも知らないの?遺伝する属性魔法は体の外で使うから対外魔法、『身体強化』とかは体の中で使うから体内魔法って言うんだよ。最近の研究でそう分けるようになったんだ」
ジェレミーはいつも余計なひと言が多い。
「へぇ。ジェレミー、本当に魔法のことならなんでも知ってるんだね。」
けどその知識量は本物だし賞賛に値する。そう伝えるとジェレミーはごにょごにょと口篭ってから「お前が勉強不足なだけ」とか言ってきた。照れ方が可愛くない。
「んんっ、それで、体外魔法って言うのは魔力操作が命なの。体の外だし威力が高いから暴発したら大事故だし。」
「確かに、火魔法とか大変だって聞いたことある」
「そ。シャルルは『身体強化』が使えるから魔力を馴染ませる方法はわかるでしょ?とりあえず僕が作った土に魔力流す練習するよ」
ジェレミーが作った土に手を入れて目を瞑り、薔薇を咲かせた時のように魔力を注ぐ。なんとなく抵抗があるのは元々の魔力との繋がりを切る必要があるからだろうか。
その日の授業はまるまる魔力を注ぐ練習をして終わった。
「そういえばジェレミーは誰に魔法習ったの?」
練習を終えてレオとジェレミーと共にお茶を飲んで小休憩。シャルルには給仕の使用人がつかないから勝手に二人を椅子に座らせて自由にお茶会ができるのだ。
そんなわけでジャムをたっぷりつけたスコーン片手に前々から気になってたことを尋ねる。
「ああ、それは俺も気になってた。基礎とか理論がしっかりしてるよな」
「…別に、独学だけど」
「え?」
「父上は剣術やってれば良いって言ってたし、自分で小遣い貯めて本買った」
まじ??一瞬耳を疑ってしまった。魔法を独学ってそうそうできることじゃない。
「すごくない?専門用語とかめっちゃあるよね…?」
「すげぇ頑張ったんだな…」
レオもしみじみと呟く。
「そんなに言うほどかな。」
「言うよ!!!めっちゃすごいよ!!!こんなに使えるようになるまで一人で練習してたんでしょ?」
「そう、だけど。…別に、…そんな褒められたことないし。剣術じゃないし」
ええ…??騎士団長、直接褒めてあげればいいのに!あんな売り込みみたいな言い方で私に推すくらいならジェレミーに真っ向から伝えてあげてほしい。
拗ねたような困惑したような様子で俯くジェレミーを思わず撫でてしまう。
「な、なに急に」
「頑張ったんだなあって…」
「褒められて当然の努力だと思う」
レオも頷いてジェレミーの頭に手をやる。ジェレミーはなにそれとか意味わかんないとか言いながらどっちの手も退けようとはしなかった。
照れ方が可愛くないって思ってたけど前言撤回。態度も口も性格も相当悪いのに…なんというか、弟みたいな愛嬌がある。