閑話 ジェレミー1
「ところで、護衛の2人はどう?」
「……公の場に出る分は問題ないと思います」
明言するのは避けよう。
マナー講座の合間にお母様から投げかけられた問いに私は精一杯濁した返答を返した。
護衛の二人というかジェレミーというか…そう、言い忘れていたが騎士団長の息子の名前はジェレミーという。なかなか癖が強いというかハリネズミというかイタズラ小僧というか悪質というか…。平たく言うと問題児だ。
シャルロットの前だと真っ赤になっておとなしいのだが、シャルル相手だと魔法で嫌がらせをしたり容姿を侮辱したりする。シャルロットの他にも騎士団長やお父様、お母様の前では礼儀正しいから相手を見てやってるとしか思えない。
年齢は私の1個下で12歳。この世界ではイケメン認定される容姿だろう。
レオほどではないが剣術と、人並み以上に土魔法が得意だ。
容姿を悪様に言うのは相手が嫌がるとわかっていてのことらしい。シャルルがノーダメージなのを見て(だって正直私超かっこいいからね)容姿の代わりに魔法ができないことをチクチク言うようになった。
「孤児院にもいたっちゃいたタイプだけど…あれは注意するやつがいないんだろうな」
と言うのがレオの談だ。
レオの精神年齢が高すぎる。本当に実年齢13歳??
「お家の関係かなぁ…騎士団長、めっちゃ忙しいらしいし」
「ロベール伯爵夫妻に言うか?シャルロット嬢の護衛って言ったってシャルルに泥玉ぶつけるのはまずいだろ」
「言いつけるのはやだなぁ…。レオ、剣術大会で勝った後謝られたんでしょ?」
ジェレミーも全く更生の余地がないわけではない。自分より上だと認めた相手には(渋々でも)謝罪をするし、表面上は大人しくなる。剣術大会の前に嫌がらせをしたレオ相手にも、後に謝ったらしい。
「だから僕もジェレミーに勝って認めさせる。」
つまり現状、シャルルは舐められているのだ。
お父様とお母様に言って対処してもらうのが1番良いとはわかっている。けどこれじゃなんか負けた気がして嫌なのだ。
「魔法なしの試合をするのか?」
「いや…魔法アリで。魔法で負かす。」
「マジか。…あいつ、相当強いぞ」
「でも逆に1番の得意分野で勝てばジェレミーも認めざるを得ないでしょ」
と、目標を打ち立てたはいいものの…。
「魔法…わっからん…」
3日後には早々に魔法書の前で唸ることになった。引きこもる以前の記憶を頼りに魔法の体系から学び直そうとしたのだが、相変わらず専門用語が多すぎる。魔法親和性の方程式とか目が滑って頭に入ってこない…。
べちゃ。
どうしたものかと考え込んでいたら、背中に冷たい感覚が張り付く。
「ひぇっ?!ッジェレミ〜〜!!!!!」
「あっはは!!ごめんごめん!見窄らしい子犬がいるなって思ったら」
コイツ…!
「子犬に泥投げつけるな!!僕は子犬じゃないけど!」
「悔しいなら取ってみなよ、土魔法でさ」
ジェレミーがふいっと指を上に向けると背中にべったりついた泥が浮かび、空中で球状になった。
「あ、そういえばシャルルは土魔法使えないんだっけ?」
「…わかってんじゃんか。」
クソ性格悪い…!!!
「これくらい簡単なのにね?魔法で作った土に魔力通してひょーい、だよ」
球状の泥がくるくるっと回り、輪っかの形に変形した。悔しいが魔法の腕には素直にすごいと思ってしまう。
「…そんなにいうなら教えてよ。」
「え?」
「ジェレミー、土魔法めっちゃ上手いし。」
「えー、やだよ。めんどくさいし。」
くっ、そりゃそう…。どうしよう、なんか交渉材料ないかな。考え込む私を見てにまっとしたジェレミーが口を開く。
「そんなに教えて欲しいんだ?条件次第で教えてあげてもいいけど」
「条件?」
「授業一回ごとにアフタヌーンティーのカップケーキ一個」
え、安くない?
いや、あのカップケーキはシェフの特製だ。我が領原産の上質な小麦と南の国から輸入した高価な白砂糖がふんだんに使われている。
他領の貴族とのお茶会でも1番人気の茶菓子だ。うーん…でもちょっと安い気がする。
「それくらいなら当然。あとクッキーも追加で」
「うん、じゃあ交渉成立ね。」
「ありがとう!ジェレミー」
こうしてジェレミーによる魔法の授業が始まった。




