第二十七話 十七歳
たくさんの果物で飾られた真っ白なケーキ。
その上に蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる。
頑張って大きなケーキを焼いたおかげで、みんな目を輝かせて少しだけ幼い顔になる。
私はみんなを見渡して頷く。
みんなの目が、ネレイナに向けられた。
ネレイナは、そんな視線に見届けられながら、蝋燭に息を吹きかける。
今日はネレイナの17歳の誕生日だ。
「私もこれで17歳かー」
いつの間にかネレイナの身長は私を軽々と超えてしまった。
この前柱に背をつけて測ってみたら、なんと168cmもある。
私より13cmも目線が上がってしまった。
私に向かって腕を伸ばして抱っこを求めていた小さかったネレイナを思い出す。
歳をとることができない私よりも、よっぽど大人に近い身体つきになっている。
アシュレイやローレンツは、ネレイナよりも大きい。
13歳になったピノとノワールに至っては、まさかの私と同じ目線になってしまった。
9歳のトトだけは、まだ目線が下だから安心できる。
(みんなに抜かされちゃうなぁ)
身長も。そして、いつかは年齢も。
私はケーキを切り分けて、みんなの前に差し出した。
そんなケーキに大きな口で齧り付きながら、ネレイナはため息を吐いた。
「そろそろ番を探さないとなぁ」
番、という言葉に思わず動揺した。
「つっ、番って……結婚相手? 早すぎるよ?」
女の子はおませだっていうけど、この年齢で配偶者を決定するのはいかがなものだろう。
「まぁ、成人も済んでるしちょうどいいよな」
ローレンツはネレイナの言葉を当然のことのように受け止めている。
「17歳なのに、もう成人?」
私をフォローするように、アシュレイが言った。
「僕やラファエルさん、シグルドさんやエカテリーナさんは長命の種族だから成人が遅いんだよ。ネレイナたちの平均寿命は80歳前後だから、基本的に16歳が成人と言われてるね」
私は思わずラファエルさんを見た。
「俺はもうすぐ260歳になる。魔族としては成人して配偶者を考え始める頃ではあるな」
「ピノとノワールは獣人だから、ネレイナと同じであと3年したら番探し始めないとなー」
ピノとノワールも頷きあっている。
「トトまだ茜と一緒にいるから大丈夫!」
自信満々なトトが可愛かった。
みんな大きな口でケーキを頬張っているのに。
まだまだ子どもだと思っていたのに。
楽しそうな笑い声が少しだけ遠く感じた。
どうにか笑顔を作っていたけど、私は一人取り残されたような気持ちになった。
私も、子どもたちと一緒に年齢を重ねていけたらよかったのに。
+ + +
翌朝、朝食後はいつものように子どもたちは、それぞれの場所へと出かけて行った。
アシュレイとローレンツは王城で訓練を受けている。
アシュレイはシグルドさんの下で。
ローレンツは騎士見習いとして鍛えているらしい。
ラファエルさんとネレイナは、人口の増えたこの町の見回りや、困っている人たちのサポートをするようになった。
ピノとノワール、そしてトトも、畑の管理や収穫を任されている。
教会に一人残された私は、静まり返った食堂で過ごしていた。
昨日から、心にもやがかかったように鈍くて重い。
自分用のマグカップに入れたお茶からは、もう湯気は立たなかった。
「大人になるってどういうことなんだろう」
私の声に応えてくれる存在はいなかった。
(家事しかやっていない……)
皆のご飯を用意して、時々畑を手伝って、家で待つ。
皆が将来のために動いているのに、自分一人だけがその場で停滞しているような考えに襲われる。
「ご飯は焦げなくなった。アップルパイもちゃんと焼けるーーだけど」
それだけだ。
皆に置いて行かれてしまう。そんな焦燥感を止められなかった。
この世界で目覚めて、あの王様に人間としての時間を止められた私が、この先どうやって生きていくんだろう。
ネレイナが17歳を迎えたことで、あの日の自分が重なってしまう。
市橋さんと横山さんに会いたい。
二人が生きていてくれたら、きっとこの弱音を吐き出せたのに。
同じ「道具」だった二人なら、悩みを理解してくれたかもしれないのに。
そう考えて、私は反省した。
生きていてくれたら、だなんて酷い押し付けだ。
二人だって、悩みながらも生きていたかったと思うから。
私は立ち上がり、台所に向かう。
途中の柱には、子どもたちの一年ずつの背がナイフで削られ残されていた。
私はその一つひとつを指でなぞる。
ずっと、変化のない私の身長は、最初の一度記したきりだ。
私は食事を作り置き、食卓へ皆へのメモを書いた。
『体調が悪いから先に休みます。病気がうつるといけないから、落ち着くまで部屋は開けないでね」
と。
個室で眠るようになってから、ずっと寂しかったけれど、今日だけは少しありがたかった。
私は部屋に入って鍵をかける。
ベッドに横たわって天井を見つめた。
まだ明るい部屋が恨めしかった。
「眠れそうにないや」
私は頭から毛布を被った。
今だけは、何も考えたくなかった。




