第二十五話 新たな伯父④
朝日が差し込む部屋で、私は目が覚めた。
身を起こすと、みんなが並んで寝息を立てている。
(久しぶりだなぁ)
私は少しだけ大きくなった子どもたちの寝顔を見渡した。
お布団は整然と並んでいて、昔の寝相が懐かしく思えた。
目が覚めてすぐ、子どもたちの身体に毛布をかけ直した思い出が蘇る。
隣で寝息を立てているピノの隣には、一部の乱れもなくきちんと寝ているシグルドさんの姿があった。
一晩中寝れば、髪の毛くらいはボサボサになるのに。
ラファエルさんもだけど、王族の血には寝相が良くなる遺伝子でも入っているんだろうか。
私はそっと身を乗り出してシグルドさんを眺めた。
片眼鏡を外しているせいか、ラファエルさんによく似ている。
眠っているから、普段より無防備で眉間に皺もない。
「兄弟だからかな、寝顔がそっくり」
ラファエルさんの寝顔に比べると、少しだけ目元が鋭い。でも睫毛の長さは多分シグルドさんの方が少しだけ長いのかもしれない。
朝日に照らされた睫毛が、艶やかにみえる。
「綺麗だなぁ……」
私は小さく息を吐いた。
自分より年上の男性に対して、寝顔を綺麗だと思うなんて。
そんな事を考えていたら、寝ていたはずのシグルドさんの瞳がゆっくりと開いた。
夢中になっていたせいで、私はうっかり真上から覗き込んでいたらしい。
まるで寝込みを襲っているように見えなくもない。
「観察は終わったか?」
「え!?」
真下からしっかり見つめられて困惑した。
当のシグルドさんは、口角をあげ、この状況を愉快そうにしている。
(どうしよう)
どう言い訳をすべきか考えていたら、少し離れた場所からラファエルさんがこちらを見ていた。
その姿勢は、まるで涅槃仏みたいだった。
「……俺の寝顔は見ないのか?」
「えぇっ!?」
確かに一緒に寝ていた頃は毎回観察してたけど、なんでそれを知っているんだろう。
そもそもこの状況はまるでいけないことをした人みたいになってる?
私の頭は状況を理解できずにいた。
「兄上の寝顔が気に入ったのか?」
ラファエルさんは今までそんな事言わなかったのに。
多少は嫉妬していてくれるのだろうか。
「え、見るよ!? ラファエルさんの寝顔だって、もちろん見させてもらうよ!」
「いちゃつくなら他所でやれ」
シグルドさんは呆れたような顔をしていたが、口元はずっと笑っていた。
+ + +
私一人何となく気まずいまま、朝食が終わった。
子どもたちは今日の計画を立てていたみたいだけど、当然ながらシグルドさんはこの国の宰相。
そう何日もお城から離れるわけにはいかない。
私とラファエルさんはその事情を理解しているけど、子どもたちは帰宅準備をしているシグルドさんを寂しそうにちらちらと見つめていた。
「……また、来る。としか言えないな、これは」
シグルドさんは子どもたちの視線に負けたようで、次の約束をしてくれた。
「次はおじさんとラファエルさんの間で寝たい!」
誰かが言いだすと思ったけれど、ネレイナが真っ先に予約している。
「トトもおじさんの隣っ」
うきうきしている二人に、シグルドさんは「喧嘩にならないようしっかり話し合え」とほほ笑んだ。
そして、シグルドさんは少し離れた場所でこちらを見ていたアシュレイに言った。
「お前の魔力は鍛えれば伸びるーー俺は未婚だが、養子にならないか」
その言葉に全員が驚いた。
もちろん私も。
ここが孤児院である以上、身元が確かな相手であれば、里親になってもらうこともあるのだろうとは思っていた。
それでも、私たちは家族のようなものだったから、突然の提案に心臓が止まりそうになった。
(シグルドさんなら立場もあるし、アシュレイの能力もしっかりと導いて育ててくれそうな気はする……それでも)
寂しい。
そんな自分勝手な感情が胸に溢れた。
「アシュレイ、いなくなっちゃうの?」
ネレイナが訊いた。
「アシュレイだけ連れてくの?」
ピノは、どこか悔しそうにも見える。
みんな、どこか複雑そうな表情だった。
「まずは転移魔法を教える。その後、朝九時から夕方四時まで俺のもとに来い」
「……それ以外の時間は?」
アシュレイが恐る恐る尋ねた。
「教会で寝起きするのがいいだろう。ここが大切なのは理解している」
(つまり、学校に登校するみたいな感じか)
そう考えたら、感情の波が落ち着いた気がする。
「昼間は別になっちゃうけど、夜一緒に居られるなら……悪い話じゃないかもしれないよ?」
私はアシュレイを見た。
アシュレイも、シグルドさんの説明を訊いて興味が湧いたらしい。
「僕、養子になってもいいかな?」
アシュレイはみんなに訊いた。
ピノとノワール以外は、すぐに頭を縦に振ってくれた。
「ピノ、ノワール?」
ラファエルさんが二人の肩に触れた。
悔しそうだったピノも、沈黙していたノワールも、シグルドさんに向かって言った。
「……私も大きくなったらおじさんと働きたい」
「ノワールも、頑張るから。おじさんの子どもになれなくても一緒にお仕事できるようになれる?」
真剣な眼差しに、シグルドさんは目じりを下げた。
「われらの父はありえない数の子供がいたな。責任をもって育てることを考えたらお前たちすべてを引き受けても構わんが」
「私はラファエルさんがいいな」
「トトもラファエルさんがいいー」
「俺も、魔法じゃなく剣を鍛えたいからラファエルさんがいいな」
まさかの三人ずつに分かれたけれど、「ゆっくり考えるといい」といってシグルドさんは去っていった。
ラファエルさんは私にこっそり「大丈夫だ、あぁ見えて面倒見はよかったはずだ」と教えてくれた。
過去を知らないけれど、大切な子どもたちだから。
そうであって欲しいな、と胸の中で祈った。
子どもたちの未来が、少しずつ近づいているのを感じた。




