第二十三話 新たな伯父②
朝食の後は、エカテリーナさんの時と同じように畑と川へ向かうことになった。
家事は早めに終わっているから、今回は私もみんなと一緒にお散歩を兼ねてお出かけすることができる。
畑には今朝も青々と新鮮な野菜が育っていた。
果樹も季節に合う旬のものが美味しそうに実っている。
なんなら小さいながらも温室があるので、珍しい果物も手に入れることができる。
何面も続く畑を見渡すと、この町で最初に畑を耕した日を思い出す。
荒れた土地の小石をどかしたり、硬すぎる土を起こしたり。
(大変だったなぁ…)
そして、畑の隅っこでは、自慢げな表情のネレイナがシグルドさんにミミズを見せつけていた。
顔面すれすれまで近づけられても、シグルドさんは表情を変えない。
それどころか「コレのおかげで土の状態は問題ないな」と受け取って分析している。
ネレイナはその言葉が嬉しかったのか、何匹も何匹も手渡した。
シグルドさんも断ればいいのに、渡されるたび丁寧に掌に積みあがっていく。
流石に宰相にミミズを持たせるのは申し訳なかったので、子どもたちの視線が外れた隙にそっと受け取って土に流してあげた。
「逞しくなったな」
そしてまた、シグルドさんは私の頭をぽんと撫でる。
嬉しいけど、手を洗ってからにして欲しいとはさすがに言えなかった。
シグルドさんは手の土を払いながら、ラファエルさんの隣に立つ。
子どもたちは思いおもいに収穫をしていた。
それを、二人が並んで見つめている。
「子どもの栄養状態は問題ないようだな。次の配給までに補うべきものがあれば手紙を書くがいい」
「ーー考えておく」
なんだか堅苦しい兄弟の会話が新鮮に感じた。
「それじゃあ、次は川にでも行きますか!」
私は子供たちに声をかけ、教会のそばを流れる川に行くことにした。
目的はもちろんたんぱく源だ。
お魚が人数分獲れたらラッキーかな、と思っていた。
アシュレイが網を持って、シグルドさんに川エビの獲り方を教えている。
ローレンツやネレイナ、ピノとノワールは動体視力がいいから、素手で魚を捕まえ始めた。
トトは川辺の石をどかして小さな沢蟹をバケツに放り込んでいる。
(今夜のおかずは何にしようかな)
私はラファエルさんの隣に腰を下ろした。
「対象をエビに固定して、魔法を使え」
シグルドさんが、よくわからない講義をしている。
「こうですか?」
アシュレイは集中しているからか、額に汗が出ている。
「そうだ、水から浮かせるだけでいい」
アシュレイの背中を、シグルドさんが軽く押したように見えた。
「魔力を流し込んだか」
ラファエルさんには見えているみたいだけど、私には全くわからない。
「流し込むとどうなるんですか?」
「身体から押し出す感覚がわかる」
(……ところてん方式?)
説明を理解しようと頑張ったけど、結局「ところてんは黒蜜で食べたいな」と、小さくお腹が鳴っただけだった。
それでもアシュレイは感覚で理解できたらしく、川に向けた魔力を掌で上へと動かした……らしい。
「うわっ」
「きゃっ」
子どもたちから小さな声が上がる。
悲鳴と言うより、歓喜の声だった。
見ると、川の水面よりわずか上に、エビが浮かんでいる。
「すっげーー!」
ローレンツはエビに手を伸ばした。
「お前たちの掌よりも小さなものは川に戻してやれ。それ以外なら獲っても構わない」
そんな指導がシグルドさんから入った。
子どもたちは楽しそうにエビの大きさを比べては捕獲したり、水に戻したりしていた。
アシュレイはシグルドさんに言われるまま、魔力を維持し続けている。
「お前は魔力のコントロールが上手いな」
褒められたアシュレイは、少しだけ視線を逸らし顔を赤く染めていた。
アシュレイは感情表現が少ないタイプだからこそ、ああやって目に見えて喜んでいる姿は貴重に思えた。
アシュレイとシグルドさんのおかげで、食べ応えのありそうな川エビをバケツ一杯獲ることができた。
「今日はエビ料理がメインだね!」
獣人チームも、目標だった人数分の魚を捕まえてくれた。
今日の料理は頑張ろう。
私は改めて気合を入れた。
+ + +
その日の昼食はもちろん、夕食も豪華だった。
大人は剥いた川エビを、にんにくや香草とオイルで焼いたもの。
子どもたちは私の時代の大好物であるエビフライだ。
自家製のマヨネーズも、多めに作ったのにあっという間に無くなった。
ラファエルさんとシグルドさんは、珍しく二人でお酒を嗜んでいた。
私も一応ここで過ごした日数を考えたら成人を過ぎて22歳になっているはずなんだけど、身体が成長しないと言われたから一応お酒は飲んでいない。
永遠に二十歳にならないけど、なんとなく飲んでいい理由が見つからなかった。
「伯父さん、もう暗いから泊まれるよね」
「そうだよ、たまにはみんなで寝ようよ」
「男子だけだとずるいから、真ん中をシグルドさんにしてみんなで寝よう」
「伯父さんの隣はピノが取った!」
「反対側はノワールね!」
聞き耳を立てていたが、シグルドさんの隣が双子で固められそうだった。
(みんなで雑魚寝するのは羨ましいけど、男女半分でわけるっていう意見はどこにいったんだろう)
私は疑問を口に出さなかった。
子どもたちが久しぶりに誰かに甘えている。
「みんなで寝るなら、私はラファエルさんがいいなぁ」
ネレイナがぽつりと言った。
その言葉に視線が集まる。
ネレイナはシグルドさんを見て、焦ったように言った。
「違うよ? おじさんが嫌とかじゃないんだよ。ラファエルさんが一番なだけなの」
その言葉に、シグルドさんは笑う。
「当然だろう、お前たちにとって父親が一番なのは当たり前のことだ」
「ちちおや……」
ネレイナは一瞬俯いたが、ぱっと顔を上げてラファエルさんをみた。
ラファエルさんは、目を細めて「似たようなものだろう」と頷いた。
と言うことは、私はお母さんだろうか。
期待を込めてネレイナを見たーーが。
「茜は、茜だよ?」
期待した心を読まれたのかと思った。
少しだけ落胆した私が面白かったのか、ラファエルさんは口角を上げて私の背中に触れた。
「気にするな」
って言われたけど、しばらく悶々とすると思う。




