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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第二十二話  新たな伯父①

お城で守られている女王様が、知らせもなく突然訪問してくる教会なんてここだけだと思う。


私たちの身分も、彼女の立場も、本当なら交わるはずがないものだから。


それでも、彼女が子どもたちと一緒に過ごしてくれたおかげで、エカテリーナさん自身を好意的に受け止めたみたいだ。



「今度いつくるのかな」

ネレイナは、薔薇のお水を替えながら尻尾をぱたぱたと軽く振った。

出会ったときは恐ろしい存在だったのかもしれないけど、たった数時間過ごしただけで、また会ってみたい存在に変化したみたいだ。


「きっとまた来てくれるよ」

私はネレイナの頭を撫でた。

もう、私と同じ目線になったけど、いつまでも可愛いと思うのは親バカみたいなものかもしれない。



今日はネレイナと二人で朝食の準備をしていた。

あとはお皿を並べるだけ、そのタイミングで畑仕事をしていたラファエルさんや子どもたちが戻ってきた。


なぜか、背後にラファエルさんに似た男性を連れてーー。


(なんでこの人が?)


私は思わず二度見した。

相変わらず整った容姿に、片眼鏡(モノクル)がとても似合っている。

初対面の時ほど緊張はしないけど、それでも会うと気が引き締まる。

その人は、ここにいるはずのない人物だった。



「……いらっしゃいませ?」


私は混乱しながら挨拶をした。

シグルドさんも、片側の口角を上げ軽く微笑んでくれた。


「久しぶりだな、茜」

そう言って、私の頭をぽんと撫でてくれた。

ネレイナはそんなシグルドさんに驚いたのか、目を丸くしている。


「茜、この人なんだかラファエルさんに似てる?」


宰相だと知らないネレイナが「この人」と口を滑らせたけど、シグルドさんは気にもしていない様子だ。


「お前たちを育てるラファエルの兄……つまり、お前たちの伯父のようなものだ」

そう言って、ネレイナの頭も撫でた。


ラファエルさんよりも身長が高いせいか、私の頭も、ネレイナの頭も撫でやすい位置にあるらしい。


「おじさん……」

呟くネレイナの目が大きくなった。


ピノとノワールは、シグルドさんの背後で服の裾を掴んでついてきていた。

そんな双子を振り払わず、好きなようにさせているのはシグルドさんの優しさだろう。


私は、シグルドさんが双子を連れてきた日を思い出した。

国が行った様々な違法取引の摘発。

そのなかの一つが、新たな女王が奴隷制度を禁じてすぐの出来事だった。

珍しい獣人の女の子は、そういう店に高値で売られる。

そんな奴隷商が連れていたのが、ピノとノワールだった。

親に捨てられた六歳の双子で、見た目が愛らしい猫獣人。

ともあれば、高額で取引されて当然だった。

そこを制したのが、先陣を切って動いていたシグルドさんだった。


(懐かれて困り果ててたっけ)


そんな彼女らを、私たちみんなで迎えた。

この教会で一番最後に入った子供たちだった。


「シグルドさん、久しぶり! 元気だった?」

「シグルドさん、ノワールこんなに大きくなったよ」


構ってほしくて、二人の尻尾はぴんぴんに立っている。

二人にとっては宰相ではなく大切な恩人だからこそ、目に見えて甘えていた。


「久しぶりだな、お前たちも息災で何よりだ」


そう言って細められた目が優しかった。


「今から朝食なんです、一緒に食べましょう」

私はシグルドさんをテーブルに促した。

そんな私にシグルドさんが「パンケーキ、というものがあると訊いた」と囁いた。


(そんな極秘事項みたいな訊き方しなくても……)


エカテリーナさんが教えたらしいパンケーキも追加で用意した。

待っている間に、シグルドさんと子供たちは器用に果物を切っていてくれた。

その手つきは慣れている様で、林檎の飾り切りまで披露してくれた。

おかげで子供たちはシグルドさんの果物に釘付けだ。



「兄上は、そつがない」

ラファエルさんが私をみて言った言葉に、思わず「羨ましいです」と本音が零れた。


宰相なのに。

偉い人なのに。


家事で負けるのはなんだかとても悔しい。


私のそんな気持ちを感じたのか、シグルドさんは「長男だからな」と笑った。


「おじさんっ、その林檎欲しいっ!」

最初のおねだりはネレイナだった。


ピノとノワールは「おじさん」という呼び方に首を傾げていたが、ネレイナに「ラファエルさんのお兄さんだから、私たちのおじさんなんだって」というざっくりした説明に満面の笑みを浮かべた。


「私たちの家族ってことだよね」

「私の伯父さんでもあるんだよね!」


二人は遠慮なくシグルドさんの背中に飛びついた。


「トトもー」


トトは膝の上を選んだらしい。

あっという間に四人の子供に囲まれたシグルドさんは、器用に一人ずつ、小さな口に林檎を放りこんでいた。


美味しそうに頬張る子供たちは、まるで鳥のひなみたいだ。

そう思ったら、ちゃんと公平に、手を止めることなく林檎を配り続けるシグルドさんの姿が面白かった。


そして、眺めていたローレンツとアシュレイにも、ちゃんとウサギの形の林檎を手渡してくれた。


1ミリの狂いもなく対照的に切られたウサギ林檎は、食べるのが惜しくなるくらい綺麗だった。


「そら、お前たちも」

私とラファエルさんにも、ウサギの林檎が配られる。


「兄上……」

ラファエルさんは困惑した貌で受け取ると、静かに齧った。

私は勿体無くてしばらく眺めていたが、シグルドさんが「林檎は切ったそばから酸化が進んで変色する、眺めず食べろ」と焦らすように言うから、少し悩んで頭からがぶりと齧った。


(一口で食べないと可哀想だもんね)


頷いて食べていたら、ローレンツも頷いた。

「苦しませずに一息で、ってやつだな!」


「ち、違うよ! そんな残酷な考えで林檎は食べないよ」

私は否定した。

最後が顔だとバランスが悪くなりそうだから、頭から食べただけなのに。


ネレイナまでも「鮮度を保つなら躊躇わないのが一番だもんね」と頭を上下に動かしている。


獣人のみんなは頷き合ってるけど、アシュレイだけは「林檎の話だよ?」とツッコミをいれてくれた。


(ありがとう、アシュレイ)



その後は、焼けたパンケーキをみんなで食べた。

シグルドさんは、パンケーキのトッピングはクリームチーズと蜂蜜を気に入ってくれたようだった。


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