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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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閑話  報告書

拝啓、兄上。


子どもたちは健康に成長している。

町の発展速度も問題はない。

農作物や、畜産も今のところ順調と言える。


ただ一つ、問題がある。


茜と魔力循環ではない状況で口づけを交わした。


この場合どうするのが最善か、宰相としての知恵を貸していただきたい。


返信を待つ。





王城にある執務室に伝書鳥が届いたのはつい先程の事だった。

手紙を受け取ったシグルドは、一度だけ深く息を吐いた。

それから、紙の束が溢れる机で頭を抱えた。



「この愚弟め、五年ぶりの連絡がこれとは……」



シグルドは無言で紙を引き寄せ、ラファエルの現状を簡潔に書き出し始めた。


「五年前の関係は道具と継承者ではあったが、現在は教会で共に孤児を育てる協力者と言えるな」


そしてシグルドは今回の二人の行動について思考を巡らせた。

ラファエルの現在の立場は継承者ではなく、平民である茜とどのような関係を築こうと、政治的な問題はないと導き出した。


何より重要なものは、今後の対応である。

シグルドは自分の過去を振り返り、考える。


あの二人は、かつての自分のように欲望を解消するだけの関係ではない。

割り切った大人の対応をするような間柄でもない。



「つまり、婚姻を前提とした関係に移行すべきだな」



早速返事を書こうと筆に手を伸ばしたが、突然転移してきたエカテリーナに、筆ごと手紙を奪われた。


「お兄様、なにをしてらっしゃるの」


そう言いながら、エカテリーナの視線は手紙を追う。

短い文を読み切るのに、時間は必要なかった。


手紙を持つその手がぷるぷると震える。


一度、深く息を吸い、手紙からそっと視線を離す。

エカテリーナは堪えきれない様子で、珍しく声を上げて笑った。


「うふふふふふっ、何よこれ。あの義弟(おとうと)がこんな……ふふふふっ」


エカテリーナは扇子で口元を隠しながらも、その肩は揺れ続ける。


そんなエカテリーナの姿に、シグルドは苦言を呈した。


「エカテリーナ、その笑い方は王としての品位を問われるぞ」


「だって、今は完全に私的な空間でしょう? それに……こんな……」


エカテリーナはまた肩を震わす。

ひとしきり笑うと、エカテリーナはシグルドに尋ねた。


「で、お兄様はこの可笑しい報告書になんと応えるのかしら?」


エカテリーナはシグルドの前に手紙をぴらぴらと振った。

その手紙を再び受け取り、目を通す。



「どこも間違った部分はない。簡潔で無駄のないよい報告書だと思うが」


シグルドの言葉に、エカテリーナは呆れたような表情で返す。


「……返事はなんて?」


「結論としては婚姻の意思を明確に伝えるのが妥当か」


「さすがにそれは早すぎるわね」


「ならば段階的に考え婚約からか」


「大切な部分を飛ばし過ぎだわ」


「我々への挨拶が先か」


「私も兄様も茜を知ってるからそれは問題ないのよ」



シグルドの目の前で、エカテリーナは頭を抱えた。

先程の自分の姿と重なる。


(さすがは血を分けた兄妹といったところか)


シグルドは一人納得した。


エカテリーナは呆れ顔でシグルドを見る。


「そう言えばお兄様も綾香に出会うまで真面目な恋の一つも経験が無かったわね……」


「……」


(綾香がいたら、俺も同じような報告書を書いただろうか)


ふ、と口元を緩めながら、シグルドは胸の内側にあるハンカチを服の上からそっと握った。



エカテリーナはそんなシグルドを見て、口角を上げた。


「奥手な二人らしいわね。ようやく自分の気持ちに気がついただけでしょう?」


悩むまでもないわ、とエカテリーナは窓を見て微笑んだ。

その貌は、どこか寂しげにも見えた。


「不器用な愚弟を見守るほかないな」


シグルドは手紙に「己の直感と選択を信じろ」とだけ書いた。


エカテリーナはそこに「たまには顔を出しなさい」と付け加えた。



たった二行の文字を携え、伝書鳥はまた窓から飛び立った。

鳥の姿が見えなくなるまで、シグルドとエカテリーナは黙って見届けていた。



「ーーさて、隣国の使者が城に着く頃か」

「そうね。無能なくせに私の王配を望むような相手は叩きのめさないと」



そしてまた、二人は宰相と女王へと戻っていった。

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