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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第十二話  お茶会の後

皆でアップルパイを食べた後、みんなでじゃこお婆ちゃんと過ごした。

お菓子のアドバイスをくれたり、アップルパイのコツを聞いたり。

時間はあっという間に過ぎていった。


そうして、夕方になり帰ろうとするお婆ちゃんにお願いして、皆で家まで送らせてもらうことにした。


お婆ちゃんは、いつからか杖をつかってゆっくり歩く。

時々腰から力が抜けるようで、ふらつく事も多くなったと思う。

アップルパイも、前は一人分食べきれたのに、さっきは半分だけ食べて「後は家で食べれるように、いただいて帰ろうかねぇ」と笑っていた。


みんなで送る時、アシュレイはお婆ちゃんが杖をついていない方に寄り添って歩く。

ネレイナも、少し前を歩いて何度も振り返る。

ローレンツはマイペースに先を歩くけど、その手にはお婆ちゃんの荷物を持っている。


ピノも、ノワールもお婆ちゃんを見ながら歩いている。


「みんなで食べれて嬉しかったねぇ」


お婆ちゃんがぽつりと言った。

ネレイナは「いつでも食べれるよ」と笑う。

皆「お婆ちゃんも教会で暮らせばいいよ」と口々に言う。


本当は、私もそういいたい。

何かあった時、ちゃんとそばにいられるようにーー。

それでも、お婆ちゃんがあの家で暮らしたい気持ちを知っているから口を挟めない。


「この婆にも夢があるんさね。だから、あの家で暮らしたいのさ」

お婆ちゃんは皆に向けてそう言った。



「お婆ちゃんの夢って?」

ネレイナが訊く。


「……年齢的には、ネレイナが叶えてくれるかねぇ。小さな町で結婚すると、新郎と新婦が一軒ずつ挨拶にくるでしょ。あたしの家から見る町は本当に綺麗だから、花嫁さんとみたくてねぇ」


ーーあたしは結婚しなかったから、とお婆ちゃんがはにかんで笑う。



この町で、もう何組かの夫婦ができた。

ラファエルさんは神父ではないのだけれど、うちの教会で形ばかりの式をして町のみんなでお祝いしている。


この世界にあるかはわからないけれど、人前結婚式、といったところだろうか。


「ネレイナが結婚ー? もらってくれるヤツなんているのかなぁ」

ローレンツがいい終わる前に、ネレイナに飛び蹴りされている。


「ネレイナならきっとどこかで旦那さんを仕留めてくるよ」


アシュレイは結婚を狩りの延長だと思っているのだろうか。


「ネレイナはリーダーだもんね」

「群れを守れる強い旦那さんだといいね」


双子の言葉に、ネレイナは力いっぱい頷く。


「もちろんだよ! ちゃんとしっかり相手を決めるからね」


(ついこの間まで、子どもだと思っていたのになぁ)


私のそんな気持ちが顔に出ていたのか、お婆ちゃんは「子どもなんて、あっという間に大人になるもんさ」と笑った。



途中で休みやすみ歩いて、お婆ちゃんの家へと着いた。

子どもたちも休憩のたび、お婆ちゃんの色々な生活の知恵を教えてもらったり、道に生えている草の名前を教わったりして楽しんでいた。


家に戻ると、お婆ちゃんは少し疲れた表情で、それでも笑って言った。

「今日は本当に楽しかったねぇ。だけどちょっと疲れちゃったよ、ほら、あたしもいい歳だからねえ」


杖を置き、よたよたと歩くお婆ちゃんをローレンツとアシュレイが両側から支える。

その姿に成長を感じたのもつかの間。

「婆ちゃんは会ったころから婆ちゃんじゃん、ずっといい歳だよ」

ローレンツは当然のような顔で言い放った。


その言葉にお婆ちゃんはからからと笑う。

「ほうだねぇ、あたしは最初からあんたらのお婆ちゃんさね」


「あんたにとっても、ね」

そう微笑みながら、お婆ちゃんは私の頭を撫でた。


「茜だけずるい!」

ピノとネレイナも撫でてもらいに近寄る。

ローレンツも、そして遠慮がちだったアシュレイも、お婆ちゃんに撫でられて口元をほころばせていた。


「……さて、あたしは先に休ませてもらうね。今日はご馳走様だったねぇ」


私はお婆ちゃんにそっと毛布を掛けた。

みんなも「おやすみなさい」の挨拶をして、家を出た。



私は、お婆ちゃんの家の扉を閉めてから、なかなかその場を離れられなかった。


ローレンツとネレイナ、ピノとノワールは今日の出来事を楽しそうに話しながら歩き出している。

私の隣にいたアシュレイが、そっと私の手を握った。


「……お婆ちゃん、大丈夫だよね」


私とほぼ同じ目線になったのに、幼さの残るその顔からは不安の色が見えた。

多分、私も似たような顔をしているのかもしれない。


アシュレイに向かって言葉を言おうと思ったけれど、上手な言葉が出てこなかった。

言葉が見つからなくて、私はアシュレイの手をギュッと握りしめた。



「ーー明日、朝ご飯を作って届けに来ようか」


アシュレイは、無言で頷いた。


私は薄暗くなった空に見つけた一番星にそっと願った。

それが、叶わないお願いだとしても。

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