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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第十話  変わらない誕生日

春先に行われた即位式の後、ここに住み始めてもう季節は冬になっていた。


今の世界には、私の誕生日である「12月」は存在しない。

季節ごとに三つの月が割り振られているだけだ。


なので、今は冬の1月。

この月から、多分あの世界での12月になる。


つい先日、誕生日だったピノとノワールをお祝いしていた時、「二人は私と同じ月の生まれなんだね」と言ってしまったせいで、私の誕生日会も開催される事となった。


「茜は冬の何月何日うまれなの?」

「私は、冬の1月24日だよ」


あの世界でのクリスマスイブ。

そのせいか、いつもケーキとプレゼントは一緒に済まされていたっけ。


焼いたスポンジは少し焦げたけど、生クリームでペタペタと隠してしまえば大丈夫。

子どもたちとケーキを作るのは何度目だろう。


まさか自分の誕生日に市販品じゃないケーキを作ることになるなんて。


「ロウソク何本乗っける? 茜何歳?」


「あーー」


言いかけて戸惑う。

私はこの先、歳を取ることがない。

何度誕生日を迎えることができても、永遠に17歳のままだ。

迷っていると、ラファエルさんがネレイナに伝えた。


「茜は、17だ。ロウソクが多すぎて穴だらけになるからやめておこう」


ラファエルさんの手が、私の背中に触れる。

揺れる感情ごと支えてくれているみたいで、ありがたかった。


そこからはわいわいと賑やかに料理を作った。


ラファエルさんは子どもたちの邪魔をしないよう、トトを連れて畑作業へ行ってくれた。


誕生日には、当日の主役が一番好きな食べ物とケーキでお祝いするのがここに来たから決まったこと。


実は、私の好きな食べ物は卵かけご飯なんだけど、この世界の生卵が安全かがわからない以上、生で食べるのは良くないから却下。

鶏小屋から毎朝取れる、産みたて新鮮卵でも一応気をつけるに越したことはない。


なので、二番目に好きなオムライスを作ることにした。

本当は主役は待ってるのが約束ではあるけど、料理はいつも私が作るから今回も私が自分のためのオムライスを作るのだ。


「ネレイナ、アシュレイ、みんなで卵割ってー」


私はみんなにお手伝いしてもらいながら、野菜を細かく切っていく。

我が家のオムライスは、ピーマン、にんじんを細かく四角に切って、鶏ミンチを加えてパラパラに炒める。

具材を炒めるときにケチャップを加えて味付けするんだけど、この世界にはケチャップがない!


家庭科で調味料の作り方を習ったけど、肝心の材料がトマトとタマネギとニンニクみたいな文字が並んでた気がする程度にしか覚えていない。


(覚えてないものは仕方ないよね!)


赤ければ何となくケチャップだ!

私は適当にトマトの皮を剥き、タマネギとニンニクを細かくみじん切りにした。


「多分あとは煮るだけ!」


赤いしドロドロしてる。でもなんだか香りが違うけど仕方ない。


(60点くらい取れたら、十分合格!)


私は鍋の中の簡易ケチャップをくつくつと煮込んだ。

途中アクを掬いながら、子どもたちの卵を見る。


勢いよく割ってくれたから、細かい殻も混ざってる。

私はラファエルさんに作ってもらった菜箸で、ひょいと摘んでは捨てていった。


「茜、すごい……」

「手でも掴めなかったのに」


ノワールとローレンツに褒められた。

お箸の使い方は、お爺ちゃんとお婆ちゃんに鍛えられたからね。

いつか子どもたちにもお箸を教えてあげられたらいいな。


鍋の中のケチャップが、程よくもったりしてきたので、切った具材と絡めて炒める。


見た目はちゃんとケチャップだった。

そして、大きなお皿で炊いたお米と具材を混ぜこんだ。


我が家の味だから、正しいオムライスかどうかはわからない。

それでも、この子達にはこれが「オムライス」になっていくんだろうな。


「さて、卵を焼いてきますか!」


子どもたちが見守る中、私はフライパンにバターを入れる。

溶けたら卵液を流し入れ、大きくて丸い薄焼き卵をつくっていく。

火が通ったら、フライパンの半分にご飯を入れて折る。


そしたら大きなオムライスの完成だ。

フライパンは大きくて、一度で子ども三人分くらいの大きなオムライスができる。

私はあと二回繰り返して、全員分のオムライスを完成させた。


ケーキはシンプルに生クリームとフルーツを乗せただけ。丸いスポンジは焼けないから、四角いデコレーションケーキだ。



「美味しそうー」

ノワールが鼻先をケーキに近づけて匂いを嗅いでいる。


「さぁ、みんなで食べようか!」


外で作業をしていたラファエルさんを呼んでてもらい、みんなで席についた。


ケーキに一応一本のロウソクをさし、ラファエルさんが指先から小さな炎を出してくれた。


夕食だから、灯りをつけなければ部屋は暗い。

そんな中で、ロウソクの火が小さく揺れる。


「みんな、誕生日のお願いごとするよー」


……これも、昔の私の習慣だ。

特別な日のケーキには、ロウソクを立てて、火を消す前に願い事をする。


願いが叶うかとかはわからないけど、家族みんなでやっていた。


「終わったー!」

ネレイナが元気に言う。


「僕も」

「俺もー」


次々に願い事が決まっていく。


「私も終わった!」

「終わったねー」


双子たちも祈り終えたようだ。


私はちらとラファエルさんをみた。

炎を囲むように、テーブルの反対側に立つラファエルさんと視線が合った。



「……決まった。次の誕生日も、こうしてまたみんなでお祝いできますように」



「毎年大きなオムライス食べれるね」

アシュレイは笑う。


「私もっと大きいのでもいい! ピーマン無しで」

ネレイナは苦いお野菜が得意じゃない。


「俺はもっとお肉欲しい」

「私も!」

ローレンツとピノは肉増量を希望だ。


「私、今くらいで丁度いいー」

ノワールも、きっと来年にはたくさん食べられるようになるだろう。



「来年は茜は18? ロウソクいっぱいさせるようにおっきなケーキ作ろうね」

ネレイナの無邪気な声に、私の笑顔は、一瞬だけ固まった。


ラファエルさんは、炎の向こう側で私を見つめる。

そして、一瞬だけ目を伏せる。


「兄に教わったことだが、女性の年齢を数えるのは失礼にあたるらしい」


ふっと口角を上げ、子どもたちに言った。

子どもたちは「何歳から女性か」と小さく討論を始めている。



私は、ラファエルさんの少しズレた優しさに感謝した。

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