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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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閑話  夜中の攻防戦

子どもの感情というのは日々の天気よりも変化が激しい上に読み取ることも難しい。

今朝もピノとノワールが泣いていた。

それなのに、夜には仲が戻っている。

食事までは多少ぎくしゃくしていたが、夕食にはみんな一緒に子どもたちの捕まえてきた魚料理に舌鼓を打つ。

その後で、ノワールがほかの子どもたちに気づかれないよう、食後の果物をこっそりピノに一つ譲る姿があった。

ピノの耳元で何事かを囁いたと思えば、二人で笑いあって今に至る。



布団を敷きながら、いつも通りの順に枕を置く。

「今日は茜の隣がいいな」

ノワールが茜に声をかけた。

そんなことを頼まれたら、茜は了解してしまう。


嫌な予感がして二人に視線を向ける。

茜は笑顔でノワールを抱きしめ、それを見た子どもたちから抱き着かれていた。


「もちろんだよー! なら今日はノワールの隣で寝るからね」

「やったぁ!」

「なら俺アシュレイの横っ!」

「……それなら僕はトトの隣かな」

「私はローレンツとピノの間にするー」

「なら私はネレイナとノワールの間に決めたっ」


口を挟む暇もなく、眠る場所が決まっていく。


(仕方ないか……)


ラファエルは諦めて茜の枕を子供たちを挟んだ端に置いた。

そして、各自自分の枕を抱えて眠りについた。



+ + +



部屋の中にくうくうと小さな寝息が広がる。

少し広げた腕の中で静かに眠るトト。

丸まってぷすぷすと鼻息をたてるローレンツ。

アシュレイは胸の上で腕を組み、微動だにせず眠る。


(そろそろか……)


ラファエルはトトを安全な場所にそっと寝かせて、音をたてないようにネレイナの足元へと移動した。


ぶおんっ!


ネレイナの足がローレンツの腹へと振り上げられた。

ラファエルはその足を素早く手に取り、タオルケットで素早くくるんだ。

両足を巻いてしまえば朝まで危険はない。


ごろんっ。


ローレンツが寝返りとともにアシュレイを抱え込む。

力が強いのか、アシュレイの寝顔が苦しそうに眉間に皺を寄せている。

二人をそっと引き離し、枕の位置をなおす。

子どもは一度熟睡するとなかなか起きない。

ここ数か月で学んだことだった。


かさかさかさかさ……。


ピノの腕が何かを探すように腕を動かす。

ラファエルはピノの隣にそっとノワールを運んだ。

ノワールの体温を感じたのか、二人は手を繋いだら安心してまた動くのをやめて眠っている。


「……はぁ」


ラファエルはため息を吐いた。

寝息の広がる部屋を見渡す。

眠る子供の安全のために、こうして部屋に布団を敷き詰めるようになった。


しかしーー本番は、ここからだった。


茜が、動き始めた。


「うぅん……」

茜が寝返りをうつ。

連続で三回ほど。

ここで一気に部屋の真ん中まで移動する。


子どもたちが寝ていた場合、容赦なくその上を転がってくる。

子どもたちも負けているわけではないが、茜の体格を考えると、少し心配になる。

もちろんトトは赤子で、命の危険に繋がりかねないので眠りの浅いラファエルが腕で守っている。

隅に寄せていたローレンツも寝返りをうつ。

いつの間にかローレンツの足が、茜の脇腹を蹴っている。


蹴られている茜の眉が中央に寄る。

起きているときは穏やかなのに、眠っているときは不機嫌になるから不思議だ。

観察していると、茜がぐいとローレンツを引き離した。

「暑いっ!」

はっきりとした拒絶。


(起きたか……?)


茜の顔を見ると、ローレンツを離して満足したのか穏やかな表情で眠り続けている。

ローレンツをそっと安全な隅に移動させる。

その間に、茜がまた表情を変えている。


口元がもごもごと動いている。

ラファエルはその口元に耳をやった。

「……寒い!」


暑くてローレンツを引き離したくせに、今度は寝ながら寒さを訴える。


「……はぁ」


ラファエルは大きく息を吐く。

そして自分が使っていた毛布を手繰り寄せた。


「……ふーーーっ!」

小さなピノの声。

視線を茜に戻すと、目を離した一瞬でピノとノワールに全身で絡みついていた。

腕は二人を抱きしめ、足まで使って逃がすまいと絡んでいる。


「苦しいよぅ……」

呆れて眺めていたが、ノワールの寝言にハッとする。


絡みついている茜を引き離し、ピノとノワールを壁際に避難させた。



どしんっ。


背中に容赦なくぶつかってきた茜を、そっと持ち上げる。

壁際に寝かせ、そっと毛布をかけた。

茜は寝ながら毛布に頬ずりしている。


ラファエルは隅に寝かせたトトを自分の腕の中に戻し、そっと茜の横で横になる。

幸せそうに眠る茜を見て苦笑した。


「……はぁ」

何度目かのため息を吐いて、茜に背を向ける。


(安全のためには、この姿勢が一番だからな……)


そしてこの夜も、茜の蹴りと激しい寝返りは明け方まで続くのだった。


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