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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第三話  緊急子ども会議

泣きつかれて眠るみんなを二階に寝かせ、私とラファエルさんは食堂で話をしていた。

トトはミルクの時間もあるから、ラファエルさんの腕の中で寝息を立てている。


「さて……さっき畑からネレイナの泣き声が響いてましたけど、任せたのになんでさらに泣かせたんですか」

私は理由が知りたかった。


泣いて駆けだしたネレイナが、あんなに激しく泣いた理由。

「……っふ」

ラファエルさんは口元に手をやり、しまったという表情をしている。


「こんなときに何笑ってるんですか……」

思わず私の目が座る。

そんな私の貌を見て、ラファエルさんはまた小さく肩を震わせた。

そしてすぐ降参とでも言うように片手を上げる。


「すまない。ネレイナの泣き顔が……あまりにも子供らしくて」


確かに。

ネレイナも子供たちも本当に可愛い。

本人たちが真面目にしていても、愛しさが溢れてぎゅっとしたくなる気持ちは十分理解できる。


「それは、仕方ないですね。私もさっき可愛くて抱きしめそうになったから、同罪です」


私たちは互いに視線を合わせ、さっきの子供たちの表情を思い出す。

「それにしても……アシュレイ、どうやって傍にいたら寂しさに寄り添えますかね」

ラファエルさんは考えるように目を閉じた。

「……茜は? 茜の国や仲間は……。多分お前が一番アシュレイに近いと思う」


私や横山さんと市橋さんは、かつてこの国が地球と呼ばれていた頃の産物に過ぎない。

日本はもう存在しないし、家族はーー多分どこかに化石としてあればいい。


「どうでしょう……私は戦争を知らないんです。多分みんなまとめて滅亡したみたいなので。あったものを失う感覚というより、起きたら突然知らない世界だった。だから……国を失う悲しみや死別の苦しみも、簡単に『わかるよ?』なんて言ってあげられないんです」


ラファエルさんは席を立ち、私の隣の椅子に腰を掛けた。

「すまない、俺はまた言葉を間違えたか」

そう言って、一瞬迷うように視線を落としてから、私の肩にそっと頭を乗せた。


私はその頭を思い切り撫でたい衝動に駆られた。

(……ずるいなぁ)


二度、三度と深呼吸して「大丈夫ですよ」と笑った。


「最近は子供たちのお世話で大変なんです。悲しいとか、寂しいとか考える前に疲れて寝ちゃいますから」

その言葉に、ラファエルさんは微笑みを返してくれた。


至近距離の微笑みは、心臓が止まりそうになることが分かった。




+ + + 



「みんな、しーーっだよ!」


二階の寝室でお昼寝から覚めたネレイナは、寝ている子供たちを順番に起こした。

アシュレイはネレイナの動きに気づいて起きていたのか、布団を畳んで床に座った。


「んにゃ……、ネレイナ? おはよお」

「おはよ」

ピノとノワールは寝ぼけまなこで挨拶をする。


「ふわぁ、よく寝た。んで? 何すんの?」

ローレンツが周りを見渡す。


ネレイナは立ち上がり、腰に手を当てて宣言した。


「今から、子ども会議を始めます!」


「会議?」

「なにそれ?」

「つまんなそうーー」

三人からは文句が出る。

それでもネレイナはアシュレイを見つめて言葉を続けた。


「アシュレイ、私たちだけじゃダメな気がするの。……ちゃんとお話ししよ?」

ネレイナの耳は自信なさそうにぺたんとしている。

その姿に、アシュレイは頷いた。


「ええと、まず誰が悪いか……これは、わたしがダメな言葉を使いました、ごめんなさい」

ネレイナはアシュレイに向かいぺこんと頭を下げた。

アシュレイは慌てたように首を振る。


「ネレイナ、違う。僕が悪い、ここを家じゃないって言ったから」

アシュレイの言葉に、ネレイナは言い返す。


「違うの! 私なの、私がダメな子なの」

「違う……」

「違わないっ!」

「違うよ……」

「違わないのっ!」


二人の目にまた涙がこみ上げた。


それを見たローレンツが呆れたように言う。

「なら、どっちも悪い! それでいいんじゃねーの?」

「そだね」

「そうしよ、そうしよっ」

双子も笑顔で同意した。



ネレイナは泣きそうな顔で頷く。

「そうする。私もアシュレイもダメだった、ごめんね」

アシュレイもこぼれた涙を手で拭うと小さな声で言った。

「僕も、ごめんなさい」


アシュレイは唇を震わせ、ゆっくりと話し出した。


「ネレイナが言ったのは正しいと思う。僕にはもう帰る国も待ってる人もいない……」

「戦争に、負けたから?」

誰も言葉を返せず、みんな黙り込んだ。


「僕の国がこの国を相手に戦争した。結果はネレイナが言った通りなんだけどーーそれなのにこの国の人が助けてくれる」

アシュレイは自分の身体をぎゅっと抱きしめた。


「そんな僕がここにいていいか分からない。だから、早く出て行かなくちゃって……」

声はだんだんと涙声に変わる。

すんすんと鼻をすすりながら、気持ちが零れる。


「みんな優しくて、本当の家族ならいいっておもうたび、いけないことみたいでーー」


どしんっ!

ネレイナがぶつかるようにアシュレイを抱きしめた。


「家族だもん! みんな家族だってラファエルさん言ったもん!」

ネレイナの顔はまた涙でぐちゃぐちゃになっていた。

それを見た双子とローレンツの目にも、涙がぽろぽろと零れ始める。


「みんな泣かないでよう、目が真っ赤になっちゃうよ?」

そう言ってネレイナの頬をぺろぺろと舐めるのはノワール。

「ほんとだよ、アシュレイの綺麗なおめめも真っ赤よ?」

頭を撫で続けるピノ。


ローレンツが鼻を赤くしたまま両手を広げて言う。

「よし、みんな! ぎゅーってするぞ」


全員が飛びつくようにローレンツを押し倒した。

そして、部屋には笑い声が広がった。


「なら、みんな家族だからね? 子ども会議は終わりね」

ネレイナが泣いたまま笑う。

アシュレイもまた、子どもらしく歯を見せて笑った。




+ + +


そんな一連の流れを、私たちは扉の隙間から見守っていた。

なぜ気づいたかと言うと、ネレイナの声が大きすぎたからだった。


「今から、子ども会議を始めます!」

の声は、一階まで響き渡った。


私たちは、そっと扉を緩め、その隙間から洩れる声を聴いていた。


子どもたちが泣き出したとき、飛び込んで抱きしめようと思った。

でも、ラファエルさんの腕に掴まれた。

ラファエルさんは首を小さく横に振り、見守ることを選択した。



子どもたちの話し合う言葉に、何度も泣いてしまう。

鼻をすする音を立ててしまったときは、トトを抱くラファエルさんの胸に抱え込まれた。


解決したのを見計らって、私たちはそっと一階に戻った。

「私たち、教会のみんなで家族ですもんね」

うんうんと頷きながら泣く私の前に、温かいお茶が入ったマグカップが置かれた。


「飲め」

私はマグカップを両手に持ち、ふうふうと息を吹きかけた。


「それにしても、さっきのローレンツ……」

ラファエルさんが私を見て話しだす。


「ぎゅーってする、か。……っふ」

そして小さく噴き出した。


(笑われてる?)

思わず私の目が座る。

ラファエルさんはこらえきれず「ははっ」と声を出して笑った。

そんなラファエルさんは珍しくて、思わずわたしも笑ってしまう。


「ーーお互い笑っちゃったから、同罪です」

「そうだな、喧嘩するなら『会議』だな」


子どもたちの真似をして、くすくすと笑った。


二階の子供たちは、みんなでお団子のように固まって寝息を立てていた。


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