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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第一話  茜のミッション

私には野望がある。


そのためにも、今夜は早々に子どもたちをお風呂に入れていく。

男の子たちはラファエルさんがまとめて面倒をみてくれるからいいとして、女の子は私と一緒にお風呂に入る。


この教会はもともと町人の避難所を兼ねていたようで、部屋も浴室も十分ある。

私たちがここに住むことが決まり、トイレも増築したから、みんな同時にトイレに行かない限りは安心だ。


(費用は(エカテリーナさん)がだしてくれたんだよね)


国の補助のおかげで、生活が楽になった。



逃げる女の子たちを順番に捕まえて、手早く身体と髪の毛を洗っていく。

三人とも狼と猫だから、時には悲鳴も上がる。


「やめてぇーー」

か弱い叫び声はノワール。

「ふーーーーーっ!」

怒り気味なのはピノ。


泡だらけのまま浴室内を走っているのがネレイナだった。


「はい、終わるから並んでー」


私は三人並べて頭からお湯をかけた。


お湯に浸かってしまえばみんな大人しくなるから不思議だ。


「ふぅ……」

思わず声が出る。


「あったかいねぇ」

ネレイナが器用に犬かきをしている。

ピノも、ノワールも頭にタオルを乗せて幸せそうに肩まで浸かっていた。

目を閉じて耳を澄ませると、隣の浴室からも叫び声が聞こえる。

そして盛大な水音も。


「ぎゃーーーーっ!」

この声はローレンツだ。

お風呂に投げ込まれたような水音だった。

籠っていてよく聞こえないが、笑い声も聞こえる。


「楽しいねぇ」

ネレイナが笑う。

「そうね」

「そうだねっ」

双子の声が揃った。


私はそんな女の子たちを見つめて目を細めた。


(まるで家族みたい)


そして、ふと家族構成を考えた。


ネレイナが長女で、アシュレイが長男。

次男はローレンツで、双子は次女と三女かな?

そしたらトトが三男で、父親が……。



ざぶんっ!


私は思わず顔までお湯に沈んだ。

ぶくぶくと息を吐き、沈みながら頭を振る。


(恋人もいたことないのに! そもそも告白したこともないのにっ)


沈んでいたら、ネレイナが私の頭を抱えて立ち上がった。


「茜っ、大丈夫!? 泳げないの? 泳げないなら顔上げないとだめよ?」

ピノも激しく頷いている。

「泳げないなら溺れない場所にいなきゃだめなのよ?」

「茜はこれから私たちの真ん中ね!」

ノワールもおっとりと頷いた。


泳げると豪語できるほどではないけど、五メートルくらいは沈まずいられる自信がある。

それなのに、八歳と六歳児たちにこれほど心配されるなんて……。

年長者としての自信を失いかけた。



お湯から上がると、ラファエルさんが椅子に座り、みんなの頭を順番に乾かしていく。

子どもたちは一人ずつラファエルさんの前の床にぺたんと座り、大人しくしている。

ふわりとした温かくて優しい風の魔力で、みんなの髪はサラサラだ。


「茜」


ラファエルさんが私を呼ぶ。


(子どもじゃないんだけど、ドライヤーがないから仕方ないよね)

胸の中で言い訳をする。

ラファエルさんの指が、私の髪をゆっくりと解いて乾かしていくのを感じた。


「あかねー? 顔あかーい」

ローレンツがにやにやと揶揄ってくる。

悔しいが、赤くなるのは仕方ない。

さっきの「家族構成」を思い出してしまったから。


「終わったぞ」

魔法の風が止まった。


ラファエルさんの手が、私の顎を持ち上げた。

椅子に座るラファエルさんを見上げるように。


「熱かったか?」


そう尋ねるラファエルさんに「大丈夫です」と答えるのが精一杯だった。


(こんなことで野望を叶えられるのかな)


それでも、わたしはタイミングを見計らっていた。


「さて、みんなで寝ようか!」


時刻は八時半くらい。

子どもたちからは「早すぎる」と文句がでる。

それでも子供たちのお世話をしていて気づいたことがある。


昼間しっかり遊ばせて、ご飯をいっぱい食べて、お風呂に入ってしまえば……寝る。

灯りを落として、ふわふわな毛布を掛けてあげればいちころなのだ。

トトはたまに夜泣きをするが、眠る前にしっかりミルクを飲んで寝かしつけると、だいたい朝まで眠ってくれるようになった。


ラファエルさんが敷いてくれたお布団に、みんなで並ぶ。


眠るときはみんな同じ頭の位置なのに、起きると激しく動いているから不思議だ。

「茜、私の隣で寝る?」

ネレイナが言う。

「俺も茜の隣がいいー」

ローレンツも甘える。


私はお姉さんだからね。

たまには子供たちのお願いを叶えようと枕を動かした。


「茜……、お前は俺と壁の間が安全なんだが……」


ラファエルさんの眉間に久しぶりの皺ができている。

子どもたちの寝相を心配してくれているらしい。


私はラファエルさんの耳元で小さく囁いた。

「大丈夫ですよ、子供たちの寝相は知ってますから」


私の言葉に、ラファエルさんは苦笑した。

そして諦めたように子供たちの寝る位置を整えて灯りを消した。



それから何分経ったのか、途中までもぞもぞと動いていた子供たちから、少しずつ小さな寝息が広がる。


珍しく離れた場所で眠るラファエルさんの呼吸も、多分寝息に変わった気がする。


(ーーよし)


私は意を決して、子供たちの間を抜けだした。

音を立てないようラファエルさんに近づく。


(叱られるかな)


自分の心臓の音がやけにうるさく感じた。



ごろり。



ネレイナが盛大に寝返りを打った。

踵が勢いよくラファエルさんのお腹に振り下ろされる。


ごすっ。


かなり鈍い音が響いたが、誰一人目覚める気配はない。


私の心臓が止まりかけたが、どうにか行動を再開した。



這うようにして、どうにかラファエルさんの頭もとにたどり着いた。

それでも、どこか後ろめたい気持ちが湧く。

寝顔は相変わらず格好いい。

そっと顔を近づけ、寝息を確かめる。


「……すっ……すー……すー」


一瞬乱れていた気がするけど、多分緊張しすぎて勘違いかもしれない。

私はきょろきょろと子供たちの様子を確かめた。


寝相の変化がもう始まっているけど、ちゃんと可愛い寝息を立てていた。


ラファエルさんの顔に、もう一度自分の顔を近づけた。


「……す」


ごくり。

言おうとした言葉のハードルが高すぎたのか。

それとも緊張からか。

喉からありえない大きさの音がでた。


慌てて確認するが、目の前のラファエルさんに変化はない。


「……ごめんなさい」


小さく謝ってから、私はその頬にそっと口づけた。

数秒間そのままで、息を止めた。


柔らかく、ふにふにとした心地いい感触。

ゆっくりと唇を離す。



ぷはっ。

起こさないよう止めていた呼吸を再開した。


「男の人なのに私より柔らかい?」


小さく口から零れて、思わずハッとする。

一瞬ラファエルさんの肩が震えた気がするけど、耳を近づけたら落ち着いた寝息がきこえて安心した。


(ミッションコンプリート!)

私は自分の心の中で自分自身に拍手を送った。


またこっそりと這って戻ると、ネレイナとローレンツの間に隙間が無くなっていた。


「子供って、寝相悪いなぁ」

そう呟いたあと、仕方なく子供たちの頭もとで横になった。


ーーはずだった。



翌朝、私はなぜかいつものように壁とラファエルさんの間で目を覚ますのだった。


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