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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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教会編 プロローグ  睡眠不足の朝

「ふあぁぁぁぁ……」

私は盛大な欠伸とともに上半身を起こした。


眠い目を擦りながら周りを見渡す。


かつて私の部屋だった六畳くらいの広さの部屋に、敷布団がぎゅうぎゅうに敷かれている。

ベッドを並べると、どうしても広さが必要になる。

あとは単純に落ちたら危ないという理由で、ラファエルさんが布団を床に敷く事を選んだ。


私の隣で棒のようになって眠るのはラファエルさん。

その脇に突き刺さるようにして眠るのはトト。

ラファエルさんのお腹に片足を乗せて眠るのはネレイナ。


その他にも四人の子供たちが思いおもいの格好で眠っている。

ある子は毛布に全身包まって、また別の子は部屋の隅まで転がって。

あとの二人は仲良く手を繋いで眠っているから微笑ましい。

しかし。

「子供って、本当に寝相が悪いなぁ……」


そう呟いたとき、ラファエルさんの肩が僅かに震えた気がしたのは気のせいだろうか。


(寝てるし、いいよね!)


私はこっそりラファエルさんの寝顔を眺める。


まつ毛が長い。

整った顔立ち。

ここに来た初日は子供たちを挟むように寝たのに、翌日には私は壁際で、その隣がラファエルさんになっていた。


「子供たちの寝相から守ってくれてるのかな?」


ーーまた、ラファエルさんの肩が震えた気がする。

寒いのかな?

そう思い、自分の毛布をラファエルさんにそっと掛けた。


ぽんぽんと寝かしつけるよう毛布の上から軽く叩いた。


そして、眠る子供たちを踏まないよう気を付けながら、そっと部屋を出た。



音を立てないよう階段を降りると、まずは台所に火を入れる。

回復しかできない私にも使えるよう、魔石をいくつか持たせてもらえたのは本当にありがたい。

使い捨てにはなるけれど、小さな石を卵を割るように二つに割ると、中の熱で薪が燃える仕組みだ。


「火力が安定したマッチみたいな感じかな?」


私は火を見ながら鍋に湯を沸かしたり、空いたスペースにフライパンを置いたりしていく。

最初は火力が分からず炭にしたりもしたけれど、ここにきて一か月ともなれば慣れたものだ。


(……なんてね)


誰も見ていないのに小さな見栄を張る。

本当は焦がす回数が減ってきただけだった。


子どもたちが起きる前に、卵を割って焼く。

夜から低温の魔法をかけ寝かしておいた生地を使ってパンも焼いていく。

庭の野菜を適当な大きさでむしってサラダも作る。


「あとはミルクかなー」


そんなことをやっていると、まず最初に起きてくるのがラファエルさん。

片手にトトを抱き、もう片方にネレイナをぶら下げている。


「茜、おはよう」

ラファエルさんはもう着替えていた。

「おはよう、ラファエルさん」

私は寝ているトトを受け取ると、ネレイナとラファエルさんにお湯を入れた桶を渡した。


「丁度いい温度だから顔洗っておいで」


ラファエルさんはすぐ魔力を使って水を適温にしたり、私を甘やかそうとしてくるけど、町の人はちゃんとこうしてお湯を沸かしたりするんだから、私だって普通に生活したい。


そう伝えてから、ラファエルさんは私を見守ってくれる事が多くなった。


「茜ー、洗ったー」

「今日はちゃんと洗えてたな」

ラファエルさんがネレイナを撫でる。

ネレイナは狼獣人だからか、時々こっそりサボる癖がある。

「匂いとれちゃうから石鹸は使ってないー」

その言葉に、しまったという顔をするネレイナ。

ラファエルさんは、静かに目を逸らす。


「ちゃんとお顔洗わないと……ラファエルさんも、そういう甘やかしはダメですよ」

「……仕方ない、もう一度洗うか、ネレイナ」

ラファエルさんは私のお説教を避けるため、ネレイナを担ぐと桶を持って二度目の洗顔に向かった。


二人の背中を見送って、料理をお皿に並べる。

一つのお皿に、パンと目玉焼き、サラダを乗せたらお洒落なワンプレート……に見えないこともない。

これはただ洗い物の効率がいいのと、食べ物を取り合わないため。

嫌いなものをこっそり残さないためにも、一人一皿は本当に便利だ。


鍋に入れたミルクがふつふつと湯気をあげる。

少しだけお砂糖をいれてあげると、みんな残さずに飲んでくれることがわかった。


とたとたと二階から足音がする。


降りてきたのは先日からこの教会にきた戦災孤児のハーフエルフの男の子。

「あかね、おはよ」

「アシュレイ、おはよう。顔を洗っておいで」

宰相だったクロードさんも整った顔をしていたが、エルフというのは本当にみんな綺麗。

種族としての特性なのか、感情の変化は少し小さめだ。

出会ったばかりのころは何も話してくれなかったけれど、同い年のネレイナの存在が彼の態度を和らげてくれた気がする。


続いて降りてきたのは双子の猫獣人。

右耳が欠けたふわふわ尻尾のピノと、少し垂れた耳に真っすぐな尻尾のノワール。

どちらも可愛い女の子……なんだけど、ネレイナと同じく顔を洗うのをこっそりサボる癖がある。


「アシュレイ、二人を連れてしっかり顔を洗ってきてね」

「ん、わかった」

言うが早いか、逃げ出そうとする二人を即座に捕まえて連れて行ってくれる。

そうこうしているうちに、ラファエルさんとネレイナが戻ってきた。


「茜ー、匂い確かめてっ!」

自信満々に私に抱き着いてくる。

そんなネレイナを抱きしめ、お耳の匂いを吸う。


「んーー、石鹸とお日様のいい匂いっ!」

そのままくんくんと匂いを嗅ぎ続けていると、ネレイナの耳がゆっくりと平らになっていく。


「茜ぇ……もうやめてぇ……」

猫を吸う気持ちが正直とってもよくわかる。

しつこくするとラファエルさんに叱られるから、このあたりで諦める。


「ネレイナ、ローレンツを起こしてきてくれる?」

頼むと、ネレイナは尻尾を揺らして階段を駆け上がった。

その間に、私は食事をテーブルに並べる。


ラファエルさんが私の手からトトを受け取って、もう片方の手でお皿を並べてくれる。

このあたりで、アシュレイとピノとノワールの足音が加わる。


そうしてどたどたと二階を走る二人の足音も。


「ローレンツ、急げーー」

ネレイナの声が響く。

追いかけっこを楽しむのは、狼の習性なのかな。

ローレンツもアシュレイとは違う隣国の戦災孤児だ。

ローレンツは真っ白な狼の獣人で、ネレイナの一歳下だからか、子供のリーダーをネレイナだと認めている気がする。


「あかねっ、ご飯いっぱいで!」

ローレンツが私に抱き着く。

その勢いで思わずふらついたが、そんな私をラファエルさんの身体が支えた。


「ラファエルさん、ありがとう」

ラファエルさんは無言で頷くと、ローレンツを片手で持ち上げ、顔を洗いに連れて行った。


今日は普通にふらついただけだ。

少しだけ安心した。

こうしてまた、賑やかな朝が始まった。


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