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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第五十七話  選択

私は、目の前のラファエルさんに触れた。


ちゃんと温かい。

掌から伝わる心臓の鼓動も、ちゃんと感じられた。


ラファエルさんの傷は治っていた。

そして、私の輪郭を消しかけるほどに失われていた魔力も、ラファエルさんの魔力で補われた。


……初めて感じた唇の感覚は、しばらく忘れられそうにないけれど。


私はそっと自分の唇に触れた、その時。

玉座に座る王は声を上げ、手を叩いて笑った。


「治せたか、あの傷を! お前は消耗品ではなかったのか。面白い、俺に付き従え」


王の手が、私に向けて伸ばされた。

届くはずもない距離だった。


その手が、くいと手招きするように動いた次の瞬間、私の身体は床に引きずられるように王のもとへと引き寄せられていた。


「茜!」


ラファエルさんが即座に助けようと動いたけれど、彼の手は間に合わなかった。


引きずられた痛みに耐え目をあけると、眼前に漆黒の王の貌があった。

目は笑った形をしているのに、目の奥に何の熱量も感じられない。


「口づけ一つで何度でも繰り返し使えるなら、これほど便利なものはない」


そう言って、王は私の唇を強引に塞いだ。


人生で二度目の口づけは、鳥肌と嫌悪感しか残らなかった。


王は、二度、三度と口づけを繰り返したが、しばらくすると首を傾げ私を床に投げ捨てた。

私は何度も、腕で唇を拭った。

理由も分からないまま、涙が溢れて止まらなかった。


「変わらん。なぜだ? 増えもしなければ、減ったようにも感じられん」

観察しているような声に、悔しくて腹が立った。


その時、身体をふわりと温かい膜が包んだ。

慣れ親しんだその感覚は、ラファエルさんの魔力だった。


包まれて引き寄せられる感覚に、安心感を覚えた。

目を開けると、私はラファエルさんの傍に戻っていた。

王は、私への興味を失ったらしい。


片肘をついて、私が引き寄せられるまでの動きをただ眺めていた。


「結局は消耗品か。それでも道具が余をそこそこに満足させるとはな。色気のない三文芝居も……まぁ悪くはなかった」


そう言って、私たちに向けてぱちぱちと拍手をした。


「褒美をやるか」


王は天井に向けて魔力を放出した。

魔力は打ち上げられた花火のように、玉座の色々な場所に落ちる。


落ちた魔力に反応して、何人もの人が召喚された。


「何事ですか」

「緊急招集とは珍しい」

「お呼びでしょうか」


召喚された人たちは、玉座の王に頭を下げ、玉座の間の両脇へと並んでいく。

立ち位置が決まっているかのように、順番に並んでいった。


短時間で、玉座の間は二十人以上の様々な種族が集まっていた。


玉座の王は、彼らを見渡し言い放つ。


「後継者を選定する。残った道具は一つ」

私に向けて、ゆっくりと口角を上げた。


「ーーお前が選べ。ここに集めたのはなかなかに優秀な部下たちだ。誰を選んでも許そう」


その言葉を訊いた、全ての種族の視線が、一斉に私へと突き刺さった。


王は、一人ひとり説明する。

体格の大きいワニのような獣人は、強靭な顎と外殻を持っているから武力で生きていくには優秀である、とか。

狐の耳を持つ人型の獣人は、宰相補佐として頭脳明晰だから戦略で他国を陥れることができる、とか。

真っ白い陶器のような肌を持つ、金の髪のエルフは、見た目がいいから私の情夫にすればいい、とか。


説明を訊くたびに、その勝手な言い分にだんだんと腹が立ってきた。


私が望むのは、この世界で穏やかに生きること。


それだけだった。


だから、殺気や期待を込もった視線が突き刺さるこの場で、私は覚悟を決めた。

その場で立ち上がり、王に向かって宣言した。


「私は、魔王継承権第三位のままの、ラファエルさんの道具になります」


玉座を望まず、魔族としての強さを誇ることもしない彼ならば、きっと今までのように誰より優しく使ってくれる。


そう思ったからだ。


その選択を告げた瞬間、周囲に立つ者たちの視線が、冷たい刃のように突き刺さる。


あるものは呆れたように。


またある者は私の愚かさを蔑むように。


玉座にいる青年のような漆黒の王は嘲笑う。

どこか、面白そうに。


「――臆病者が。所詮はヒト、滅びた地球の文化標本(日本人)。弱者の選択だ」


周囲からも非難と批判の声が上がる。


それでも、どんな言葉を投げられても、私に迷いはなかった。


私が選んだラファエルさんは、いつものように眉間に皺を寄せ、静かにこちらを見つめている。


多分、彼は最初に出会ったあの日、継承権を争うための道具を選ぶ気はなかったのだろう。

けれど、この王の事だから、選ばれない道具に未来はなかった。

だからこそ、私を塔へと連れかえって行ってくれた。


傍にいることで気づけた彼の優しさ。

彼以外に、使われる気はない。


私の能力は回復だけ。

誰かを守るために命を削ることしかできない、脆弱な存在。


この世界で穏やかさを求めるには、争いを好まない者の傍にいるしかない。


この選択に至るまで、どれほど多くのものを失ってきたか。


横山さんや市橋さん。

二人は、自分の意思で選択したはずだから。


私も、もう失いたくない。


「この世界で上に立つのが貴方のような人なら、私たちにそんなもの必要ない。私とラファエルさんは、継承権なんて必要ない!」


思わず怒りで口が滑った。


「こんなお城の王様なんて、貴方がやればいいと思います!」



罰せられる、そう覚悟を決めた時、玉座からは爆笑とも言える豪快な笑い声が響いた。


「お前にとって、この椅子の価値はその程度か」


いまだ腹を抱える王に、もう一度宣言する。


「私たちは継承権なんてなくても、ちゃんと幸せになる最善を選んで生きていけます」




……堂々と宣言してから気づいた。

ラファエルさんの意思を確認していない、と。


勝手に決めてしまったから、ラファエルさんの反応が怖くて振り向けなかった。

身体を縮こませながら反省していると、後ろから「ふ」と小さく笑う声が聞こえた。


「そういうことだ。俺は継承権を放棄して城を出る。反抗の意思もさらさらない、貴方の道具が選んでくれた命だ」


王は片眉を上げて、呆れたように言う。


「つまらん選択だ。……また、玉座で過ごす時間が伸びたか」

周囲に立つ部下へと言葉を続けた。


「この座が欲しくば、俺を殺せ。そうなればいくらでも譲ってやる」


空気に緊張が走る。

多分、彼らにも王は倒せない。


彼らの青ざめた表情からそう感じた。


私は、ラファエルさんの魔力にふわりと包まれた。


「さらばだ、王よ。俺は二度と貴方を父と思うまい」


その言葉をどんな表情で告げたのか、私には見ることができなかった。

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