表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/79

第五十五話  陥落

玉座の前、私を背中で隠すようにラファエルさんは立っていた。


王は、笑っている。

その笑顔だけを切り取れば、とても穏やかな表情にみえた。

ただ、シグルドさんを痛めつけ、市橋さんを砕き、クロードと呼ばれた男を殴った……そんな人だとは到底思えないくらいに。


呼吸をするだけで、緊張感で喉がひりつく。

唾液を飲み下すゴクリという音が、とても大きな音に感じるくらい、この部屋は静まり返っていた。


「こうして会うのは久しいな、ラファエル」


王は、親しみのある落ち着いた声で話し出した。


「お前に最後にあったのは、側妃の塔の前だったな」


ラファエルさんの背中が、わずかに震えた。


「あの日、目障りな側妃ともども消そうかと思ったが、残してよかった。おかげでとても興味深い」

表情に不穏なものが混ざる。


懐かしそうに、残酷な言葉を吐く。

こんな人が、ラファエルさんの父親だなんて。

ーー耳を塞いであげたいと、思った。


「……俺も、今ようやく生きていることに意味を感じ始めたところだ」


ラファエルさんの身体から、灰色の煙のような魔力が立ちあがる。

それが彼の、攻撃的な魔力だと知るのは、ラファエルさんが剣を素早く振り下ろしてからだった。


ぶおんっ。


まるで、蜂の低い羽音のようだった。


剣から一直線に魔力が放たれる。

玉座に向けられた魔力は、王に届く直前で、まるで触れることすら許されないかのように弾けて消えた。

ラファエルさんは、舌打ちをしながら二回、三回と攻撃を繰り返した。


玉座を避けるように、剣が亀裂を作り出す。


王は楽しそうに手を払う動作をしていただけだった。


「お前の母を手籠めにしたのは、ただの気まぐれだったが、腹にお前が宿ったと知ると半狂乱に泣き叫んでいたぞ」

王が目を細める。

「まさか泣きながら拒絶した俺に似た子どもが生まれるとは、思ってもいなかっただろう」


くつくつと肩を震わせ、可笑しそうに笑う。


「黙れ。母が俺の容姿で長年苦しんでいたのは知っている。だが、母はちゃんと愛情をかけて育ててくれた。侍従もろともお前に命を奪われるまではな!」


ラファエルさんの魔力が、濃さを増す。

王に向ける怒りが背中から伝わる。


私は、張り詰めた緊張感で、動くことすらできなかった。


ラファエルさんも、シグルドさんも、エカテリーナさんも、みんな王に似ていた。

似ていたからこそ生かされた、そう言っていたけれど。

この王に「生かされる」ことは、どれほど苦しかっただろう。


私の家族は、あの世界では当たり前の親子関係だった。

少しとはいえ反抗期もあって、親を困らせてしまったこともあった。

それでも、家族は私を信じて傍にいてくれた。


なら、今ラファエルさんにこんな態度をみせる、この人は何なのだろう。

私は、じわじわとこみ上げる怒りを抑えられなかった。


ラファエルさんの何度目かの剣戟が玉座の角を削り落とした。

その瞬間、王は僅かに瞠目した。


「ほう! お前の魔力は最弱だと思っていたが……届いたか! 凄いぞ、半分とはいえ俺の種を継いだだけはあるな」


酷い誉め言葉だった。

この人は、ラファエルさんを褒めていない。

ラファエルさんの中にある、半分の「自分」に向けて称賛の声を上げている。

そう思った。


目の前の、ラファエルさんの肩が激しく上下に動いている。

怒りと、魔力による連続した攻撃による疲弊だろうか。


止められたらいいのに。


私には、ただラファエルさんの邪魔にならないよう、息をひそめて見守ることしかできなかった。


欠けた玉座に座る王は、微動だにしていない。

ラファエルさんの攻撃は、小さな手の動きで全て軌道を逸らされている。


もし、私がこの王と戦えと言われたなら。

あの世界のギルドメンバー全員で戦ったとしても、多分勝機を見いだせずに戦意消失してしまうだろう。

それほどまでに感じる、戦闘能力の差。


それでも、ラファエルさんは諦めを感じさせない姿勢で攻撃を続けた。


どれほどの時間が経ったのか、分からなかった。

王が、長く深いため息を吐いた。


「……飽きた。お前の能力は、所詮わずかに玉座を削る程度のものだったか。道具も含め全員生かしておけば、もう少し楽しめたかもしれないが……道具を壊したのが惜しまれるな」


ひじ掛けにだらりと肘をつき、姿勢を崩した。

その表情からは、笑顔は消えていた。

その言葉通りに、飽き飽きとした様子だった。


「残すか……消すか。消してもまだ子は二人残るが……」


王が不穏な言葉を独り言ちている。

私は背筋がぞわりと粟立つのを感じた。


次の瞬間、玉座の王の姿が消えた。

瞬きをする間もなくーーラファエルさんの身体を、王の腕が貫いていた。


「……うっ」

ラファエルさんの、低く苦しそうな声。


その腕は、私の眼前まで届いていた。

赤い雫が、黒い大理石のような床石を濡らしていく。


王は、貫いた腕をそのままに、ゆっくりとした動きでラファエルさんを抱きしめた。


「お前にしては、よくやった。誉めてやろう。たまには俺も親らしいことをしないとな」


ラファエルさんの身体の中心から伸びた腕が、ラファエルさんの背中をぽんぽんと優しく叩く。

その異様な光景に、私は思わず叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ