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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第五十四話  欠片

泣き崩れるエカテリーナさんを見て、父親であるはずの王は笑っていた。

まるで、玩具に夢中になる子供のように。


ぱちぱちぱちぱち。


わざとらしい乾いた拍手の音が、静かな空間に響く。


王が、玉座から立ち上がり、満面の笑みで言う。


「まるで悲恋ものの歌劇のようだな。余としたことが、感動して立ち上がってしまったぞ」


王の一人称が、俺、から「余」に変わっている。

感情が隠せない時に、王は「俺」に変わるのだろうか。

だとしたら、今、目の前で胡散臭い拍手をしているこの人は、何なのだろう。

自分の子供を拷問し、泣き崩れさせ、喜ぶ。


こんなの、親なんかじゃない。


私は上着を脱いで、エカテリーナさんの前に敷く。

そして、欠片になって散らばる市橋さんを拾い集めた。

腕で抱えるには多すぎる。けれど、服を風呂敷みたいに使えば、全部集められるかもしれない。


涙でぼやける視界が、余計に市橋さんを拾いづらくする。

それが、とても悔しかった。

それでも、エカテリーナさんへの想いを託されたから。


ラファエルさんが、後ろ手に上着を投げてくれた。

成人男性一人分の欠片をくるむには、私の上着の面積が足りないことに気づいてくれたのだろう。


エカテリーナさんの両目から、ずっと涙が零れている。

俯く彼女の視線の先には、涙で濡れた欠片が詰まれていく。


「……うっ」

私の後ろで低い声がした。

意識を失っていたシグルドさんが、わずかに瞼を開けた。


「シグルドさん、大丈夫ですか?」


シグルドさんはゆっくりと視線を動かした。

私と、泣き崩れるエカテリーナさん。

一か所に集められたたくさんの欠片。


王に剣を向けたまま睨み続けるラファエルさんと、ゆっくりとした動きで玉座に戻る、顔を歪めて笑う王。


「……なるほど」


シグルドさんは、状況を把握した様子で、眉間に深い皺を刻んだ。



その時、玉座の隣に立っていた男性の身体が、一瞬消えた。

次の瞬間、シグルドさんの隣に転移した。

彼はシグルドさんの手を握り、言った。


「魔力を持っていけ、妹を連れて離れろ」


その男と同じ、銀色の魔力で、シグルドさんが包まれたように見えた。

そして、シグルドさんはエカテリーナさんと欠片の入った二つの上着を抱え込む。


「茜、ラファエル!」


私たちに、差し伸べられた手。


「兄上、姉上と茜を頼む」


ラファエルさんは、振り返らないままそう答えた。

私は、シグルドさんの手を取らなかった。


「シグルドさん、私がラファエルさんを守りますから!」


その宣言に、シグルドさんは微笑んで、頷いた。


「弟を、頼んだ」


その直後、二人の姿は最初から存在していないかのように空間に溶けた。


一連の流れを、あの王はいくらでも止めることができたはずなのに。

止めなかったのは、きっとこの状況が面白いんだろう。


私は、王の不気味な笑顔を見て、そう思った。


「……茜」

ラファエルさんの低い声。

これは、怒っている。

無謀なことをしたって、思っているのかもしれない。


「なんて無謀な……」


当たった。

こんな状況なのに、それでも少しだけ嬉しかった。

その感情が、ラファエルさんに伝わってしまったらしく、背中から感じる圧が増している気がする。


「無謀なのはラファエルさんですよ! 一人で何ができるって言うんですか。無謀にもほどがあります!」

私は自分の行動を棚に上げて、ラファエルさんに感情をぶつけた。


「ここでラファエルさんを一人ぼっちにしたら、絶対後悔するんです。それなら、一緒にどうにかした方がマシなんです」


ラファエルさんがため息をつく。

「やめろ……緊張感が薄れる」


それだけじゃなく……。

私は言葉を続けた。

「何もできずに泣くのは、嫌なんです」


横山さんも、市橋さんも、この世界で自分の行動の意味を見つけたようだった。

私も、行動の責任は自分で負う覚悟はできてる。


「ラファエルさんを一人になんて、しません」


立ち上がり、ラファエルさんの背中にそっと触れた。

まだ、回復は必要ないけど、いつでもこうして触れられる距離でいたい。



そんな私たちのやり取りを、ひじ掛けに肘を預けながら王は眺めていた。

まるで、興味のないテレビや映画を眺めているような、つまらなさそうな貌。

それよりも、王の視線は私たちではなく、その後方へと向けられていた。


銀髪の、ダークエルフ。


「クロード、お前はなかなかに愉快な選択をするものだな。余の子らを逃がしたか……情か?」


ちら、と、私たちへと視線を動かした。

「逃がすなら全員一緒に逃げれば面白いものを。隠れ鬼でもするか? お前と遊んだ、幼い頃みたいに」


クロードと呼ばれた男は、唇を歪めた。

「冗談を。お前を一度でも裏切って捕まったら、その時は全員の命が無いのだろう?」


王はその答えに満足したように、目を細めて口角を上げた。

その妖艶な笑顔が、初めて見た時のエカテリーナさんに似ている、と思った。


「今回も、許そう。……こちらに戻れ、クロード」


王に呼ばれ、その人は玉座の横に転移した。

その直後、王の拳が勢いよくその脇腹に沈んだ。

クロードは一瞬低く呻き声をあげたが、倒れることなく立ち続けた。


「許すといったが、罰がないとまた逃げるからな。痛みを覚えておけよ」

と、その人の髪に口づけていた。


私は、目の前の王という人が、不気味で恐ろしかった。

知らず震える身体を、ラファエルさんの背中に近づけた。


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