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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第五十一話  集結

ラファエルさんに「能力を使うな」そう釘を刺されたけど、私は約束しなかった。

だって、シグルドさんが捕らわれたなら、きっと大変なことになっているかもしれないから。


あの横山さんを笑顔にしてくれた人であり、私や市橋さんの背中を押してくれた人。

このまま何もしなかったら、私はきっとたくさん後悔するから。


お母さんが言ってた。

人間、どんな選択をしても大なり小なり必ず後悔はある。だからこそ、後悔が少ない方を選びなさいって。


だから、私も心を決めた。


ここで出会って、まだ短い時間しか過ごしていないけど、それでもこれだけ好きになれた。

それなら、この先もっともっと皆のことを好きになるから。


何かあったら、私はーー。



肩に力が入っていた事に気づいたのは、ラファエルさんの手がそっと肩に触れてからだった。


「茜、気負うな。俺も、エカテリーナもいる」


「俺もいるけどな」


市橋さんの声に、私は顔を起こす。

周りを見ると、心配そうな市橋さんと、扇子で口元を隠しながら、ちらちらと私を見るエカテリーナさんがいた。



エカテリーナさんの魔力が届いて一刻もしないうちに、私たちは彼女の塔で、シグルドさんの救出と奪還についての話し合いをしていた。



と言っても、私は三人の計画を訊いて頷くのが精一杯なのだけれど……。

話を聞いているうちに、知らず私の身体は緊張していたらしい。


市橋さんはエカテリーナさんに寄り添い、彼女の背中を支えている。


私もラファエルさんを見上げた。

いつもと変わらない落ち着いた表情だからこそ、その内側が見えなくて、余計に心配になる。



「ラファエル、貴方はどの程度の力を使えるのかしら」


エカテリーナさんが戦力の確認をしている。


「剣ならそこそこ、魔力はシグルドとお前を相手にしたら到底適わないな」


その答えにエカテリーナさんはため息をつく。


「貴方はそんな姿をしているくせに剣士なのね」


確かに、ラファエルさんの服装は教会にいる神官のようだ。


「格好は関係ない。お前たちより強くはないが、剣に魔法を込めることができる。無駄ではない」


まさか、魔法剣士だったとは想像もしていなかった。


私の驚きに気づいたのか、ラファエルさんは軽く目を細めた。

「剣も、魔法も、さほど必要なかったからな」

そう、笑った。


この世界でそう言えるラファエルさんはすごい! 私は拍手したい気持ちだった。

音を鳴らさずしずかにぺちぺちと手を叩いたが、ラファエルさんは私の行動に首を傾げていた。


「市橋も剣士よね、欠けた剣はどのくらい信用できるの?」


皆の視線が市橋さんに集まる。


「正直なところ、使ってみないとわからないのが現状だな。まあ、俺には()()があるから」

市橋さんの腰に、もう一本の剣。

エカテリーナさんはどこか満足気に笑う。


「なるべく、それを使いなさい。ーー最後は、茜ね」


エカテリーナさんの目が、私を真っすぐに見つめた。


私にできること。

傷を回復すること。

みんなの傷を同時に治すこと。


……それだけ、だった。


「傷は、治せます」


私は一応握りこぶしを作ってみたけれど、市橋さんに見咎められて「それは無理だろ」と呆れた顔で一蹴された。

ラファエルさんでさえ「茜に戦力は期待していない、何かあったら隅にいろ」と可哀そうなものを見る目を向けられたのは、納得できない。


「……まぁ、回復は大事よね」

エカテリーナさんの目が、窓から見える王城へと向いた。


「兄様が生きていたら、きっと必要になる」


生きていたら。

その言葉が、ひどく恐ろしかった。


生きていない可能性を考えている。

多分、私以外三人とも、きっとその可能性を考えているに違いない。


私は思わず視線を落とした。

まだ、私は甘い考えの中で生きている。


シグルドさんにもしものことがあったら。

ここにいる誰かが、治せないほど傷ついてしまったら。


私の身体がぶるりと震える。

小刻みに震える手を、私は握りしめた。


すっと横から伸びてきた手が、私の手を包んだ。

魔力ではなく、穏やかな体温が伝わる。


顔をあげると、ラファエルさんが見つめていた。

瞳の中に、心配する気持ちが満ちている。

最初は分かりづらかった表情も、今ではなんとなく理解できる。


「大丈夫だ、とは言い切れないが、お前の傍にいる。離れるな」

その言葉に、私も笑顔で頷いた。

「ラファエルさんも、私の傍にいてくださいね、守りますから!」


そう頷きあっていると、向かい側にいた市橋さんがエカテリーナさんを見て笑っている。

当のエカテリーナさんは扇子で顔を隠しながら怒っているようだ。


「あ、あなたたち、状況を理解なさいね! こんな場所でそんなふうにされるこちらの身にもなってごらんなさい!」


市橋さんはエカテリーナさんを揶揄うように肩を抱いた。


「姫、お前も俺のそばを離れるなよ? 俺が必ず守ってやるから」


そうして彼女の髪をひと房掴むと、その唇で口づけた。


目の前で見てしまった私でも破壊力のある色気なのに、至近距離でそれを受けたエカテリーナさんは額まで真っ赤になっている。


「あなたたち! 状況を考えなさいと何度言えばわかるのっ!」


市橋さんは扇子で容赦なく叩かれている。


ラファエルさんは私をそっと引き寄せて、そんな二人から距離を取った。

その、すんとした表情が可笑しくて笑ってしまった。



また、こうして笑うために、私たちは城へと転移した。

シグルドさんを救うために。

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