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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第四十話  変わらない生き方

シグルドさんの屋敷を出てから、ラファエルさんは何も喋らない。

私はその横顔を見ていた。


彼は、あれからずっと馬車の外を睨むように見つめている。


シグルドさんと、エカテリーナさん。

そしてラファエルさんも、みんな似ていた。

黒い瞳と長い黒髪、そして、なんとなく性格も。

兄姉だからなのか、それとも魔族だからこうなのか。


横山さんが消えたと聞いた時、とても悲しかった。

ギルドの仲間だったし、オフ会で何度も会った。そして何より、この世界でたった三人の人間だった。


それでも、シグルドさんが見た横山さんの最期は笑顔だったらしい。

しかも、胸ぐらを掴んで勝ち誇って消えたって。

……考えても想像ができないシチュエーション。


だからこそ。


横山さんにとって、シグルドさんとの時間が楽しかったんだよね、きっと。


(私とラファエルさんの時間、か……)



私は手のひらに視線を落とした。


「お前たちの能力は有限」

そう話したシグルドさんの言葉を思い出す。


最初から、なんとなくわかっていた気がする。

輪郭がブレるあの感覚。


(あれを繰り返せば、きっと私もーー)


ふと、視線を感じて顔を上げる。

こちらを見つめるラファエルさんの視線とぶつかる。


私が口を開くよりも早く。


「なるべくならば、使うな」


何を、とは言わない。

多分ラファエルさんも気付いている。


ネレイナやラファエルさんと見つけた魔力の循環も、完全ではないということを。


削れる速度がゆっくりになる。

完全な生命力の回復ではない。

だけど。


「……必要だと思ったら、多分、使います」


私はラファエルさんに笑顔を向けた。

もし、この世界で知り合ったラファエルさんやネレイナが苦しんでいるとしたら。


私の力で間に合うのならば。


私は回復を使う。



「……横山さんは、間に合えば助けられたと思いますか?」


私はずるい。

自分で出せなかった答えをラファエルさんに求めている。


ラファエルさんは顎に手を当て、目を閉じる。

多分、たくさん考えてくれている。


でも、きっと。



「無理だろう。お前の回復は身体を治すものだ。……綾香は、違う」


色々な言葉を飲み込んでくれたんだろう。

魔力の循環では、失われる魔力は補えなかったんだろうか。


その気持ちが表情に出ていたのか。


「循環には、多分条件がある。兄上では、遅すぎた」

その言葉の意味を、私はまだ理解していなかった。



ラファエルさんの塔に戻るまでの道なりに、いくつもの塔が見えた。その全てに灯りはなく、使われていないようだった。

通り過ぎるたび、塔の由来をラファエルさんに尋ねる。


塔は誰の持ち物で、どんな人たちが暮らしていたのか。

なぜ、どれも灯りが消えているのかを。



……正直、どれも事故物件のようで、夜に知りたくなかった血なまぐさいエピソードばかり。一人だったら絶対に通りたくないと思った。


でも、ラファエルさんたちには幽霊の概念はないようで、私が怖がる理由は理解できなかったようだ。

そんな話を淡々と語るラファエルさんに、住んでいる塔について訊いてみた。


「ラファエルさんの塔は、最初からラファエルさんの持ち物なんですか?」


彼の眉がぴくりと動いた。

不機嫌そうではないけれど、複雑な表情。


「あの塔は王が母へと下賜したものだ。……母も予想していなかっただろう」


ラファエルさんのお母さんの塔。

それにしては、エカテリーナさんやシグルドさんの塔と違って、飾り気がない。


「母も、侍従もあの塔で殺された。王の不興を買ったからな」


いつも過ごす塔を思い出す。

雑草一つ生えていないが、何も植えられていない庭園。

その場所を通るとき、ラファエルさんは何を思っているのだろうか。


「俺の母でも、お前は恐怖を感じるものか?」


返事に何の期待もしていないような、温度のない目でラファエルさんが私に尋ねた。


いつも過ごす塔で、ラファエルさんの大事な人が亡くなった。でも、庭園には何もない。

見ず知らずの人が無惨に亡くなった場所には、申し訳ないが恐怖を感じる。

でも、ラファエルさんのお母さんだとしたらーー。


「うまく言えないけど、ラファエルさんのお母さんや、侍従の方は怖くないかもしれません」

ラファエルさんはその答えが意外だとでも言うように、僅かに首を傾けた。


……ふと、疑問が頭に浮かんだ。


「お墓は? みんなのお墓はないんですか?」


怖いというより、そこに何も残っていないことの方が、少しだけ寂しかった。


(お墓……)


私は、ふと馬車の床を見た。

正しくは、そのずっと下。


地球が滅んで、私たちは化石になって。

この世界で復活させてもらえたけど、ほかの人たちはまだ……。

お母さんや、お父さん、お爺ちゃんたちも、みんな。


「王家に名を連ねるものは、寿命が近づけば城の地下に棺が用意される。しかし、処刑されたものは、どこに片づけられるのだろうな」


淡々というラファエルさんが悲しくて、私は言った。


「死ぬと、魂は極楽浄土へ行くんですって。だから、きっと魂は幸せな場所にいますよ」


ラファエルさんは「極楽浄土とやらが何かはわからんが、苦しくなければ、それでいい」と、微かに口角を上げていた。


馬車の揺れに合わせて、視線が揺れる。

さっきまで見えていた塔の影は、もう見えなかった。

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