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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第三十八話  報告と、喪失と

シグルドは王へと報告に来た。


不快な緊張感のある城が、今日はやけに暗かった。

シグルドは覚悟を決め、いつものように門に立つ兵に開門を促した。


重い音が響く。


開いた先、目に飛び込むのは玉座。

そこに座る王。


王と視線が重なる。

初めから、王はシグルドを見ていた。


シグルドは玉座へと歩みを進めた。


宰相は今、王を向き目を閉じている。

もう、こちらに意味ありげな視線は向かなかった。


「報告を」

直接そう促す王は、にやにやと口元が歪めている。


(結果を、知っていたのか)


シグルドは己の愚かさに気づく。

自分は、王を読み切れていなかった。

遅すぎる後悔を、シグルドは静かに受け止めた。


「貯水池は恙なく完成に至りました。水も私の魔力で十分に満たしております」


しかし。


シグルドは言葉を続けた。


「貴方から下賜された魔動器を喪失しました。ゆえにーー」


シグルドは真っすぐ王を見つめた。


「継承権の喪失。後継者としての権利を放棄します」


シグルドは胸に片手をあて、丁寧に一礼した。

落ち着いた声が玉座の間に響く。


王はシグルドの報告にくつくつと笑う。


「お前はまだ、親からもらった玩具を壊す年齢だったか!」


そして、耐えられないとでもいうように、目の前で愉快そうに腹を抱えて笑った。

ひとしきり笑った後、王は指で涙を拭いながら「よかったな」と言った。


「これで、物は扱い方を間違うと壊れることが学べたな」


そして、ひとつ大人になったなーーと、また笑った。


シグルドは何も答えず、礼を崩さなかった。

しかし、腰の後ろで握られた手は色を失うほど握りこまれていた。

その掌は、爪が食い込み血がにじんでいることを、シグルドは知っていた。


王は「行け」と短く言い、一人玉座で笑い声をあげていた。


(それほどまでに、愉快か)


シグルドは一礼し静かに玉座を離れた。



シグルドは扉の外で、手のひらを開く。

冷静さを保つために無様にも食い込んだ爪痕。

動かすとじわりと血がにじむ。


シグルドは深いため息をついた。


即座に転移する気にはなれず、長い廊下を一人歩いた。

背後からかつかつと靴の音が近づく。


「シグルド」


声をかけたのは宰相クロードだった。

シグルドは足をとめ、クロードを待つ。


目の前に来たクロードは、僅かにシグルドを見下ろしながら、静かに肩に手を添えた。

シグルドの喉が、静かに震える。


クロードの目に宿る感情に、シグルドは頷いた。

彼はずっと伝えていた。


「汲み取れなかった俺が悪い」


クロードの眉が僅かに動く。


肩に触れたその手に、シグルドは己の手を重ねた。


(大丈夫、理解した)


シグルドは胸に手を当て、一礼した。

そして、クロードを残し、その場から転移した。




+ + +



シグルドは執務室に戻ると、即座にエカテリーナとラファエル、そしてそれぞれのパートナーを塔へと招いた。


表向きは「家族」でのささやかな「食事会」として。


(表立って家族として過ごしたことなど、ない、が)


侍従に伝令を指示したあと、短く自嘲した。


塔に残る執事と侍従らに指示を出し、食卓の並びを指定する。

二脚向かい合っていた椅子を動かし、新たに四つ運ばせた。


綾香の愛用していた、ひとまわり小さな桜色の椅子は、シグルドが自ら隣へと動かした。


シグルドは、しばらくその椅子に視線をやると、一度だけ軽く指でなぞった。



顔をあげ、窓の先に見える王城を見た。

そこから聞こえる鐘の音。

そして近づく軽快な馬車の音と、届く二種類の魔力。


「来たか」


シグルドは椅子の背から手を離し、弟妹を迎えるために下へと降りた。



最初に姿を見せたのは実妹のエカテリーナだった。

後ろにはエカテリーナの「道具」である市橋が立っている。

エカテリーナは扇子で口元を隠し、市橋と何かを話していた。

あの日に比べ、確実に近づいた距離。


シグルドは市橋が妹を見つめるその瞳が柔らかいことに気づく。

エカテリーナもまた、警戒している様子がない。


(珍しいことだな、お互いに)


二人を侍従に任せ、シグルドはそのまま待った。

彼らの後姿を見送りながら、そっと口元を緩めた。



続いて到着したのは異母弟のラファエルと、その「道具」である茜。

久しぶりにその姿を間近で見たが、雰囲気が明らかに変化していることに瞠目した。


異母弟は、人との関わりを拒絶し、目立たぬよう百年以上を塔で静かに過ごしていた。

見目の良いシグルドの弟ながら、長年城にいても、浮いた噂の一つも聞かない。


そんな男が、馬車を降りるときに、茜に向かい手を差し出している。

年齢を考えれば当然ではあるが、まさかそんな気遣いをこの目で見ることになるとは。



(あの王の予想が外れたな)


きっと、二人ならば、自分のように愚かな選択はするまい。


シグルドは心を決めていた。


全てを伝えることを。


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