表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/76

第三十二話  期待

※シグルド寄りの三人称です

朝の食事を終え、シグルドは王城へと向かった。


(また気まぐれか)


小さくため息をつく。

もっとも、王の前でそんなことをすれば命が危うい。

この城では一瞬たりとも気が抜けない。


シグルドは玉座の間に続く重厚感のある巨大な扉の前で、もう一度深いため息をつく。

この部屋の広さと、扉の大きさすべてに辟易する。


(権力を誇示する役割にしかならん)


顔を正面に向け、扉の両側に立つ兵に入室の合図を送る。

扉は鈍い音を立て、開かれた。


玉座の王と、静かに立つ宰相クロード。


「遅い」


玉座のひじ掛けに片肘を預け、前傾姿勢で王は言う。

宰相を通さず、直接話すのは一応息子、という立場だからか。


開口一番にそれかーーとシグルドは面のような表情で思った。

ここで思考を利用されないために、全ての感情を切り離す。


「お呼びと聞き、はせ参じました」


シグルドは胸に手を当て軽く頭を下げる。


「お前に任務を命じる。国境付近にある隣国の防衛拠点の街が、そろそろ目障りだ」

王はそう言うと、隣の卓から丸めた書簡を掴み、シグルドへと放り投げた。

足元に転がった紙をシグルドは拾う。

王が、相手に頭を下げさせたい時にわざと行う、不快な行動。


シグルドは、何の感情も浮かべず面を上げた。


王の口の端は醜く歪む。

どうやら、楽しんでいるらしい。


「行け」


顎は扉を示す。

シグルドはまた一礼して扉へと歩き出した。


すると、背後から。


「そういえば、道具の様子はどうだ?」

と、声をかけられ、足を止めた。


シグルドは向き直り「塔で生きております」と短く伝える。


王の目が三日月のように細く歪む。

無言で続きを待っている。

そう感じたシグルドは、言葉をつづけた。


「魔力量は安定しており、使用後は適切な食事と休息を与えています」


その言葉の何が気に入ったのか、王が、にぃ、と歯を見せて不快な笑みを見せた。


「道具をうまく使え。ーー期待している」


そして、玉座の王は瞳を閉じた。

隣に立つ宰相が、ちらとこちらに視線を投げた。

ほんの一瞬だった。


だが、その目に何かが宿っていた。


シグルドには、その意味を理解できなかった。




+ + +



玉座を出て、シグルドは己の塔へと転移した。

綾香の待つ執務室へは飛ばず、庭園のベンチに腰を下ろす。


噴水を見つめ、シグルドは短く調息した。

やがて指先に血が巡る感覚が戻ってくる。

赤みが帯びてくる指先を見つめ、考える。


(何を企んでいる?)


王が考えもなく「期待」などと口にするはずがない。

シグルドは思考を巡らせ、考えられるすべての可能性を導き出す。


何かを決定的に見誤っているーーそう感じるのだが、持っている情報で出せる答えは僅かだ。


(クロードのあの視線……)


意味ありげにこちらに向けた視線。

シグルドは、あの目を向けられた日を思い出す。


今は亡き、王妃であった母の塔。

首を胴から切り離され、こと切れた母。

同じように赤い池に沈む弟妹たち。

世話をしてくれた執事や従者たちまでもが、すべて。


唯一、エカテリーナだけは生かされた。


弟妹の中でシグルドともう一人だけ、王に似た特徴を持つ。

己の写し身のような女が、(ひざまず)き、視線を逸らしもせず、命乞いもせず、自分の有用性を説いたことで興味が湧いたのだろう。


シグルドは王の隣ですべての終わりを()()()()()()()()


あの日の前日、宰相はあの視線を向けていた。


「伏兵でも潜ませたか?」

書を開き、明日の任務を確認する。

兵を潜伏させる場所も、罠を仕掛ける場所もない。

ただ、規模の大きい単純な任務だ。


「ーー俺の暗殺でも企むか? 王よ」

シグルドは空に向けて呟いた。


ふと、塔の窓からこちらを見つめる綾香の姿に気づいた。

いったいいつから見ていたのか。


綾香の姿勢は相変わらず胸元に手をあてている。



(よく飽きないものだ)


シグルドは思わず唇を緩めた。

そして次の瞬間、それに気づき眉間に手を当てる。


「俺らしくもない、呆れたものだ」


そう自重し、シグルドは執務室へと転移した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ