閑話 分析と異常
※ラファエル視点
転移魔法を使わず、自分の住処に戻ってきたのは日をまたいでからだった。
城のはずれにある古く寂れた塔。
メイド上がりで第七側妃であった母が、俺を身ごもった時にその身分とともに与えられたものだ。
王としては、ここで生きて死ねばいいーーということだったのだろうが、何の因果か継承権を手に入れた。
兄や姉、弟妹たちが悉く死に絶えたから。
理由は単純なものだった。
見目が悪いだの、能力が足りていないだの、泣き声がうるさいだのーー。
王の気に障った、ただそれだけの理由で、果たして何十人の妃や血を受けた子どもが死んでいったか。
俺が生き残ったのは、容姿が似ていて静かだった、ただそれだけの理由だ。
(あの王は自分が特別だからな)
呆れてしまう。
結果、継承権第三位とは名ばかりに、いまもここで生活をしている。
従者やメイドもいない。それが常だった。
塔の最上階に、茜を休ませた。
母が長く使っていた女神の祭壇。
そこにある長椅子が茜の定位置のように思える。
ただ、寝心地はよくないかもしれないが。
彼女の睡眠のために、ベッドくらい用意するべきかーーそんなことを考えながら、自室の椅子に腰かけた。
机に上着とすべての持ち物を投げるように置く。
「ふぅ……」
いつしかつきなれたため息。
しかし、長い一日だったーーと思う。
王の目を避け、静かに息を潜めてきた自分が、これほど目立つ行動をとったのはいつ以来か。
今回の事が王に気づかれたら、あの町もろとも消されるだろう。
魔族としてそれなりに魔力はあると自負しているが、それでもあの迷いのない冷酷さに叶うはずもない。
この後継者争いも、実際に玉座を開け渡したいわけではなく、せいぜい「長い時を生きた者の暇つぶし」と言ったところか。
では、何故俺は動いた。
自分でも理解できない異物のようなもの。
それが胸の奥にある。
言葉で言い表せない何かが気持ち悪くさえ思うが、それに突き動かされた。
衝動で動いていいことなど一つもないというのに。
ただ、突然現れ道具として下賜された存在を、排除したいとは思わなかった。
塔に響く二人分の足音や、息づかいに懐かしさを重ねている可能性もある。
そんな中、確認できた事実。
茜の回復は単体で使うと削られるが、補うものがあれば減らないということ。
補う相手から奪うことも、奪われることもない。
荷物から一冊のノートを取り出し、書いたものをみる。
ネレイナと茜の魔力の馴染み方。
そして無意識化の譲渡。
二人は途中から遊んでいるようだったがーーむしろ効率は上がった。
俺と茜は……。
ふと指先を見つめる。
「昨日より、今日のほうが馴染んでいた、か……」
変化の可能性として考えるのであれば、「相手への拒否感の有無」もしくは「信頼」または「好意」ーーか。
さすがにそれは非合理で、そんなものは測定不能だ。
だが、ネレイナは俺の掌の熱が変化したと言っていたな。
「ずるい!」「あったかいよ?」と俺に近寄って笑う。
子どもは苦手だが、あの真っすぐな瞳と無邪気さは懐かしい。
かつての弟妹によく似た瞳。
「お姉ちゃんの時だけあったかいのずるい!」
その言葉がまた浮かぶ。
俺は思い浮かぶ合理性をノートに書き記そうとした。
だが、机に肘をついて、額を押さえる。
紙に理論を書いてーー、納得できずに線を引いて消して。
勝手に浮かぶのは、茜が笑っていた記憶。
「……面倒な存在に変わりはない、か」
またひとつ、深いため息をついた。




