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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第一章  王城編

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第二十話  教会③

「とりあえず、危険性は感じられない」


ラファエルさんは手を離して深く息を吐いた。

どうやら心配してくれたようだ。


「食え」と懐から布に包まれた焼き菓子をくれた。

おやつなのか、労いなのか。

私たちはおやつタイムを楽しんだ。


サクサクでほろほろした焼き菓子は、薄い甘さのクッキーのようで美味しかった。

ネレイナも両頬を抑えながら「おいしいー」とかわいらしく舌鼓をうっている。


そんな中、ラファエルさんは紙と筆で何かを書き記していた。

筆が止まるまで見守っていたら「考えられる可能性は調べてみるぞ」と紙から視線を外してこちらをみた。


どうやらまだ実験を続ける気らしい。


「がんばるね!」と、ネレイナもお菓子に釣られてやる気満々だ。


そこから先は同じような動作を繰り返し行った。


「もう一度触れてみろ」

「今度は両手」

「相手を意識して触れてみろ」

「次は何も考えず、ただ触れろ」


最初は真面目にやっていたつもりだったのに、手を繋いだり離したりすることが楽しくなった。


(まるで踊っているみたい)


そう思ったらなんとなく楽しくなってしまって、ネレイナと一緒に声を出して笑ってしまった。

ネレイナも「またあったかくなった!」とか、「キラキラしてる!」と始終笑顔をみせてくれた。



「減っていない……なぜだ」

ラファエルさんのその視線は私の指先から一瞬も離れなかった。

ただ、ひとり眉間にしわを寄せ、息を詰めながらーー。


「ネレイナ、これで最後だ。もう一度俺の手に触れてみろ」


だいぶ慣れた様子のネレイナは、指先をちょこんとラファエルさんの手に重ねた。

今度は耳もそんなに伏せていない。

子どもは仲良くなるのが早くていいな。


「ちょっとあったかーい」

最初より楽しそうで微笑ましい。


「……誤差の範囲内か、やはり俺では混ざらないと言える。条件は拒絶のなさか、感情の壁か……」


顎に手をあて、小さな声でぶつぶつ言っているから後半はうまく聞き取れなかったけど。



「ラファエルさん、私ともやってみますか?」


私はネレイナに続いて自分もーーと手を差し出した。

ラファエルさんの動きが一瞬止まった。


「……あぁ」


彼からも差し出された手に、そっと重ねた。



ふわんと柔らかい魔力が流れ込む。

なんだか春の陽だまりみたいなあたたかさで、眠くない日にこの手があったら便利だなと感じた。

ネレイナの体温も心地よくて、冬の湯たんぽみたいで幸せなんだよね。

勝手に人の体温を比べているとーー。



「昨日よりは、ましだ」

「二人とも誤差の範囲内だ」


ラファエルさんはそう言ってまた魔力を流して確かめているようだ。

少しだけ、彼の指先の力が強くなった気がした。


彼は視線を逸らし、わずかに唇を引き結んだ。


「ラファエルさん難しいお顔してる?」

ネレイナが首をかしげる。


「ちゃんとあったかいよ? いやじゃないよ? ラファエルさんも優しいもん」

いつの間にもらったのか、もう一つの焼き菓子を食べながら嬉しそうだ。


お菓子の魅力がすごいのか、少しだけネレイナが純粋すぎて心配だ。

年上としてちゃんとサポートしたいな。


離すタイミングを失っていたのか、繋がれたままの手にネレイナも触れる。

三人で手を重ねると、なんだかちょっと格好いい。


「あ! お姉ちゃんと一緒だ」


ネレイナが顔をあげる。


「お姉ちゃんとラファエルさん、あったかさがちょっと似てるのね」


その言葉にラファエルさんの目が見開いた、が。

「……気のせいだ」


「ラファエルさん、お姉ちゃんのときだけちょっとあったかいのずるいー」


ネレイナの追撃に「もうやめろ」と、額に手を当て、その視線を少しだけ泳がせていた。

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