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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第四十五話  文化標本④

呆然としていた学者の一人が、思い出したかのように動き、私に一冊のノートを手渡した。


受け取ってぺらぺらとページを捲る。

どういう状態で保管されていたのか、多少変色しているが、中身に問題は無さそうだった。


「これは何と書いてある?」

「これは、どうやら国語の授業のノートです。誰かが学校で習ったことを一生懸命に書き写したもののようですね」


よく見ると、ページの端に動物のような落書きもあったり「ねむい」と、関係のない一言が書かれたりもしている。

私は思わず笑みをこぼした。


「国益になりそうな重要な内容は書かれているか?」


詰め寄ってきた学者に、私は言う。

「私たちの国のように、今後国がお金を出し、未来の子どもたちの育成のために義務として九年間の教育を受けさせていくというのなら、その勉強方法の一つとして参考にはなるかもしれませんが……」


「他のものはどうだ?」


彼らは、誰かの使っていた「鞄」を差し出し、この中に入っていたと中を広げて見せる。


古びた教科書、ペンケース。こっそり持ってきたのか、電源の入らないスマホもある。

中に入っていたキャラクターもののキーホルダーは、かつて私が友達とお揃いに買ったものと同じものだった。



(懐かしい)



自分と同じ、高校二年生の教科書がここにあった。

私は「教科書とノートは勉強のためのもの、ペンケースにあるこれらは筆記用具です」


ラインを引くための蛍光ペンは、劣化したのか割れている。

それでも、見慣れた筆記用具が懐かしかった。



私の説明が、自分たちの想像していたものではなかったのか、研究者たちは肩を落とした。


「完璧な状態だったから期待していたのに……」

悔しそうに顔を歪める学者もいた。


ならば、と学者たちはシグルドさんに頭を下げた。


「新たに二体の完全な石像が発掘されたのです、これを女王にも見ていただきたい!」



シグルドさんはそんな彼らにまた鋭い視線を送る。

それでも彼らも必死に懇願していた。


「歴史的価値のあるものを奪われ続ける我々の切なる願いを、どうか!」


私や、市橋さんや横山さんのことだろう。

彼らの目には、多分きっと私はどこまでも文化標本に過ぎないのだな、と思った。



彼らを見る私の心は、どこか冷めていた。



+ + +


彼らと、丁寧に布で包まれた二体の石像。

そして私たちはまた、玉座の間に転移した。



顔を上げ、エカテリーナさんを見た。


女王様の傍ら、その左斜め後ろには、まるでそこが定位置だったかのように市橋さんの石像が鎮座している。


レプリカで、ただの石像。

それなのに、どこか誇らしげに見えるのは気のせいだろうか。



「市橋さんの居場所だ……」


私がつぶやくと、ラファエルさんが背中に触れた。

そっと肯定してもらえたような気持ちだった。


シグルドさんは何の説明もなく転移させた。

エカテリーナさんにしてみれば、突然現れた市橋さんの石像をどう受け入れたんだろう。


でも今、玉座に座るエカテリーナさんの目元は少しだけ赤くて、優しく緩んでいる。

私達がいない間に、きっと二人だけの再会を果たしたんだろう。


私がもし……会えなくなったラファエルさんの石像を貰えたとしたら、きっと嬉しくて何度も触れてしまうかもしれない。

少し想像しただけでも悲しくて、私はそれ以上考えるのをやめた。


ふと、視線を泳がせた。

市橋さんはそこにいるのに、横山さんの石像は見当たらない。

そんな視線に気付いたのか、エカテリーナさんの隣へと戻ったシグルドさんが口角をあげた。


その表情を見て、なんとなく理解した。

横山さんはきっと安全な場所にいる、と。


私は安心してシグルドさんに頷いた。



「お前たち、私に見せたいものがあるとか……」


エカテリーナさんは、布に包まれた石像を宝物のように抱えている学者と研究員たちに声をかけた。



「こちらをご覧ください」


そう言って、ゆっくりと布を解いていった。

そこにいたのは、私たちと同じ、あの場所にいたランカーだった。



「ゆいなちゃん? 山田くん!」


私は思わず声をあげた。

素早さランカーで、盗賊頭という称号を嫌がっていた同い年のゆいなちゃん。

市橋さんと同じく聖騎士で、大楯を使う防御力ランカーの山田くん。

彼は高校一年生で、オフ会ではみんなの弟のような存在だった。


何度もボスレイドを経験した。

一緒に進めたメインクエストは数知れない。



私の目から、涙が溢れた。

会えて嬉しい、その気持ちもあるのだけれど、もう喋らないその姿がなによりも悲しかった。



私の涙に、彼らは微塵も気付かない。

それどころか、エカテリーナさんに聞くに耐えない直談判をし始めた。


「私たちはこの二人の文化標本を復元したいと考えています。あの三人の時のように、豊富な魔力と資金援助があれば可能だと考えております」


そして、研究員は一つの資料をシグルドへと渡した。


「三体が復元できた理由は、王族から提供された魔力を多く保護膜内部に注いだこと。ならば、王族の魔力のみを注げば、前回よりも完璧な文化標本を復元できるはずなのです!」



私は自分の腕を、身体をみた。

知らないうちに、私たちはラファエルさんや、エカテリーナさん、シグルドさんの魔力を借りていたのかもしれない。

……もしかしたら、あの王のものも混ざっていたかもしれないけれど。


それでも、こうして今再び動いている理由が彼らの魔力の提供があってのことなら。



(色々あったけど、私たちは運が良かったんだろうな……)


そう、思った。


ただ、続く言葉が、私の胸に突き刺さった。



「完璧に復元できたら、今度こそ我々の所有にしたいと考えております。……前回の三体は貴方がた王族の道具となりましたが、今回こそは我々のために復元したいのです!」


研究のための復元。

彼らの私たちへの言葉には何の情も感じられない。


「年齢の近い男女の石像です、先王のように無理に潜在能力を覚醒させなければ、繁殖器官は壊されないはず。ならば安全に繁殖を促し、失われた種の復元も可能かと」



この人たちは、何を言っているのだろう。

彼らは、二人の気持ちを何も考えていなかった。

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