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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第四十四話  文化標本③

私とラファエルさん、そしてシグルドさんは、採掘場へと転移した。

エカテリーナさんは城を離れることはできないと、少し不服そうだったけれど。


研究員や学者たちは、この場所に王族が来たことを、名誉なことだと嬉しそうな顔をしている。



私は広く開けたこの場所で、その足元にどんなものが埋まっているのか、そればかりが気になっていた。


土地が、何段も深く掘り下げられている。

一番深い場所。

そこにはロープが張られ、立ち入りを制限していた。


「ここは地殻変動が少なかったらしく、ほぼ完全な文化標本が何体も発掘された場所です」


何体も。


私たちがこの世界で意識を取り戻した時、私たちが入っていた薄い膜のような入れ物がたくさん並んでいた。

どれも中身はなく、彼らは私たち三人以外は「失敗した」と言っていた。



(何人の人がいたんだろう)


私はようやく、そう思えた。

あの時は余裕がなかったとはいえ、あの部屋にあった中身のない入れ物に人が入っていたとしたら、あの場所で何十人が失われてしまったのだろうか。



「我々が完全体を復元成功できたのです。その三体のうちの一つがそこにいる文化標本ですな」

それでも、復元できたのは偶然の産物なのだという。


完全な姿で残されていても、命を吹き込めた例はほとんど無かったらしい。

同じように完全な姿であっても、失敗例の方が遥かに多かったーーそう教えてくれた。


「欠けたものも復元できないかと他の石像から切り取り修復を試みたのですが、それは一度も成功しませんでした」


残念そうな研究員たちの顔が、恐ろしかった。


足りない部位を別の石像から切り出し、繋ぎ合わせる。

それを当然のように語る彼らを見て、背筋が冷えた。


「この場所はまだまだ掘り進めます。きっとまだ数体は発掘できると思いますから」


良い場所を見つけたと目を輝かせる彼らに、誰も何も言わなかった。



+ + +


次に案内されたのは、考古学博物館だった。

大きな3階建ての博物館。

私が日本にいた頃にも、家族に連れられて行った事がある。

この場所も、彼らにとって同じような場所らしい。

私たち以外にも、従者を連れた人たちが何人も入っていく。

ただ、私たちの時代と違うのは、たぶん彼らは上流階級なのだと分かる見た目をしている。


私たち庶民が、子どもの遠足や家族旅行で気軽に足を運ぶような場所ではないのだと分かる。


「考古学への理解は、ある程度知識を持たねばできぬ事。地球で使われていたような古語まで理解するには、相当な学びが必要ですから」


そう、学者は言う。

だからこそ、あの日私たちと会話ができたのだ、と。


この場所には、地球だった頃の地層から発掘されたほとんどの出土品があるらしい。


私は、建物の前で大きく深呼吸をした。

何を見るのか。

ちゃんと受け止めないと。

覚悟を決めて、ゆっくりと足を踏み入れた。



メインホールには、たくさんの石像が並んでいた。

どれも、どこかが欠けている。


私はその一つに目をやった。


頭部が欠けている女性の石像。

下に書かれた説明文には、出土した場所と、説明文が書かれていた。

学者のコメントも。


『喪失した頭部には想像を掻き立てる浪漫がある。どのような貌をしていたのだろうか』


……ただの芸術家の作品であれば、この説明を読んで同意したかもしれない。

なんなら、美術の時間に先生から「喪われた頭部を想像して描きなさい」そんな課題もあるかもしれない。



でも、ここにあるのはただの石像じゃなくて、私たちだった。

採掘場の写真も貼られている。

その中には、私と、市橋さんと、横山さんが地中から発掘されている石像もあった。

そして、ホール中央には堂々と飾られた精巧な複製品。


まるで、本物の私たちのようだった。



手を触れないでください。


その文字の先に、私たちがある。

この世界で発掘されたばかりの、かつての姿を模したレプリカ。

ボス戦のために詠唱の準備をするために指を組む私。

扉を開ける形で止まる市橋さん。

胸に手を当て、心の準備をしているような横山さん。


あの日が、そのまま石像になっている。



それまでいくつもの出土品を静かに見ていたシグルドさんが、眉間に皺を寄せ、苦しそうな貌で横山さんの石像を見つめていた。



学者たちがそんなシグルドさんに説明する。


「見事でしょう? ここまで完璧に復元できたのは我々の弛まぬ努力の賜物です」


「発掘には細心の注意を払いました。欠けたら終わりですからな!」


その説明を受けながら、シグルドさんはずっと横山さんから視線を外さなかった。



「これは、俺が貰う。こっちは女王に献上する」

そして、私の石像を指差し、ラファエルさんに尋ねる。


「お前は、これをどうする?」



ラファエルさんは私を見た。

私の石像のレプリカを、ラファエルさんはどうするのだろう、と。



「砕く」



ラファエルさんはその言葉を放った直後、石像に向けて腕を伸ばした。

学者や研究員たちが止める間もなく、魔力で私のレプリカを粉砕し、一粒残らず消してくれた。


そして、私たちが発掘されている画像や資料さえ、燃やし尽くしてしまった。



シグルドさんは、横山さんと市橋さんの石像を魔法で転移させてしまった。



「は……? え? あの石像には文化的価値があるのです!」


「どうかお返しください! 実物を並べたからこそ可能だったのに、あれほど精巧なレプリカは二度と作れない!」


「この博物館の目玉だったのですぞ!?」



学者や研究員、博物館の館長らは口々に言う。

それでも、シグルドさんとラファエルさんは何も言わなかった。


「あの二体は城で保管する。その価値は我々が一番理解している」

そうシグルドさんは言う。


「妻に属するものは全て俺のものだ。権利は俺と妻にある」

ラファエルさんの顔は、わかりやすく怒りに満ちている。



だからこそ、私は嬉しかった。

文化標本としての私を、見せ物から守ってくれた。


「私は、砕かないでくださいね」

そう微笑むと、ラファエルさんは「当然だ」と肩を抱いてくれた。


シグルドさんは呆れたように「こんな場所で惚気るな」と笑った。



研究員や学者たちは、何もない空間を見て呆然としていた。

三体の石像が並んでいた場所だけが、不自然に空いている。


けれど、その光景を見て初めて私は思う。


私たちは、ようやく展示物ではなくなる事ができたのだ、と。

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