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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第四十三話  文化標本②

シグルドさんの怒りを含んだ低い声は、広間全体に響いた。

感情的に声を荒げた訳ではない。

ただ静かに、考古学者と研究員たちへと向けられた。



「お前たちには、そこに立つ茜という人間の価値には永遠に気付けまい」


その言葉に、一瞬耳鳴りがする程の沈黙が走る。

あれほど喋っていた耳を塞ぎたくなるような言葉が、シグルドさんの一言でぴたりと止まった。


シグルドさんは私に顔を向け、一度だけゆっくりと目を閉じた。

それがまるでシグルドさんからの謝罪のようで、私は心が締め付けられるように苦しかった。


シグルドさんは、この場にくるかどうかの決定権は私に委ねてくれた。

選んだのは私なんだから。


(大丈夫、平気です)


私はシグルドさんに向けて微笑んだ。

そんな私を見て、シグルドさんはどこか苦しそうに眉を寄せた。

そして改めて全ての学者と研究員たちに向けて言う。


「ーー価値に気付けない愚か者共に、そこにある全ての出土品は無駄というもの。長年支援をしてきたが、ただ無駄金を食う存在だったのならば、今この場で消されても文句は言えまい」


その言葉は、玉座に座る女王へと向いている。

エカテリーナさんは、扇子で顔の半分を隠しながら、シグルドさんへと返した。


「無価値で愚かな考古学者と研究者なら、存在価値も貴重な文化標本以下ね。国として役立つなら支援を続けたけれど……価値ある物は残して、使えない者たちを消す事に異議はないわ」


エカテリーナさんは目を細め、シグルドさんと、眼下にいる全ての学者と研究員をみる。



凍えるような視線に射抜かれた考古学者と研究員たちは、「ご冗談を……」とひきつった顔で言った。


「我々が古代の知恵を復活させることで国の発展に繋がったものもありましょう」


一人の考古学者が自分たちの手柄を並べ立てる。

それに次いで何人もが、これも、あれもと重ねていく。


それでも玉座に控える宰相と、彼らを睨め付ける女王様の心にはまるで響かない様子だった。

自分たちが消されるかもしれない、その怯えはその場にいた全ての人に伝わっていく。


私は小刻みに震えるその人たちを、ラファエルさんの背後から眺めていた。



王と宰相が無理ならば、と、ラファエルさんに謝罪をした。

ぺこぺこと何度も頭を下げ、中には床に頭を打ちつける人までいる。

私は、彼らにとってのシグルドさんやエカテリーナさんがどのような存在なのかを改めて知る事ができた。



私の事なのに、三人が自分の事のように怒ってくれている。

それだけで、私は十分だと思った。


私はラファエルさんの背に触れ、僅かに振り返ったラファエルさんに笑顔を向けた。


(もう大丈夫)


そう伝えたつもりなのに、ラファエルさんは剣を構えたまま動かなかった。


彼らの謝罪を許す気が無いことを知ったのは「覚悟しろ」とラファエルさんが言い放った瞬間だった。


ラファエルさんの身体から、魔力が煙のように立ち込めている。

そんなラファエルさんを、シグルドもエカテリーナも当然のように受け入れていた。


「構わない、どうとでもなる」


シグルドさんの声がまた響いた。

そして、学者と研究員たちはみな頭を抱え目を閉じた。

涙を流す人や、恐怖で叫ぶ人。



でも、私はこんな事のためにここに来たんじゃない。

私はラファエルさんの隣に歩み出て、そっと剣に触れて下ろしてもらった。


そして、この場を設けてくれたシグルドさんとエカテリーナさんを真っ直ぐ見つめた。

王族を見つめるのは不敬! って叱られるかもしれない。

それでも、私はしっかりと胸に手を当て、深く頭を下げて感謝をした。


「ありがとうございます、おかげで私の目的を思い出しました」


私の声に、全ての視線が集まる。


「私はここで、あの世界で生きた歴史を探しに来たんです。私にとって大切な人以外からの『私』の扱いなんて、些細な事でした」


そう言って胸を張る。

そんな私に優しく目を細めてくれたのはエカテリーナさんだった。

シグルドさんも、どこか呆れた顔で笑っている。


ラファエルさんは、渋々という感じで剣を収めてくれた。



私は改めて、学者と研究員たちに伝えた。



「どんな物が発掘されたのか、その場所を見ることはできますか?」


命が繋がったからなのか、研究員や学者たちは、私にも少しだけ丁寧に対応してくれるようになった。

それでも、彼らにとって私の呼び方は「文化標本」のままだったけれど。

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