第三十二話 理想の結婚式
私とラファエルさんは、色々すっ飛ばして子どもたち公認で夫婦という肩書きになった。
関係を意識したら、当たり前にしていことさえなんだか恥ずかしくて、ラファエルさんと顔を合わせるたびにそわそわしてしまう私がいる。
そんな私を見るたび、ラファエルさんは可笑しそうに笑う。
子どもたちに気づかれないように「やっと意識したか」なんてこっそり耳元で囁いてきたりもするから、正直心臓がもたない。
私がラファエルさんに触れたいと言ってしまったせいだろうか、ラファエルさんからのスキンシップも激しくなった気がする。
二人きりの時や、子どもたちが起きてくる前の朝の挨拶に、頬への口づけが加わった。
九年間ほぼ何もなかった関係が、こんなにも変化するなんて。
(もしかして、手加減してくれてたのかな)
年齢の差なのか、経験の差なのか。
私はラファエルさんの見せる余裕に振り回されている気がする。
もちろん嫌ではないんだけれど。
もうすぐネレイナの結婚式が控えている。そのためのドレスも、不器用ながら愛情と気合いと根性を込めた手縫いでどうにか形になりはじめた。
昼間に手の空いた町の人たちが集まって、式に向けた準備を手伝ってくれるおかげで、当日までにはちゃんと間に合いそうだ。
特にドレスに至っては、町の奥様方が総出で刺繍を刺してくれるから日々華やかに仕上がっていくのを見るのが楽しい。
私がうっかり針を突き刺した自分の指に布を巻いていると、ネレイナがテーブルから身を乗り出して質問してきた。
「ねぇ、茜! 茜の憧れる結婚式ってどんなの?」
「聞きたいっ、結婚式って見たことあるの?」
「どんなご飯でるの?」
ネレイナに続いて、ピノとノワールも訊いてきた。
食べ物に意識が向くのがピノらしい。
「憧れ、かぁ……」
私は女子高校生だった頃を思い出す。
多感な年頃だったはずなのに、恋に興味がなく日々ゲーム三昧だった。
ただ、ゲームの中でプレイヤー同士の結婚がシステム上可能だったおかげで、ギルドメンバーの結婚式には何度も招待された。
(VRMMOだったから、目の前で式を見たんだよなぁ……)
私は目を閉じてその光景を思い出す。
キャラクターの衣装は課金次第でいくらでも華やかにできる。
だからこそ、みんなわざわざ式の前に衣装を課金していた。
「真っ白いドレスと、レースで編まれた花嫁さんのヴェール。あとは、ブーケトスのための花束があったなぁ……」
今はもう誰も生きてはいないけれど、あの日見た幸せな光景。
「左手の薬指にね、ふたりで指輪をはめるの! お揃いの結婚指輪が羨ましかったなぁ」
ネレイナは私の話を聞きながら、ふんふんとメモしていた。
「ネレイナの結婚式も、指輪の交換するのかな」
そう言うと、ネレイナは自分の手を広げて指を眺めた。
握ったり、開いたりしているが、首を傾げている。
「人型の種族は指輪をする意味があるかもしれないけど、私たちは獣化するからねぇ。獣になった時に指輪無くしそうだから必要ないかな」
獣になっても落とさず、なおかつお揃いでいられるものはなんだろう。
指輪がダメなら首輪も考えたけど、自由じゃない感じがネレイナには似合わない気がしたから即却下した。
「茜、指輪の代わりを考えてるなら必要ないからね! 番になったら互いの匂いを纏えるでしょう? それだけで十分意味があるんだよ」
匂いを纏う。
その言葉の意味を考えたら、少し頬が熱くなってしまった。
今朝私はラファエルさんとお互いの頬に口づけをしたけど、これもいわゆる匂いを纏うということなんだろうか……。
私が頬をぱたぱたと扇いでいると、ネレイナとピノは口元をによによさせながら言った。
「茜の匂いはずっとラファエルさんが混ざってたから今更だよ」
「なんなら私の匂いも混ざってるからね!」
「ど、どうして混ざるの!?」
私は恥ずかしくてテーブルに顔を伏せた。
(いつから混ざっていたんだろう)
知らないうちに大胆なことをしていたんだろうか。
私が戸惑っていると、ノワールがきょとんとした顔で言った。
「群れの匂いだよ。みんなで一緒に寝てた頃が一番強かったけど、今もちゃんと同じ匂い。私も、ネレイナも、ピノも! 家族みんなが同じ群れだからね」
それを聞いて安心した。
頬に口づけしたせいで、ラファエルさんの頬が私の匂いを発してたらみんなの顔が見れないところだった。
安心して顔を上げた私に、ピノとネレイナは意味ありげに視線を向ける。
「両親の仲がいいのは、子どもにとって嬉しいものだよ」
そう言って二人は顔を見合わせて笑う。
……気づかれてるのかな。
次からは石鹸で顔を洗おうかな?
でもラファエルさんは悲しい気持ちになるかもしれない。
私も感触を消したくはないし。
「今更だよ、大丈夫! アシュレイ以外みんな気づいてるから」
……アシュレイにだけ内緒にしてるわけじゃないのに。
私は再びテーブルに突っ伏した。




