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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第三十一話  関係の名前②

『そのつもりだったが?』


私はその言葉を、頭の中で何度も反芻した。


さも当然の如く「そのつもりだが?」と言いきったラファエルさんの表情は、普段と変わらず落ち着いている。

獣人のみんなは「ほら、やっぱりね!」と素直に納得している。

アシュレイだけ、状況を頑張って理解しようとしてくれているけれど。


一体いつから「そのつもり」でいてくれたんだろう。

初対面の場は、運命的に惹かれ合うような出会いではなかった。

むしろ私は三人の中で選ばれなかった余り物で、ラファエルさんはそんな私を無理やり押し付けられた、そんな関係だった。

そのあとは、継承権を持つ王族と道具の関係だった。


私は思い切ってラファエルさんに訊いてみることにした。


「ラファエルさんは、いつからそういう関係だと思っていたんですか?」


「共に城を出ると決めた日だが?」


「そんな頃から!?」


私は思わず突っ込んだ。

そんな行動が疑問だったのか、ラファエルさんが言った。


「そもそもお前が俺を選んだのだろう?」


(私が、選んだ?)


私は記憶の糸を手繰り寄せた。

前の王様に、私が「後継者を選定する最後の道具として、次の王を選べ」と言われたあの時。

私は王様に向かって「ラファエルさんの道具になります」と宣言したけれど……。


疑問が顔に出ていたのか、ラファエルさんは続けて言った。

「お前が俺を選び、お前が選んでくれた命が俺だ」



女の子たちから悲鳴のような歓声があがる。


「ラファエルさんすごい!」

「茜凄い! 茜も番を選んだんだね!」

「ラファエルさんを落とせるなんて、茜……本当は一番強い?」



その言葉に、ラファエルさんは頷く。

「茜は俺よりも心が強い」


また、きゃーきゃーと女の子たちが騒ぎ出す。

私は真っ赤になったまま、その場を動かずにいた。


隣にいたアシュレイが、私をそっと覗き込む。

心配そうな顔は大人びてきたけど、ハーフエルフだから女性と言われても納得してしまいそうなほどに中性的でとても綺麗だ。


そんなアシュレイが、私に微笑んだ後、ラファエルさんの腕をそっと触れた。


「ラファエルさん、改めてちゃんと言葉にしたらいいんじゃないかな。心を表現するために、言葉があるんだから」


(心のモヤモヤやため息を、ちゃんと言葉に出来たなら)


私はアシュレイの言葉を訊いて、ラファエルさんに真っ直ぐ向き直った。

背筋を伸ばし、私は自分の気持ちを言葉にした。

拙くても、きっと笑われないはずだから。


緊張で、こくりと喉が鳴った。

吐き出せなかった気持ちを、私から伝えたい。


「ラファエルさん……私は、貴方の事が大切です。魔力循環としてじゃなく、たくさん触れたいと思ってる」


子どもたちの前なのに、吐き出す気持ちは止められない。


「ラファエルさんと一緒にいたい。ネレイナとクラウスさんみたいに、結婚だって憧れるの」


絶対に隠しておけない、変えることのできない事実があった。

それはーー。


「私、ラファエルさんの子ども、産むことができないの……」


あの王に壊された生殖機能。

改めて口にしなくても、ラファエルさんはもちろん、シグルドさんや、エカテリーナさんも知っている「道具」としての事実。

こんなにも優しく、愛しく、不器用で大切な存在なのに、命を繋いであげることができない。



「私なんかより、素敵な人はたくさんいるの。赤ちゃんだって、きっといっぱい産める人もいる」


(それでも、こんな私でもいいって言葉にして欲しい)


私はその言葉を紡げなかった。

酷いワガママだと理解してるから。


私を選んで、自分の未来の子どもを諦めて欲しい。

そんなこと、私からは言えない。


ラファエルさんは、困惑するでもなく、否定でも、怒りでもない、落ち着いた声で言った。


「茜、周りをみろ。俺たちの子どもは、全員優秀だ」


私は周りをみた。

ネレイナとピノとノワールは、鼻を真っ赤にして泣きそうになっている。

ローレンツは優秀という言葉に胸を張って尻尾を振っている。


アシュレイはどこか照れくさそうに、目尻を下げて笑っていた。


トトは当たり前のように「僕、町のみんなにラファエルさんに似てるって言われるからね」と誇らしげだ。



私とラファエルさんが、一緒に暮らしてきた大切な子どもたち。

その子たちはこんなにも立派に育った。


(私たちの、大切な子ども)


そう思ったら、私の両目から勢いよく涙が溢れてきた。

拭ってもぬぐっても、ぼたぼたと大粒の涙が溢れ続ける。


「……私でいいですか?」

言葉には全て濁点がついているかのような、不恰好な台詞。

それでもラファエルさんは微笑んで私の身体を抱き寄せた。


「茜がいい」

耳元で囁いてくれた言葉は、私の心に染み込んで広がった。


私がいい。

ラファエルさんは確かにそう言ってくれた。

私は涙をこぼし、鼻を啜りながら「結婚してくださいぃぃ……」と伝えた。


ラファエルさんは「ははっ」と声を出して笑う。

私もネレイナみたいに、大切な人を守れる存在でありたい。


泣き止むまで、私は腕の中で祈り続けた。


一日でも長く、彼と生きられますようにーーと。

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