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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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第三十話  関係の名前①

ネレイナが結婚相手のクラウスさんを連れてきた日から、慌ただしい毎日が過ぎていく。


なんと、クラウスさんはこの町に定住する事を決めてくれたのだ。

町の人たちは新たな住人のために、協力して家を建てている。



(この町に来たばかりの時みたい)



教会の窓を開けると、畑があるその先に組み上げられていく家が見える。

土台が完成したと思ったら、どんどん建物の形になっていく。


「ネレイナも行商へ行っちゃうんだと思ったけど、この距離なら寂しくないかも」


多分、私が子離れならぬネレイナ離れができていない。

結婚して即クラウスさんに連れて行かれたら、寂しくて泣く自信があった。

だからこそ、この距離感に安心した。



窓から家を眺めるのが日課になっていた私の隣に、家事を手伝ってくれていたネレイナが近寄る。


「家ができたら結婚式だねぇ」


私はネレイナに微笑んだ。

私の目線より遥かに高くなったネレイナは、幸せそうに頷く。


「結婚式は獣人にとってあんまり必要ないけど、他の種族の大切な儀式って考えたら楽しみだよ」


「永遠の愛を誓い合う大切な儀式だからね、夢が詰まってるよ」


そういうと、ネレイナは首をこてんと倒した。


「誓わないと守れない愛なら最初から選ばないよ?」


「ネレイナは、クラウスさんをどういう気持ちで選んだの?」


「え? 強い雄は群れを守れるからね。安心して命を預けられるし、私も守られるだけの弱い雌じゃないから、クラウスさんを守る力がある。その信頼が人型の種族でいうところの愛情みたいなものなんじゃないかな?」


いつの間にかネレイナはしっかりした成人女性に成長していたんだと実感する。

考えは種族ごとに異なるのかもしれないけど、ここまで自分の考えを持って配偶者をみつけたのなら、その気持ちを応援したい。



「ところでーー茜はラファエルさんとどんな結婚式挙げたの?」



ネレイナの尻尾は激しく振れ、興味津々の様子だ。


「……え?」



(ラファエルさんと、結婚?)



そんなもの、した覚えはない。


なんならお付き合いをした事もなければ、『好きです、付き合ってください』『はい!』みたいなやり取りは一度もない。


それでもこの教会で共に過ごしてきたし、子どもたちがいるとは言え、一緒に眠ったりもした。



(魔力循環を合わせたら口づけは数回ある、けど?)



この関係を示す明確な言葉は何も無かった。


「ネレイナ、私とラファエルさんって……どんな関係なのかな?」


私は九年間の関係を表現出来ずに頭を抱えた。

ネレイナはそんな私をきょとんとした顔で見つめ、当たり前のように「二人は番……夫婦なんでしょ?」と言った。



(夫婦……)



私の記憶が何故か走馬灯のように浮かぶ。

ラファエルさんに出会ってから、今までのたくさんの思い出。

お城で出会ってから、教会で暮らすまで。


「ネレイナ、私、告白すらしてないよ」


「一緒にいるうちに夫婦になる番もいるからね!」


「ち、違うの! 恋人とか、婚約とか、夫婦だとか、そういうの何もないの!」


そう言い切ったタイミングで、教会の扉が開いた。

みんなが昼食を食べに戻ってくるタイミングだったらしい。


「ただいま、茜。大きな声で何話してるの?」

訊いてくれたのがアシュレイで良かった。


アシュレイはハーフエルフだからなのか、なんとなく感覚が似ている気がする。


多分ローレンツやピノ、ノワールあたりは間違いなくネレイナと同じ反応をしそう。


トトは、ネレイナの弟だけどアシュレイを兄として慕っているおかげか私たち少数派の意見も持っている気がするけれど……。



「アシュレイー……あのね、私とラファエルさんの関係って、なんだと思う?」



情けない顔をしている自覚はある。

それでも、アシュレイは質問の答えを導き出してくれた。


「え? 関係性を言葉にするなら、孤児院で僕らの親代わりをしてくれる夫婦だよね?」


「みんなのおとーさんとおかーさんだよね!」

ピノも元気よく答えてくれる……が。


冷静なアシュレイまでも、私とラファエルさんを夫婦だと思っていたらしい。

私はどう説明したらいいか悩んだ。


まさか、「文化標本としてかつて滅びた地球で日本人の女子高校生してました」とか「ラファエルさんの道具です」なんて言えるわけがない。


彼らも踏み込んで訊いてこなかったから、特に問題なく「歳を取らない特殊な種族」くらいに受け止められていたけれど。



私が悶々としていると、ラファエルさんも教会へ戻ってきた。

みんなに囲まれて頭を抱える私に気づいたのか、ラファエルさんは私の元へ近づいた。


「茜、どうした?」


ラファエルさんは珍しく心配そうな顔をしている。

その手は自然に私の額に触れた。


「顔は赤いが熱は平常時と変わらない」


(そんな冷静に分析されても!)


突然頬を触られたら赤くもなるし動揺もする。

恋愛未経験の永遠の17歳を手のひらで転がさないで欲しい。

私は無言のまま自分の赤い頬を両手でぱたぱたと扇いだ。



私では埒が明かないと思ったのか、ネレイナはラファエルさんに質問をした。


「ラファエルさん、茜とラファエルさんって番?」



率直過ぎる質問に、私は思わず顔を伏せた。

ラファエルさんがどんな顔で何を言うのか、それを目の前で知ることが不安でもあった。


でも、ラファエルさんは落ち着いた様子でネレイナに告げた。


「そのつもりだが?」


その言葉に、私は勢いよく顔を上げ「えぇぇえ!?」と叫んでしまった。


ネレイナのプロポーズどころじゃない、私たち、知らないうちに夫婦でした!?

私の脳は、しばらくフリーズしたままだった。


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