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回復しかできない私は、 魔王継承権三位を選んで穏やかに生きたい  作者: 谷口 由紀
第二章  教会編

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閑話  熊、発見!

ラファエルとネレイナはいつものように町の見回りをしていた。


隣国同士の争いも落ち着いてきたおかげで、この国の治安はかなり良くなった。


それでも、村や町が戦火に飲まれ、この国に逃れくる者は少なくない。

そういう者を狙い、利用しようとする存在はいる。

奴隷商はタダで商品を手に入れようと、わざわざ国境近くのこの町に見目の良い難民を探しに来ることもある。


元々は養父であるラファエルが国からの依頼を受けて始めたものだった。

ネレイナはラファエルに頼み込んで、この町のために出来ることがあるなら、と見回りを続けている。


「ラファエルさん、今日は嫌な臭いがする人はいないね」

ネレイナは獣人なだけあって鼻がいい。

そして、勘も鋭い。



「そうだな、特に悪意は感じられない」


(ラファエルさんも鼻がいいのかな)


ネレイナは何年経っても容姿が変わらない魔族の養父を尊敬していた。

ラファエルを『養父』だと意識したのは、共に暮らし始めて数年後の事だった。

血の繋がらない伯父が、ラファエルを『お前たちの父親のようなもの』と言った時から、口には出さないが『父親』だと思っている。


「ネレイナ、今夜は賑やかになりそうだ」

ラファエルは立ち止まり、町の外れに目を向けた。


目線の先に居たのは、年に4、5回しか会えない熊の行商人家族だった。



ステフとフレイアは茶色の毛が綺麗な熊だった。

だが、クラウスの獣の姿は灰色の巨熊。

ネレイナがその事を訊いた時、彼の母と同じ色なのだと教えてくれた。



目の前のクラウスは背中とお腹に一つずつ大きな木箱を背負い込んでいる。

ステフは同じ箱を一つだけ。

フレイアはそれに比べると負担の少ないリュックを一つ背負っていた。


以前興味本位で背負わせてもらったその箱は、力があると自負していたネレイナでさえも長くは持っていたくない程度に重さがある。


(あの箱を二つも……凄い!)


ネレイナの瞳はキラキラと輝いた。

彼は確実に自分よりも強い。


以前みた、熊としての強さと大きさを思い出す。

普段は穏やかなクラウスがみせた、フレイアを守るために戦う姿勢と、旅立つ時にいつも優しく頭を撫でてくれる優しさ。



三人が近づいてくる。

こちらに気がついたのか、ステフが笑顔で頭を下げる。

フレイアが手を振ってくれる。

クラウスも、軽く手を上げた。



ネレイナの本能が、今だ! と叫ぶ。



「ラファエルさんっ、決めた! 私、クラウスさんと番になるっ!」


「……え?」

お辞儀をしていたステフは顔を上げたまま固まった。

「もう決めたの? 成人して二年目になったばかりなのに?」

フレイアはまだ番う相手はいないらしい。


「……ん? ……え? 突然どうしたの?」

当のクラウスは混乱しているようだ。


それでも、この機会を逃したら3年先を生きているクラウスは誰かに取られてしまうかもしれない。


現に、この町に入ってきた時、クラウスから蜂蜜を買う雌の獣人は少なくなかった。



(今のクラウスさんの隣がフレイアなら、その反対側は私がいい!)



ネレイナはラファエルを見つめた。

迷いのない、真っ直ぐな瞳で。

両耳はピンと立ち、尻尾も興奮でいつもよりふわふわだ。



ラファエルは、その視線を受け止めた。

そしてその目元が優しく緩む。



「ネレイナが決めたなら良い」


ネレイナはその言葉に、千切れそうな勢いで尻尾を振った。


「ありがとう、ラファエルさんっ!」



ネレイナはクラウスの手を握った。


クラウスはまだ混乱したように目を丸くしている。


(そういえば、年頃の異性の手を握るのはこれが初めてかもしれない)


ネレイナはその初めてが、クラウスである事に胸が弾んだ。



「茜に報告しなきゃね!」


ネレイナは走り出した。

俊敏な狼獣人のネレイナに、熊獣人のクラウスは腕を掴まれたままつられて走り出す。


走りながら振り向くと、混乱した様子でも笑顔をみせてくれた。



「へへっ! 早くはやく!」


「……ネレイナは、僕でいいの?」



2m近い身長のクラウスが、息を切らせながら訊く。

ネレイナはそんなクラウスを見上げながら歯を見せて笑う。



「うん、クラウスさんがいい! 強いし、優しいから新しい群れを作れるかなって」


二人は喋りながら走り続ける

教会はもうすぐだ。


ネレイナは言い忘れた言葉を付け加えた。


「あとね、クラウスさんカッコいいから!」


その言葉にクラウスは「ははっ」と声を上げて笑った。

クラウスの口の中に、牙が光って見える。


(牙もカッコいい!)

ネレイナはクラウスの事がまた一つ気に入った。

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