明くる朝
「おはよう、一帆」
土曜日の朝。
ドアが勢いよく開く音がしたため、布団から起き上がると先輩が立っていた。僕の顔を見て、顔をしかめる。
「どしたの?顔色あんまよくないけど」
僕は立ち上がって窓ガラスに身体を映す。たしかに、ひどい顔をしていた。原因は、昨日のことだろう。あのあと、僕らは終始無言でさざなみ荘まで帰ってきた。
部屋に着いてから、僕は海里の海が嫌いだという話からいろいろなことを考えた。
――海は、逃げ場のない行き止まりだから。
海里が放ったその言葉の意味するところをただひたすらに考え続けた。そのせいか全然寝付けなかったのだ。
「そのかんじだと部屋で休んでおいた方がいいかもね。誕生日パーティーの準備はゆかりちゃんと伊勢原くんだけでなんとかなりそうだし、私が代わりに出るよ」
神妙な面持ちでそう呟く。それほど先輩にはいまの僕が悪い状態に見えるのだろう。
「いや、僕が行きます」
ただ、それを即座に否定した。たしかに、身体は昨日とは比べものにならないくらい重い。けれども、外を出回るだけなのだから問題はないだろう。
それに、あれからだいぶ時間が経ったのだから、海里ともまたいつもみたいに気楽に話せるはずだ。
「まっ、一帆がそういうのなら任せるよ」
先輩はその答えが返ってくることを分かっていたかのようにやわらかく微笑んで、部屋を出て行く。
僕はてきぱきと身支度を整えると、朝ご飯のパンと卵スープをかきこんで部屋を出ようとする。ただ、部屋を出たところですぐに忘れ物に気づいて引き返した。
ちゃぶ台の上には案の定、かわいらしいラッピングが施された袋が置いてあった。僕はそれを掴むとまじまじと見つめる。
「海が嫌いっていうのは想定外だったな」
そんな呟きが、誰もいない部屋に小さくこだました。
僕が選んだこのプレゼントを、きっと海里は気に入ってくれないだろう。
渡すべきか、渡すまいか。その判断がつかなくて、ひとまず僕はその袋をカバンの中に押し込んで、部屋をあとにした。




