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海と少女  作者: 緋色ざき
24/31

プレゼントを買いに

 翌々日の月曜日。

 大学の授業が本格的に始まった。九十分間椅子に座るというのはなかなか大変で、三限の授業が終わる頃には少し腰が痛むような気がした。もう年かもしれないと本気で悲しくなる。

 それから卓と別れ、授業で紹介されていた本を借りようと図書館へ向かう。入って右手にあるパソコンに向かい、資料検索をしようとすると、なにやらその奥の部屋から楽しそうな話し声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。この奥は、学生たちの自習スペースだが、誰だろうか。

 本の所蔵場所をノートにメモしてから、自習スペースを覗いてみると、そこには先輩と三島の姿があった。僕はそれを見てひどく驚いた。もちろん、先輩から事前によく話すということを聞いていたから、別にこの二人の組み合わせに違和感はない。そこではなくて、僕が驚いたのは三島の表情だ。

 一見いつもと同じようにすかした感じだが、その雰囲気は明らかに柔らかい。以前見たときのようなつまらなそうな顔とは全く異なる一面だ。きっと、それは先輩だからこそなせる技なのだろう。さすがだなあ、と心の中で先輩を見直して、僕はお目当ての本を探しに向かった。


 図書館で本を借りたあと、そのままの足で僕はアウトレットへ向かった。

 海里の誕生日プレゼントを買うためである。しかし、正直なところ何を買うかは全く決まっていない。いろいろと見ていれば、ぴんとくるものがあるだろうと思ったが、しばらく回っていても、どれもぴんとこない。店員に聞いてみようとも思ったが、なんだかそれも違う気がした。先輩の言葉を借りるのであれば、思いが大切なのだ。だから、とりあえずは自分一人でなんとかしてみよう。

 それからまたお店をいくつか回ったが、やはりこれというものは見つからなかった。そもそも、僕は女性の好む小物類はてんで分からない。

 このままでは埒があかない。考え方を変えるか。

 女性という漠然とした対象からではなく、海里があったらうれしそうなものを考える。すると、一筋の光明が見えた気がした。海里はそもそも持っている物が少ないから、プレゼントの余地は大いにあるだろう。あとは具体的に何にするかだ。腕を組みながら、目の前に置いてあるピアスを見ていると、後ろをカップルが通っていった。僕は棚に寄って道を開けるが、二人は横並びに歩いていて肩が背中にぶつかる。

 こんな狭い通路で横並びになってるんじゃねえ、と悪態をつきたい気持ちを堪えていると、二人は僕の横に立った。

「最近髪長くなってきたなあ」

 女性がそう口にした。僕はその言葉に既視感を覚える。そういえば、最近海里は髪が述べてきていた。

「うん、そうだな。じゃあ、これとかどうだ」

 男性がそう言って棚からシュシュを取った。

「それだ」

 思わず叫んだ。カップルはぎょっとして僕の方を見るが、そんなことに構ってはいられない。たしか、髪留めは一番最初に入ったお店が最も種類が豊富だったはずだ。僕は脇目も振らず走ってそのお店に駆け込み、お目当ての棚の前に立つ。

 色とりどりの髪留め。その中で、僕は空色のシュシュが目にとまった。初めて海里に会ったあの海と、あの空と同じ色だ。これにしよう。

 レジまでいき、若い女性の店員さんに差し出す。そうだ、プレゼントなのだから。

「誕生日プレゼントなので、包装、お願いできますか」

「はい、分かりました。彼女さんへのプレゼントですか?」

「えっ、いや違います」

 慌てて首を振ると、店員さんは少し驚いた顔をする。

「そうなんですか。すごい真剣に悩んでたので、大切な人へのプレゼントなのかなって思ったんですけど」

 僕が悩んでいた姿を見てたみたいだ。僕は恥ずかしくなって髪を掻く。

「まあ、大切な人ではあります……。でも、喜んでくれるか自信がなくて」

 思わず、本音が漏れる。初対面の店員さんに僕は何を言っているのだろう。

 店員さんの顔をおずおずと見ると、優しげな顔で微笑んでいた。

「大丈夫ですよ。そんなに真剣に考えてくれているんだから、きっと喜んでくれるはずです。もし私がプレゼントをもらう立場だったらすごいうれしいです」

 それはとても力強い言葉だった。そして同時に、とても心強い言葉だった。

「って、私がもらうわけじゃないんですけどね」

 少し照れくさそうに笑い、包装されたシュシュを渡してくれた。

「ありがとうございます」

 僕は頭を下げて店を出た。

 なんだか、晴れ晴れとした気持ちになった。


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