プレゼントを買いに
翌々日の月曜日。
大学の授業が本格的に始まった。九十分間椅子に座るというのはなかなか大変で、三限の授業が終わる頃には少し腰が痛むような気がした。もう年かもしれないと本気で悲しくなる。
それから卓と別れ、授業で紹介されていた本を借りようと図書館へ向かう。入って右手にあるパソコンに向かい、資料検索をしようとすると、なにやらその奥の部屋から楽しそうな話し声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。この奥は、学生たちの自習スペースだが、誰だろうか。
本の所蔵場所をノートにメモしてから、自習スペースを覗いてみると、そこには先輩と三島の姿があった。僕はそれを見てひどく驚いた。もちろん、先輩から事前によく話すということを聞いていたから、別にこの二人の組み合わせに違和感はない。そこではなくて、僕が驚いたのは三島の表情だ。
一見いつもと同じようにすかした感じだが、その雰囲気は明らかに柔らかい。以前見たときのようなつまらなそうな顔とは全く異なる一面だ。きっと、それは先輩だからこそなせる技なのだろう。さすがだなあ、と心の中で先輩を見直して、僕はお目当ての本を探しに向かった。
図書館で本を借りたあと、そのままの足で僕はアウトレットへ向かった。
海里の誕生日プレゼントを買うためである。しかし、正直なところ何を買うかは全く決まっていない。いろいろと見ていれば、ぴんとくるものがあるだろうと思ったが、しばらく回っていても、どれもぴんとこない。店員に聞いてみようとも思ったが、なんだかそれも違う気がした。先輩の言葉を借りるのであれば、思いが大切なのだ。だから、とりあえずは自分一人でなんとかしてみよう。
それからまたお店をいくつか回ったが、やはりこれというものは見つからなかった。そもそも、僕は女性の好む小物類はてんで分からない。
このままでは埒があかない。考え方を変えるか。
女性という漠然とした対象からではなく、海里があったらうれしそうなものを考える。すると、一筋の光明が見えた気がした。海里はそもそも持っている物が少ないから、プレゼントの余地は大いにあるだろう。あとは具体的に何にするかだ。腕を組みながら、目の前に置いてあるピアスを見ていると、後ろをカップルが通っていった。僕は棚に寄って道を開けるが、二人は横並びに歩いていて肩が背中にぶつかる。
こんな狭い通路で横並びになってるんじゃねえ、と悪態をつきたい気持ちを堪えていると、二人は僕の横に立った。
「最近髪長くなってきたなあ」
女性がそう口にした。僕はその言葉に既視感を覚える。そういえば、最近海里は髪が述べてきていた。
「うん、そうだな。じゃあ、これとかどうだ」
男性がそう言って棚からシュシュを取った。
「それだ」
思わず叫んだ。カップルはぎょっとして僕の方を見るが、そんなことに構ってはいられない。たしか、髪留めは一番最初に入ったお店が最も種類が豊富だったはずだ。僕は脇目も振らず走ってそのお店に駆け込み、お目当ての棚の前に立つ。
色とりどりの髪留め。その中で、僕は空色のシュシュが目にとまった。初めて海里に会ったあの海と、あの空と同じ色だ。これにしよう。
レジまでいき、若い女性の店員さんに差し出す。そうだ、プレゼントなのだから。
「誕生日プレゼントなので、包装、お願いできますか」
「はい、分かりました。彼女さんへのプレゼントですか?」
「えっ、いや違います」
慌てて首を振ると、店員さんは少し驚いた顔をする。
「そうなんですか。すごい真剣に悩んでたので、大切な人へのプレゼントなのかなって思ったんですけど」
僕が悩んでいた姿を見てたみたいだ。僕は恥ずかしくなって髪を掻く。
「まあ、大切な人ではあります……。でも、喜んでくれるか自信がなくて」
思わず、本音が漏れる。初対面の店員さんに僕は何を言っているのだろう。
店員さんの顔をおずおずと見ると、優しげな顔で微笑んでいた。
「大丈夫ですよ。そんなに真剣に考えてくれているんだから、きっと喜んでくれるはずです。もし私がプレゼントをもらう立場だったらすごいうれしいです」
それはとても力強い言葉だった。そして同時に、とても心強い言葉だった。
「って、私がもらうわけじゃないんですけどね」
少し照れくさそうに笑い、包装されたシュシュを渡してくれた。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げて店を出た。
なんだか、晴れ晴れとした気持ちになった。




