コンビニバイト
「ありがとうございましたー」
覇気のない僕の声が店内にこだまする。
奥の壁につけられた時計の針は九時をさしている。お客さんもすでにまばらで、週刊誌を立ち読みする人が一人いるだけだ。きっと、漫画を読み終わったらなにも買わないで出て行くのだろうなと思う。まあ、バイトの僕には知ったこっちゃない話だが。
ただ、なにも仕事がないのはつまらない。忙しいのも嫌だが、なにもすることがないのも苦痛である。だから、できればなにか安価なものでもいいから買って欲しいなと思う。しかし、そんな僕の願いは届かなかったみたいで、眼鏡をかけた男の人はそのままこちらを見ることなく外へと出て行った。
自動ドアの開く音が閑散とした空間に響き渡る。また、暇になる。
こんなとき、他のバイト仲間と話せれば気分転換にもなるのかもしれないけど、残念なことに今日の僕の相方は外国人であまり日本語が堪能でない。そして、単純に僕の社交性が足りないこともあって、コミュニケーションを全く取ったことがない。そんな僕の相方の女性はいま休憩室に籠もってしまっている。
このコンビニにはそんな不真面目な相方を含め、外国人従業員は二人いて、ちょうど四分の一を占めている。日本の政府は外国人労働者はいないと言っているけど、コンビニの現状を見ると、労働者人口は足りていないんじゃないかと思ってしまう。
そんな普段は決して考えないであろう社会的な問題を思い浮かべながら虚空を見つめていると、ドアが開いた。お客さんが来たみたいだ。
「いらっしゃい……」
うれしさのあまり、いつもよりも明るい声音であいさつしようとするが、そのお客さんの顔ぶれを見て言葉に詰まる。知った顔が三つ並んでいる。しかも、ここに来る前に見た顔だ。
「なにしに来たんですか」
つい、攻めるようなげんなりした声が出てしまう。
「いやあ、海里ちゃんがさ、一帆のバイト先に行ってみたいって言ってたからさ」
大家さんがにやにやとした笑みを浮かべる。
「まあ、いいですけど。冷やかしだけならさっさと帰ってください」
思わずため息が出てしまう。ほとんどなにもしていないけど、一応は仕事中なのだ。だから邪魔は止めて欲しい。もしいま他のお客さんが来たら困ってしまう。
「そんなことより一帆」
レジに手をつき、ずいっと顔を前に出す海里。思わず僕は少しのけぞってしまう。
「最近暇なんだよ。遊びに行こう」
そう高らかに言ってきた。相当不満そうな顔である。たしかに、今日も昨日も一昨日も遊びに行こうと言われたが、ことごとく断った。もちろんバイトがあってのことだ。
海里は学校に行っていないわけで暇だという思いは日に日に強くなっているのだろう。つまらなそうな顔を見ていると、少し申し訳なくは思うし、時間さえあれば遊びに行きたいなとは思っていた。なんだかんだ海里といるのは楽しかったりする。
「学校サボって遊びに行っちゃいなよ、ユー」
先輩が横やりを入れてくる。ただ、さぼったりはしない。しないのだが、
「明日って、たしか授業はなかったはずだなあ」
「じゃあ行こう」
海里が声を張り上げた。その有無を言わさぬ気迫に僕は小さく頷く。
「よし、じゃあ帰るか」
「ちょっと待てー」
先輩がきびすを返そうとするのを止める。
「なにか買っていってください」
はあと、先輩は大きなため息をつく。
「しょうがないなあ。じゃあお酒でも買っていくかあ」
飲み物の棚からストカンを何本かもっていく先輩。なんだかこのあとの展開が読めた気がした。
結局そのあとバイトが終わってさざなみ荘に帰ると、どんちゃん騒ぎが行われていた。僕は小さくため息をこぼして、それからそのまま部屋に戻ったのであった。




