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海と少女  作者: 緋色ざき
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御曹司

 次の日の朝、起きるとすでに十時を回っていた。

 それを見て眠気はすぐに吹き飛んだ。僕は急いで準備をして、朝ご飯を諦めて学校へと向かった。

「おはよ……。って、あれ、一帆、大丈夫か。疲れた顔してるけど」

 教室で顔を合わせた卓の第一声はそれだった。たしかに僕自身いまはだいぶしんどいが、はたからも同じように見えているみたいだ。

 原因は前日の歓迎会だ。あのあとまだしばらくどんちゃん騒ぎが続き、体力を相当削られた。先輩も海里も結局大家さんの部屋で寝てしまって、僕もそのまま部屋に戻ることになったのだが、果たしてあのあと大丈夫だったのかは少しだけ心配ではある。

 とはいえ海里に関しては学校も何もないし、先輩も三年生で授業が少なめだから問題はないと思うが。

 授業中はうつらうつら船を漕ぎながらなんとか切り抜け、ようやくお昼になった。その頃には、僕の頭もだいぶ覚醒してくる。学食でラーメンを注文し、中庭の席で啜りながら卓と雑談をしていると、不意にに空気が変わるのを感じた。ふと顔を上げれば、学生の集団が瞳に映る。真ん中にはクールな雰囲気の男がいて、その周りを女性たちが取り囲むようにして歩いている。

 僕はその男を知っていた。三島凪。日本有数の大企業である三島財閥の御曹司。

ただ、あまり学内でいい噂を聞かない人物だ。その理由の一つは取り巻きの女性たちが原因だろう。彼女らは金のために三島に近づき、三島もまた彼女らを自分の家に連れ込んで関係を持っているなんて噂がまことしやかに立っているのである。ただ、それ以上に彼が疎まれる原因となっていることがある。

「あいつ、養子として三島家に入ったんだろ」

「いいよなあ。たまたま養子になって。人生イージーモードだろうな」

 そう、ちょうど僕らの隣の机に座る二人が呟いていること。こんな噂が立てられているが、どうやらこれは事実らしいのだ。以前、馬鹿なやつがこれを直接本人に聞きに行ったところ、三島自身が肯定したとかなんとか。

 と、不意に三島がこちらに視線を向けた。隣の席の二人はそれに焦ったようにさっと目線を逸らすと小声で何か話し始めた。ごまかしているつもりだろうがばればれである。三島はしばらく無言でこちらを眺めていたが、やがて前に向き直ると再び歩き出した。その横の女性たちが三島にいろいろと話しかけるが、当の三島はといえば冷ややかな顔でつまらなそうにそれに対応していた。それを見て、きっと噂は嘘なんだろうなと思った。

「お金持ちっていうのも大変そうだな……。なあ、卓」 

 そう声をかけるも反応が返ってこない。見れば卓は三島が先ほど歩いていたあたりをぼーっと眺めていた。

「おい、どうした卓」

 肩を軽く叩くと、はっとして僕の方を向いた。

「ちょっと、ぼーっとしてた」

 そう言って苦笑を浮かべる卓。何か気になったことでもあったのだろうか。

 ただ、すぐに卓が雑談を再開したので、それ以上そこに言及しなかった。


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