28.中国とアメリカと、世界の情勢 (2026.4.2-5.4)
2026.4.2-5.4
ウェイン・リー
ワースト・クリスマス以降も中華連合は攻め手を止めなかった。
アメリカ国内の話に限っても、国連主導、というより新しい安保常任理事国と全体会議での評決を誰も止められず、アメリカの治安を悪化させるテロリスト集団の徹底的な弾圧は強まっていった。
具体的には、アメリカ国内での銃器の製造と販売の停止だけでなく、兵器産業の商業活動としての製造販売行為まで停止された。
当然、アメリカ合衆国憲法に保障された権利を奪われたとして、WSR以外の国民からも大きな反発を生じたものの、効果は目に見えて現れた。
兵器転用が可能なドローンやロボットの類まで規制や監視がかかるようになり、アメリカの独立国家としての主権侵害に対して、自分も、元民主党系のFDAとしても、可能な限り強硬に中国その他の国々に抗議してきた。
だが、カナダやイギリスやフランスやドイツといった、かつてG7として世界を主導していた友邦が揃って力を削ぎ落とされ、経済活動に必要な資源の大半の輸入制限を盾に脅迫される状況下では、主権侵害に当たる行為を無期限ではなく、一年半毎に状況を見直して治安が維持され得ると国連安保理事会で過半数の国に判断されれば解除されるという、屈辱的な条件に緩和させるのが精一杯だった。
アメリカ南部州で根強く続いていたWSR残党による第二次独立戦争は、武器の製造や販売の規制により勢いを急速に殺がれていった。毎日の様にどこかで起こっていたレジスタンス活動は、2025年中に、週に数度から、月に数度あるか無いかくらいにまで抑え込まれた。2026年になって、民間ガレージで密製造される武器や爆薬、ドローンの類まで摘発が相次いでいくと、月に一度あるか無いかにまで減った。
さらに、PKO活動に従事する国連兵士を直接狙った抵抗活動は即座に射殺される為、一般市民の有色人種を狙った報復活動は、PKOだけでなく監視ドローンで摘発され、悪質と判断されれば裁判のプロセスを経ずに現行犯で処罰対象となり、見かけ上の治安は保たれるようになった。こちらはまだ毎週の様に処罰されたり、処刑されたりする事案が絶えない。私服姿の国連軍兵士に言いがかりを付けて私的制裁しようとした白人警官や市民が逆襲を受け殺傷されたりとか。
当然の様に、合衆国民のフラストレーションは極限にまで溜まっていたが、マスメディアの報道もネット上の言論も中華連合の監視下に置かれ、表面上は沈静化してきていても、水面下の温度は煮えたぎっているという表現が合致した。
そんな合衆国の大統領の支持率が上がる訳も無く、史上最低の評価を欲しいままにする日々が続いていた。
「早く楽になりたいよ」
そんな弱音を吐くと、報道官のパトリシアに励まされた。
「治安が維持されていると判断されれば、PKOは段階的に縮小され、撤退していきます。あなた自身はつなぎ役として我慢するしかないでしょうけど、歴代大統領の誰と比べても遜色ないどころか、最大の危機の時を任された一人として歴史に刻まれるのは間違いありません。気持ちはお察ししますけれどね」
「ありがと。しかし、G7で唯一力を維持したままだったとも言える日本も倭国という大昔の存在に先祖帰りしてしまった。民主主義の未来は暗いなぁ・・・」
「あなたがその道標にならないとですね」
「そうはありたいけどね」
そんなホワイトハウス執務室に、CIA長官が駆け込んできた。
「ウェイン、大変だ!」
「うん、ひとまず落ち着こうか。最近は大変だと思うようなニュースはようやく減ってきてくれた感じはするけど、何があったんだい?」
自称史上初のハッカーでCIA長官に史上最年少(就任時なんと27歳!)で就任した、デベリックは、ドアを慌ただしく閉めると、一息に言った。
「中国共産党のトップ、修琴北がコロナで倒れたという報道あった!中国国営放送の報道だから、間違い無い!」
「・・・そりゃ一大事だね。でも中国公式メディアで流された情報をアメリカの諜報機関のトップが持ち込んでくるのもどうなんだろとか思わない?」
「なんか、反応鈍くないか?」
「いやだって、中国共産党のトップがコロナでも何でもどうにかならないかなとか、なってるに違いないとかって陰謀論が、特にアメリカ国内へのPKO展開が始まってからどれくらい世間に流れたと思ってる?君も覚えてられないくらいだろ?」
「一応弁明するなら、こちらでもそれらしき噂はキャッチしてたんですよ。もちろん中国共産党内部からの情報です。ただし、その確証を得るのがまたとてつもなく大変で手間取ってる内に、先に公式報道されてしまった感じです」
「君の掴んでた噂話だと、いつ頃からの情報だったんだ?」
「つい一週間ほど前ですね。もしかしたらと発症して騒ぎになって、もちろん情報管制が最大強度でかけられたけど、周囲の中国共産党トップの複数人も重篤な状態とかに陥ったらしく、これは隠しきれないだろうと公式報道にまで踏み切ったと見られています」
「緊急閣議が必要だな、国務省長官も今頃までには情報をキャッチしてるだろう。パトリシア、呼び出してくれ。それから3時間以内にスピーチの草稿も準備して欲しい。今日中に何らかの反応を示さないといけないかもしれないから」
「わかりました」
その日の閣議で一番懸念されたのは、中国の国連主導という方式が維持されるかどうかだった。各調査機関の見立てでは、中国共産党の次代の指導者が過激化して、中国一国による世界全体支配などに走り始める可能性は低いと判断された。
その夜、報道官は、政治的見地の違いに関わらず、コロナの犠牲になった全ての人々に哀悼を、闘病の過程にある全ての人々が健康を取り戻すよう祈りを捧げると簡潔なメッセージを流した。
しかし、中国政府とその主導者達の思惑と準備の良さは、自分を含めたアメリカ合衆国政府の主導者達の予想を完全に振り切っていた。
さらに一週間後に、修琴北が亡くなったという報道が世界中に流れるまでの間、いわゆる欧米諸国では暗い期待が幅広く抱かれ、それは亡くなったという報道で爆発するように表沙汰になった。多くの人々が通りに繰り出して祝いの雄叫びを上げたりしたのだ。
人の病死を喜ぶとか正気の沙汰ではない。市民の態度を諫めるようなメッセージを流し、訃報に対する弔問のメッセージを中国政府に送ったりもしたが、彼らはまた手を進めていた。
自分達の国家元首を喪った中国政府は、こんな声明を翌朝に流した。
「修琴北は、偉大なる指導者の一人としてその生涯を閉じた。香港を、台湾を、一つの中国を取り戻しただけでなく、近世を荒らし回った欧米諸国の行いを理性によって正した。
彼の遺言とも言うべき政策をここに明らかにする。
中国、インド、ロシア、AU、PAU、その他我々と行動を共にする国々は、世界政府の樹立を進める。
我々と意志と行動を共にする国々は軍隊を世界政府の軍として提供する。また、最低で3年から5年以上かかるかも知れないが、統一通貨も準備し、宇宙開発も共に進める。
ワースト・クリスマスの後、我々が宣言した様に、全ての戦争行為は死に絶えてしまった。だから、これまで軍隊に注ぎ込んできたリソースはほぼ全て、増え続ける人口を支える為の食料生産と技術開発に注ぎ込まれることになる。
新自由主義と呼ばれる経済放任体制により、世界人口の1%未満が世界中の富の過半を独占していた。それがワースト・クリスマス以前の先進国が支持した世界の在り方だったとしても、我々は支持しない。
言うまでもないが、世界政府は国連の持つ機能の多くを置き換えていくだろう。完全に置換を終えるまでに五年十年といった歳月はかかるかも知れないが、世界政府軍樹立と参加加盟国内の統一通貨発行は前倒しで行われるだろう。
修琴北の国葬には、世界各国の元首を招待する。その場で中国の新しい指導者のお披露目も行われる。世界政府樹立の為に各国に求められる役割などについても伝えられるだろう」
報道官のスピーチはその後もしばらく続いたが、その前に、中国の駐米大使からリモート面談の要請があり、そこで国葬への参加と、これから樹立される世界政府軍の駐屯基地として、準州扱いとなっている元沖縄、現琉球の米軍基地の提供を求められた。
周囲のアドバイザーの意見に従い即答は避けた。リモート面談後、さらにアメリカ政府内で討議を重ねた後、要請を断れない可能性が残るとして、元日本国である倭国へも機密事項として、情報を伝達せざるを得なかった。
数日後に届いた倭国政府からの回答は、琉球やアメリカ、中国だけでなく、周辺諸国の平和が維持される政策が選ばれることを望むというものだった。
さらに閣僚達との会議を重ね、中国の国葬参加後、訪日して倭国女王と会談する事になった。いずれ鎖国すると明言し、外交には消極的になってはいるものの、経済規模や維持している兵力などから、無視できる存在でもなかった。
中国の国葬準備が整うまでの間の、アメリカは世界政府やその軍に参加すべきかという世論調査は、9割近くが反対という明確な結果になった。イギリスやフランス、ドイツなどの先進欧州諸国でも7ー8割が反対という明確な世論が形勢されていたけれども、中国やインド、PAU、AUを始めとした、中華連合と見なされる国々では真逆の世論だったし、拮抗していると言えるのは迷えるASEAN諸国や、意外な事にロシアでも賛成は6割に届かないくらいだった。
「要は世界政府の綱領次第なんだよな。どの程度の自治が認められるか。国連以上の権限を各国内政や外交に振るえるかどうか」
「宗教の信仰の自由は保障されてる」
「まぁ、PAUのイスラム諸国の事を考えたら、そうなるわな」
「各国軍は、アメリカ合衆国で言えば州軍的位置付けってのが近いみたいだな。欧州諸国の軍備は封印されてて、第二次ロンドン条約が発効されれば、世界政府軍以外の軍備は有名無実化されそうだけれど」
「核武装は、ロシアが手放さないか」
「中国やインドは、その大半を地球政府軍の管轄下に移すそうだ。そのせいでロシアも過半数を提供すると見込まれてる」
「世界政府への参加見合わせを表明してるのは、欧米諸国やオーストラリア、ニュージーランドを除けば、東南アジアの国々、それから、真羅と倭国」
「控えめに言って、世界中の国連加盟国の3/4近くが、世界政府とその軍への参加を表明している。中国の最高指導者が倒れた直後でこの状態だから、増える事はあっても減る事は無いだろう」
「原油とか必需資源を人質に取られてるしな。参加しない国に対してどんな制裁措置が下されてもおかしくはない」
「そして抵抗する力となる軍隊も世界政府に取り上げられてたら、抵抗なんて不可能になってしまう」
そう。いくら閣僚や識者達に意見を求めても、抵抗しても無駄だというのが結論だった。では頭を垂れて世界政府に参加するのがベストな選択かと言えば、全くそうではない。国民の9割が反対してもいる。
現実的な落としどころとして、世界政府がどんな存在になるかという問題もあった。意外な事にというか、共産主義ではなかった。ただし自由主義経済でもない。
中華連合とも呼称される国々の多様さを考えれば、一つのイデオロギーで縛る事は現実的な措置ではない。では彼らはどうするつもりかというと、偏り過ぎた富は強制的に徴収して分配するという法制度だった。飛び抜けて稼いだ者にこそ高税率が科されるというのは珍しくもないと言えるが、外形標準課税や、抜け道を徹底的に潰すところが違っていた。
ワースト・クリスマス以降、中華連合はいわゆるタックス・ヘイヴンと呼ばれる租税迂回地を、一つずつ潰していった。顧客の実名と総資産額を明らかにしない限り、全ての通信を遮断するか、もしくは物理的に潰すか、どちらかの手段が取られていって、ここでも欧米諸国は有名企業や著名人達の多くが巨額の隠し財産を発掘されて名を落とすだけでなく、中華連合が定めた高税率を徴収されていった。これは世界政府稼働の為の原資にされると後日発表された。
また、永世中立国として有名なスイスも通信の自由は剥奪され、その顧客名簿と預金額や資産の公開をぎりぎりまで秘匿しようとしたが、最終的には過半数が電子的又は物理的に潰された。
「世界中に存在するお金の総量を明らかにせぬままだと、どんな経済政策もこじつけとなる」
そんなモットーの元に、世界政府が発表された頃には、世界総人口の0.1%が世界中の富の過半を占有していた状態はほぼ解消されていた。資産総額と、個人か法人かでも違ったが、彼らの手元にはおよそ10%から20%未満しか残らなかった。
経済危機は起こらなかった。なぜなら、ひたすら富自身の増殖のみに向いて実体経済にはほぼ寄与する事が無かった恐ろしい金額の富があぶり出されて、地球規模の公共事業につぎ込まれていくとなれば、爆発的な成長しかもたらさなかった。ただし、秘匿していた富を簒奪された者達にその機会に加わる事は許されず、世界的な企業や金融機関がいくつも消えていったりもした。再編成を余儀なくされた企業グループは数え切れないくらい発生したが、中華連合に協力する企業群に買収されたり吸収されて存続を実現したところも少なくなかった。
端的に言えば、世界的な経済誌にTOP500として名前が出てくる企業の半数以上が入れ替わった。アメリカに本社機能があった会社でそのリストから外れたのは、100近くもあった。欧州全体で残り100近くと言えば、どれだけの経済的ランドスライドが起きたか伝わるだろうか。新たにリストに加わった企業の大半は中華連合の国々に本社機能を持っていた。
そんな世界情勢のおさらいをしつつ、中国には国葬の前日、5月3日に入った。国賓の一人として迎えてもらったが、そのホスト役というか、女性なのでホステス役が、次代の中国共産党指導者というよりは、中国代表として地球政府樹立委員会の委員長に抜擢された、曜民明だった。年は自分と同じ40代半ば。
CIAなどの重要人物のリストからは外れていたが、初日の軽い挨拶の時に当人から言われた。遠い親戚だと。アメリカに渡った曾祖父の孫の一人が、当時まだ遅れていた中国の発展を助ける為にと祖国に戻り、現地の女性と結婚して産まれたのが、彼女だった。
中国共産党に深く関わりつつも、共産党という組織の限界を越える次の枠組みを準備する組織にずっと関わってきて、修琴北の死で日の目を見る事になったそうだ。
「こんな時期に、遠い親戚同士が、アメリカと中国のトップの地位にいるだなんて、運命のいたずらでしょうかね」
「だとしたら、かなり悪質ないたずらを積み重ねすぎですけどね」
アメリカだけでも、ガイエン大統領急死後に辿ってきた運命は、茶化して良い内容では無かったし、そうして欲しくは無かった。
曜は、ぼくが気分を害したのを見て取ると、手を差し出して言った。
「あなたが歴史の表舞台に立つ事になったのは、数奇な運命の賜物という他無いでしょう。でもその巡り合わせを私は感謝します。あなたとなら、平和な未来を築いていけそうですから」
「こちらもそう願っているよ」
彼女はぼくが差し出した手をしっかりと握ると、記者達が構えるカメラに向かって撮影向けな表情を作りながら、ぼくにしか聞こえないくらいの大きさの声で言った。
「あなたと私の来歴はプレス向きに公開されてます。中国とアメリカのトップが表向きだけでも仲良く振る舞えているかどうか、かなり広範囲な影響を及ぼしますから、協力して下さいね」
自分も、カメラに向けて顔や体の向きを調整しながら言った。
「それは、例えばアメリカ国内のPKOがいつ撤退してくれるかにもよるんだけど?」
曜は、にっこりと笑い、送迎の車へぼくをエスコートしながら囁いた。
「詳しい話は車の中で」
乗車し、厳重な警戒態勢の敷かれた中を車列が移動し始めると曜は語った。
「PKOが完全に撤退するのは、世界政府が完全に樹立され、その軍が機能し始めてからになるでしょう」
「それは五年後とか十年後になるんじゃないのか?長すぎる」
「いえ、地球政府軍は遅くとも二、三年の内に稼働させ始める必要がありますから、そこまではかかりませんよ。たぶん」
「どうしてそんなに急ぐ?戦争の危機は全て葬り去ったんじゃなかったのか?」
「アメリカ国内の全核兵器の情報を全てこちらに明け渡してくれるのなら、PKOが撤退する時期はもっと早まるでしょうね」
「核戦争を警戒してるのか?だとしても」
「はっきり言って、あの74Mという連中と同じ世界を共有できるとは思えませんから。あんな連中の手に核兵器を渡すわけにはいきません」
「・・・彼らも、アメリカ国民である事は間違い無い」
「もし彼らがその驕った思想を捨てきれないのなら、最終的には滅ぼすしかないとも考えられてます。彼らの命と、世界人類の残り大半の命、どちらが重いとお考えで?」
「アメリカ大統領としては」
「アメリカ国民の命を最優先と言うのが義務なのでしょうけどね。その為に地球の残りの命を全て犠牲にするのも義務なのですか?」
「そこまで極端には出来ないよ」
「あのソランプや、彼を支持していたような人々を完全な統制下に置けない限り、PKOなり、何らかの監視手段はPKO撤退後にも残されるでしょう。それを拒否するというなら、さらに強硬な手段が採られる可能性まであります」
「国家主権と民族による自治は?」
「その為に、地球人類の大半を犠牲には出来ないというだけです。何度も言わせないで下さい」
「車がホテルに着くまでの間に答えられるような軽い質問じゃないだろ」
「国賓として訪れたあなた達の為に、修主席の死による恩赦というような形で、8.14後に中国各地などに収容されていた捕虜達はその祖国へと帰されます」
「それは良いニュースだね。ありがとう」
「どういたしまして。その代わり、特にあなたには、彼らをどうにか統制する義務が与えられます。戻った兵士達の何割かがテロリスト達に加わるのが、現状からだと目に見えてますからね」
「その原因が、君たちのやり方にあったとは考えないのか?」
「今更口先で何かを謝ったとして、それが何かを改善出来るとでも?そんな筈無いですよね。
あなた達のやり方は、例えばCOVID-19を中国が流布したと根強く欧米メディアでも流し続け、その発端の責任を中国に押し付け続けようとした。中国で流行し始める前、2019年の冬にはアメリカで流行し始めていた事が明らかになっているのにね」
「それは」
「あなたも、いえアメリカも、イギリスのロンドンに起きたような措置を採られる事をお望み?アメリカが近現代の世界で何をしてきたのか、把握していないほどぼんくらでは無いでしょう?」
「把握してはいる。だがだからといって許される事と許されない事があるに決まってるだろ?!」
「あなた方は、許されない事をずっとこちらに押しつけ続けてきたのに?ああ、言っておくけれど、核兵器の情報を全て明け渡さない限り、全部解体しますから」
「そんな横暴を受け入れるとでも?」
「あなた方に拒絶する権利が残されているとでも?」
「・・・・・残されていなくて、核兵器も全部譲渡するか解体しろなんて言われた日には、今以上のレジスタンスが発生するよ」
「だとしたら、やはり全員殺すしか無いという選択肢しか残らないけど、そんな結末をお望み?」
「望んでる筈無いだろ」
「アメリカ全国民の殺害なんて悪逆が、いくらなんでも許される筈が無いと、そう脳天気に思ってるかも知れないけれど、アメリカがどれほどの恨みを買い続けているのか、アメリカ国民は理解する事が無いって本当なのね」
「だけど、これまでの中国政府の発表や声明だと、アメリカに核を打ち込むつもりは無いって。アメリカを占領支配するつもりも無いって言ってたじゃないか」
「そうよ。でもね、アポカリプスの日と同類の連中をあなた達が止められないというのなら、私達が止めるしかないでしょうに。もっと建設的な受け答えをして」
「そちらが無理難題ばかり押しつけてくるせいだろ」
「そんな状況の根本原因を作り続けてきたのが自分達の側だという加害者意識がどこまでも欠落するのはどうしてなのかしらね?」
「・・・せめて、国民の間で熟慮する時間が欲しい」
「それは世界政府樹立の為の準備期間という形で与えられるでしょう」
「例えばの話だけど、アメリカが世界政府に参画すると表明したら、今よりはマシになるのかい?」
「ならないでしょうね。核戦争を起こしたくてたまらないテロリストを制御出来ない国なんだから。繰り返し言うけど、あなた達に出来ない事でも、私達には出来るの」
「何を、するつもりなんだ?」
「倭国、元の日本で製造されてる素敵グッズを流用するとかね。いろいろと手段はあるわ」
「人間を人間扱いしない手段が許される筈が無いだろ!いい加減にしろっ!」
「人間を人間扱いしない手段をずっと用いてきたのが、世界の警察を自認してきたアメリカ合衆国だったのではなくて?いい加減同じ話を繰り返すのは止めて。私があなたの話を聞く価値が無いと判断したら、何が起こるかくらい想像できないのかしら?」
最悪の相手。最悪の交渉手段だった。
でも、ここまではまだ最悪ではなかった。
「もうホテルに着くから、今はここまでにしておくけど、部屋にはプレゼントが用意してあるわ。気に入ってもらえると嬉しいんだけど」
「受け取らないといけないのか?」
「間違いなくあなたは受け取りを熱望するわ。他の何を対価に差し出したとしてもね」
「いったい、何を・・・?」
「ふふ、楽しみ。あなたが何をどこまで差し出してくれるのか」
曜とはホテルの入り口で別れた。付き添いのSP達に部屋まで案内されると、そこには信じられない存在がいた。
アレキサンドル・ガイザー。ソランプの懐刀にして、彼が爆殺された時に同じ会場に居て消し炭か肉片になってしまったと目されて行方も捜索されていなかったのに、どうしてここに!?
アレクはぼくに気が付くと、すまなそうな表情でこぼした。
「面倒をかけるな、ウェイン」
「本当の本当に、君なのか?」
表情や声音などで当人なのは疑いようも無かったのに、口走ってしまった。
「ああ。お前が大統領になれたら、俺を好きにしていいぞって約束したまま約束を果たせないでいた誰かだ」
彼は苦笑して優しく受け止めてくれた。
瞳の端から涙がこぼれていた。
せっかく再会出来た彼の姿がにじんでしまった。彼に駆け寄って抱きしめた時に、その首に巻かれた不吉な首輪に気が付いたのだった。




