26.2025/12/24 大和猛と印西樹里の場合
自分でも予想してなかった方向に話が転がっていったので、どう続けていくかな~としばし悩んでました。
とりあえず書けた分からお届けしていきます。
(大和猛が登場したのは、「8.2023/8/15 とあるネトウヨ顛末記その2」です)
2025/12/24 印西樹里
私の名前は印西樹里。12.7が起きた年には十九歳の女子大生だった。見てくれは少しだけ良かったかも知れない。勉強その他特に熱中する物事も無く、平凡な恋愛と結婚をして、欠伸がでるような凡庸な人生で終わるんだろうなと、自分の人生を他人事の様に捉えていた。
12.7で全てがひっくり返った。
両親はそこまで政治に関心を持ってたようには見えなかったけど、忠臣組を一切認めず、自衛の為にでも組員になろうとはしなかった。私もそれが大事になるなんて想像出来てなかった。政治なんてテレビ画面やインターネットのニュース記事なんかの向こう側で起きてる事で、自分に直接関わりが出てくるとは思えなかった。
結論としては、非組員の若い女性が体験するような悲劇は一通り体験させられた。警察も取り合ってくれなかった。自殺も考えたけど、その前に両親は国外脱出を試そうとした。
九州は福岡から対馬まで出てるフェリーが、そのまま韓国へ密脱国する話をどこからか聞きつけて、藁をもすがる思いで飛びつき、それは対馬ではなく、監獄行きのフェリーとなり、私達一家は奴隷身分となり離散させられた。
そこから実行部隊のセレクションの景品にされるまでの日々は、思い出したくもない。裸で拘束された状態で狭い檻に閉じこめられ、下卑た男共に取り囲まれた時は、生きたまま地獄に放り込まれた心持ちだった。
百人の中でただ一人の勝者を、私の所有者を決める殺し合いの中で、一番殺しまくっていたのが、大和猛だった。何の躊躇も無く、切り裂き、突き刺し、返り血を浴びても嬉々として命を奪い続けた。
ああ、このまま一生地獄が続くのなら、こいつの性器を噛み切ってやって殺されよう。そんな決心さえしていた。
そんな決心が覆えるのに、あまり長い時間はかからなかった。
大和猛という異常者が、日常においては、そこまで負担になる存在ではなかった。もちろん性的な相手を務めさせられる事はあっても、本当の意味で無理矢理というのは、無かったからだろう。
「お前がどうしても死にたいっていうなら、俺は止められない。だけどまだしばらくは生きてたいってくらいの気持ちが残ってるなら、俺につき合え。俺は、これから成り上がるつもりだ」
服を着せられ連れ帰られてかけられたのが、そんな言葉だった。
「成り上がるってどうやって?」
「さあな。実行部隊に入る資格は今日のセレクションで得た。最低限の格闘術や銃器の扱いなんかを、警察や自衛隊の訓練に混ざって修了できたら、地方巡回の隊員として数年。そこで実績積めたら中級以上にもなれるかも知れないってよ」
「でも、上級組員になれたとしても」
「そんときゃそんときにまた考えるさ。お前も悪いようにゃしねえよ。生理とか無理な時にまでやらせろとか言わねぇし」
12.7以前までに数人体験してたのは、ある意味救いではあったのだろう。平常時の大和猛の外見とか雰囲気が好みと言えなく無い範囲に収まってたのも大きい。
だから、奴隷身分に落とされてから、景品にされるまでの間に考えていた事を伝えてみた。
「私は、死のうと思ってた」
「見りゃわかったよ」
「だから、無理矢理されるようなら、あんたのを噛み切って殺されようとか考えてた」
「止めてくれ。死ぬ度胸は無いけど死にたいっていうなら、手伝ってやらんでもないけど、俺はそうしたくも無ぇ」
「どうして?」
「お前、今まで自分を殺せる機会は何度でもあっただろ?だけど結果的に今まで生き延びてきた。自傷の傷跡もほとんど無ぇ。生きたいと思ってる女を殺したいとも思えないんでな。それが良い女なら特にな」
にかっ、と笑った笑顔には嫌みが無かった。
「あんなに殺しまくってたくせに?」
「互いにぶっ殺しあう立場にいたんだ。平等だろ?」
「とてもそうは見えなかったけど」
「そうだな。俺が大学受験の場にいたら、俺は落とされる側だっただろう。それが就職の集団面接の場でも同じだ。だけど今日のは、忠臣組なんていかれた連中の実行部隊なんて暴力集団に加わる為の選抜試験だった。そこにふさわしい能力を示したのが俺や、生き残った連中だった。それだけの話だと思うぜ?」
そして大和猛は夕食を作りながら、自分語りをしてくれた。
貧しいシングルマザー家庭で育てられたらしい。勉強は苦手だったせいもあって、体力バカというか、貧しさをバカにしてくる連中に喧嘩を売りまくっていわゆる不良、それもそういうのを束ねるような立場にもいたらしい。
母親は、コロナ禍で死んだそうだ。いくら保健所に電話してもまともに検査すら受けさせてもらえず、やっと検査を受けて陽性判定を受けても今度は入院先が見つからず、自宅療養を余儀なくされてる内に重症化。救急車を呼んで、一日半、収容先の病院が決まらない内に亡くなったと。
「貯金もろくに無かった。将来はヤクザにでもなるしかないかとも思ってたとこに起こったのが、12.7だった。
コンビニのバイトとかで食いつなぎながら、実行部隊のセレクションの話を聞いてこれだと閃いたんだよ。
俺もむずかしい政治の話とかはわからねぇけど、俺の母さんを殺した連中よりは、忠臣組の連中のがマシだって思えてる」
「そんなあなたが忠臣組で成り上がろうとしてるのは、どうして?」
「腕っ節とか喧嘩の強さみたいのって限界があるだろ。結局は偉い奴が全部押し通す。弱ければ潰されるだけ。だから強くなる必要があるんだよ、いろんな意味でな」
「・・・私も、政治なんて自分に関係無いと思ってた。そんな訳無いのにね」
「俺も、母さんを見殺しにするしかなかった時に、それは痛感したよ。もう手遅れでもあるんだけどな」
「もう一つだけ聞かせて。あなたは、男性は女性に何をしても許されると思っているの?」
「はっ!そんなの、12.7以前でもそう思ってる連中なんてそこら中にいたろ。まっとうな会社につとめてお偉い役職ついてる連中だってな。母さんは水商売系でも働いてたりしたからな。勘違いしたオヤジ連中はいつだってボコってきたぜ」
その曇りのない笑顔を見て、私は決心した。
「私は、民主主義の、日本を取り戻したい。12.7以前の。人が誰かの奴隷にされるとか、間違ってるとしか言えないもの」
「ま、そりゃそうだろうな。だけど、逃げ出すのはお勧めしねぇぞ」
「わかってるわ。私の首輪にも当然GPSや発信器はついてるし、あなたの腕輪から一定距離離れた時点でもう追っ手がかかるし、そうしたらもう」
「いつ殺されてもおかしくねぇ。自殺の仕方としてはありかも知れねぇが、どうしても死にたくなった時以外は止めとけ。俺はお前を抱きたいし、一緒に気持ちよくなりてぇし」
「一人でどうにか逃げ出せたとしても、その後の生活が、あなたと一緒にいる時よりマシになるかどうかは、かなり分の悪い賭けになる。だから、私はあなたの成り上がりに協力する。あなたは私の活動に出来る範囲で手助けする。ギブアンドテイクの関係なら、どうかな?」
「俺がお前にしてやれるのは、保護とか生活の面倒見るくらいだろうな、後は相性さえよければ気持ちよくしてやれるくらいか。よっと、晩飯出来たぞ、食え」
母子家庭で育ったせいか家事は一通り出来るようだったし、料理は下手すると私より上手だった。料理だけにつられた訳じゃなかったけど、何となく試しにって感じでしてみたら、そっちも悪くなかった。
そんな風に、大和猛との生活は、当初予想よりもだいぶ穏やかに始まった。彼が訓練に出ている間は自宅から出れなかったけど、ネットとかも基本的に自由に使えたので、退屈はしないで済んだ。
彼が訓練期間を終えて地方の巡察隊に配属されてからは、彼の移動宿舎に帯同したけど、他の隊員に貸し出されるとかはなかった。そういう要望を受けても彼は断ってくれていた。私が嫌がったし、彼も拒否してくれてた。ぶっちゃけ、感染症対策とかもあって奴隷の貸し借りは推奨されてないせいもあったけれど。
訓練期間と、地方巡察隊での三ヶ月の勤務を終えた後、中級組員に近しい仮身分が彼には与えられた。実行部隊の腕輪の色は黒鉄色だった。
隊長職とかになるには筆記試験とかに合格する必要もあって、私は勉強に付き合ったりもした。何度も不合格になりつつあきらめなかったので、一年後には合格して仮身分では無くなると、黒鉄色の腕輪に銀色の横線が入った。
そこからさらに半年後には、分隊長身分を与えられて五人の部下を持つようになり、奈良の日本救国党事件の時には、首謀者達を逃そうとした陽動部隊を鎮圧した手柄を認められて、三分隊十五人をまとめる小隊長にまで昇進した。
私?私の方は、途方に暮れてた。
文字通り暗中模索しながらネット上で出会った民主制政治を取り戻そうとする同士達は、藁にもすがるような思いで日本救国党の行動に加わって何人も死んでしまった。
日本民主主義復活同盟という旗頭も、元々大した事のなかった評判が払底して消滅してしまった。
これからどうしたものかと思い悩む内に、倭国への国号変更と、王政復古、立憲君主制と言えなくもないのだろうけど、さらに民主制が遠のくのを感じて、このまま大和猛と仲良くやってくしかないのかと諦めかけたりした。
「ま、好きにしたらいいんじゃね?」
とは、そんな心境を吐露した時の猛の反応だった。
「好きにしたら、殺されちゃうよ」
「死にたくねぇ。そんな当たり前の理由で生き続けられるのなら、それはそれで有りだろ。誰にも文句つけられる謂われは無ぇ」
「それはそうだろうけど」
「でな、せっかく王様なんてのが出てきたんだ。それも血統だけで決まるんじゃ無いらしい。だったら、俺が王様になる目だってあるんじゃねぇのか?」
「・・・本気?」
「おうよ!ど貧乏なガキが一匹、目標にするにゃちょうどいいくらいだろ」
「言っておくけど、王様殺せば入れ替わりで王様になれるなんて、連中甘くはないだろうからね」
「そんくらいわかってらぁ。なめんな。護衛とかもたっぷり付けられてるだろうし、まず近付けないだろ。そんで万が一殺せたとしても、自分も殺されてる。そんなの、意味無ぇし」
「まぁ、女王様とかだったら、その配偶者になるってのは一つの手だろうけど、その場合はあくまで配偶者になるだけで、王様になれる訳じゃないだろうしね」
「だな。もしも俺が王様になれたら、お前の願いの一つや二つくらいは叶えてやれるかも知れねぇぞ?」
「今だってあなたと結婚して、二人以上出産すれば奴隷身分から解放されるのはわかってる。だけど、そんなのはイヤなの。
それに、あなたが王様のままなら、民主制政治の復活も無理でしょうに」
「だったら、お前はお前で、お前の力で自分の願いを叶えねぇとだな」
「それが出来たら苦労しないわ」
「俺が王様になるのとどっちがむずかしいかって言えば、どっこいどっこいだろ。あきらめんなよ」
「あんたって、変な奴よね。忠臣組の実行部隊の小隊長なんて身分なんだから、奴隷が身に過ぎた願いを抱かないように躾るというか暴力振るうのが順当な振る舞いなんじゃないの?」
「そんなん、つまんねぇだろ。身に過ぎた願いなんて、俺だってそうだ。12.7が起きてなかったら、俺はこんな生活送れてなかった。お前と出会う事も無かっただろうしな」
こいつは直球を無意識に連投してくるから手に負えない。
「私は、奴隷に落ちてまであなたに会いたかったとは思えてないけどね」
「そりゃそうだな。俺は俺で、このまま務めを長くしてけばそれなりに成り上がって、それなりの機会が巡ってくる可能性は出てきておかしく無ぇ。
そんでお前はどうする?家に籠もったまま、いつかどこかの誰かが全部どうにかしてくれるまで待ち続けるのか?」
こいつは、ほんとに。
見下してきてない。自分がどん底にいる存在だと本気で信じてるから。私に、期待してくれてるのが伝わってくる。それは、悪くない感覚だった。
「ほとんど出歩けないのは、あなたも知ってるでしょ。だから、ちょっと噂になってる存在にコンタクト取ってみようかなと思ってる」
「誰だ?」
「摂政の孫のお相手。特に世間的に目立った事をしてる訳じゃないけど、摂政の孫で、右大臣の子で、自身も忠臣組や倭国の中枢部に関わる事が確定してる男の子のお相手。
保身に走った象徴として一部からはめちゃくちゃ叩かれてるけど、本人としては別に忠臣組に懸命に尽くしてるって訳でも無さそうで、わりと民主制の方に傾いた考えを持ってるんじゃないかと噂されてるの」
「旦那とかの方はどうにも出来なさそうだから、その女房候補からどうにかしてもらおうってか」
「他力本願てのはわかってるんだけどね。そっちが脈無しなら、ていうか自分でも何か始めて積み上げていかないと相手にしてもらえないだろうから、何かはするつもり」
「何を?」
「はっきりとはまだ決めてない。けど、あなたに迷惑もかからず、私も殺されたり酷い目にはあわないだろう何かにはする予定」
「くくっ、楽しみにしとくよ」
そうして、猛は食事の準備をしにキッチンへと向かった。
今夜はクリスマス・イブ。彼は出来合いのを買い揃える事も出来たろうに、手間暇かけてチキンもケーキも自作するのだそうだ。彼の母親が、彼にそうしてくれていたから。
予想してたよりずっと良くしてくれてる彼に聞いた事がある。私が彼の母親に似ているのか、彼女の身代わりとして捉えてるのかどうか。
写真を見せてくれたりしたけど似てなかったし、する事はしてるからそんなつもりもある筈無いだろうがと軽く頭を小突かれたりした。
こんな日々が続くのなら悪くもないとも思えてたけど、やっぱり、奴隷とその主人なんて立場の関係のままでいいわけが無い。誰かに強制されて彼の子供を産みたくもなかった。
だから、私は下書きフォルダに残してた田中理恵という会った事も無い相手へのメール文面を何度か読み返して、微修正を加えてから、送信ボタンを押した。
何も起こらなくてもいい。ただ、酷い事だけは起きて欲しくないと願ったりもしたけど、もう取り返しはつかない。
見知らぬ相手からのメールなんて、届いたとしても迷惑メールフォルダに直行して読まれないかも知れない。
どう転んだとしても、もうすぐ、2025年も明ける。2026年には、早ければ元旦にも、遅くとも四月頭頃には、倭国が蘇り新憲法も発布される。
すべては移り変わっていくのだ。だめで元々。猛も私も、願いが叶えられる可能性なんて限りなくゼロに近いだろう。
だったら、動いてみよう。
私は、私用に猛から与えられてるタブレットをリビングに残して、クリスマス料理に自分の手による一品くらいは添える為に、キッチンへと向かった。
この二人はたぶんまた出てきます。




