22.2025/6/25 真羅建国の頃
2025/6/25
田中理恵
春先からこれまでは、日本国内も世界も激動に激動を重ねてきていた。余りにもいろいろありすぎたので、忠臣組の特級子女とかが集められた無名の教室という所にお呼ばれしていた。
「いいの?私、中級組員なのに」
「いいのいいの。ぼくのお相手ってのを見てみたい、ていうか連れて来いって人も中にはいたりしてね」
装甲車の車列みたいな物々しい送迎で、およそ2時間移動した先にあったのは、静かな山村に佇む豪邸。高い塀に囲まれ、所々に物見台や銃座(!)まで設えられてた。12.7以前なら日本には存在し得なかっただろうし、ぶっちゃけ英宏一家の自宅より厳重に武装していた。
玄関までの日本庭園も広くて、玄関も下手な戸建てなら収まりそうなくらい立派で、ちょっとした富豪なんてレベルじゃ済まない誰かが住んでるんだろうなと想像できた。
「そんなびくびくしないで大丈夫だよ」
「でも、廊下に何気なく飾られてる花瓶とか、国宝級だったりするんじゃないの?」
「ああ、うん。そういうのも混じってるかもね」
「混じってるんかい!?」
なんて会話を交わしつつ、移動した先にあったのは、講堂の様な場所。掘り下げ式の構造で、中央に講壇とスクリーンが設えられてた。詰め込めば五十人くらいは入れそうな室内には二十人弱くらいの、私と同じくらいか少し年上そうな男女がいた。
ぱっとみんなが私たちを振り返って注目してきた。私たちというか、私を興味深そうに見つめてきた。
その中でも、一番目を引いたというか惹いたのが、信じられないくらい綺麗な女性だった。十六から十八か、たぶんそのくらい。ゆったりとしたワンピースを着て、英宏の前に進み出ると、挨拶してきた。
「英宏、やっと連れてきてくれたのね」
「連れてこいとうるさい人達がいたもので」
「うるさくした甲斐があったというものね。田中理恵さん、初めまして。忠臣組の卜部を勤める和奏という者です。よろしくね」
「は、はじめまして・・」
女性に見とれるというのは初めての経験だった。満月の様に白く輝く肌。夜闇の様にしとやかな漆黒の髪と瞳。目元は涼やかで、声は優しい鈴の音の様に心に響いた。
「田中、理恵です。今日は、みなさんにお招き頂き、ありがとうございます」
「歓迎するわ。みんな、あなたに会いたがってたのよ」
「私なんか、ただの一般人なのに」
この場にいるのは、私を除いて、ほぼ全員が特級の腕輪をしていた。
そこからは、いろんな人に一斉に自己紹介されて、覚えるのに必死だった。最後に挨拶してきたのが、
「船越擽です。ようこそ。英宏さん、そろそろ始めていいです?話すべき事がたくさんありますので」
「そうだね。進行よろしく」
スクリーンの正面。三人掛けできる机の真ん中に私は座らされて、英宏は私の右、和奏さんは私の左に座ると、部屋の明かりが落とされて、スクリーンには、昨年からの世界的な大きな出来事が年表の様な形でまとめられていた。
「8.14や、イスラエル消滅、ワースト・クリスマスまでの話は省略します。今日話すのは、年が明けて以降、欧州諸国の武装解除や、国連に起きた変化、そしてアメリカ大統領選挙とその後の顛末などです。
まずはEUの武装解除、自国沿海を除く漁業権の剥奪や、名指しで巨悪扱いで滅消を強制されたドイツの巨大製薬会社ベイエルの救命嘆願から。
武装解除はいったん、戦車や航空機といった兵器の封印措置で落ち着きました。専用のドローンが電子回路の動作を阻害して兵器として機能させなくしました。そのドローンがはがされるなり破壊されたりすれば、イスラエル軍が辿った運命をその国の軍隊の兵器も辿ると脅迫され、イギリスやフランスの兵器から封印されていきました。
漁業が盛んな国は、中華連合に猛抗議しました。国際司法裁判所みたいな機関への提訴も幾通りか試しましたが、全て棄却扱い。自国政府の制止も聞かずに操業しようとした漁船は全て海洋兵器ドローンに撃沈されていき、その総計が三百隻に達する頃になって、ようやく欧州は諦めました。抵抗は無駄だと。
そしてベイエルの扱いに関しては、妥協しつつも延命措置を必死に模索しました。というのも、他業種で似たような"悪行"に手を染めている国際大企業は少なからず欧州にありましたし。その全てが中華連合の言う通りに取り潰されていけば、欧州経済は戦争を経なくても崩壊するしかありませんでしたから。
農薬及び種子ビジネスの破棄、それらに関連する特許や債権の放棄。これらだけでも企業的には大損害で致命傷といっても良かったですが、中華連合は妥協を許しませんでした。
ベイエルが買収した悪名高いポンサントが開発した遺伝子組み替え作物と種苗、農薬や肥料、殺虫剤や除草剤とセット、土壌の汚染や発ガン性物質の危険性などが指摘され続けてきて、インド他の国々で物議を醸してきました」
「でも、収穫高が増えて、農家の年収も上がってるのも事実じゃなかったっけ?」
「灌漑にアクセスできるかどうかでもかなり違うって話だったよね」
「ですね。だからインドや欧州でも使用が継続されたりしてました」
「だとしたら、それを無理押しするのって筋が悪くない?」
ここで悪い笑顔を浮かべた船越さんというか君は、メガネのレンズをきらめかせて質問を振ってきた。
「では、田中理恵さん、お考えを伺っても?」
ざっと、二十対以上の視線が集まったので、緊張しない訳も無かったけど、その後のニュースは目にしてるので、答えの分かっているクイズを出されたようなものだった。
「農業に関わるビジネスの主導権を、中華連合側、もっと言えばこれから人口が増え続ける側の手中にする為?」
船越君は満足げにうなずいて、先を続けた。
「ですね。ベイエルはその鏑矢にされた。EU側も当然、分かっています。だから何とかして本体は残そうとした」
そしてスクリーンに欧州のニュース(英語字幕付き)を流した。映されてるのは、どこかの空港。そこに横付けしたバスから降りて飛行機に乗り込んでいるのは、ベイエルというかポンサント事業の技術者や研究者達らしい。
「看板は残してやろう。だが頭脳はもらっていく。そんな暴虐をドイツや欧州政府は無理矢理飲まされました。似たような動きは、別の先端企業に対しても広がるでしょう」
「抵抗は、しなかったんですか?」
「政治的にはいろいろ試行錯誤して粘り強く交渉しようとしていたみたいです。が、そのせいで、ドイツ国籍の全ての軍用機はその頭脳を壊されました。付着していたドローン達によって。これでまだ足りないなら、次は民間機も潰すと言われ、ドイツやEUは屈服しました」
「でも、こんな事してたら、反発がすごい事になるんじゃないんですか?」
「ええ。だから待遇は現状以上を提示し、望むなら家族毎移住を許されるようですね。それ以上の譲歩は示されませんでしたが。
さて、ワースト・クリスマス以降、このドイツとEUの屈服劇の後、国連では重要な組織変更が行われました」
また視線を船越君から向けられたから答えた。
「国連安保理常任理事国の変更だよね」
「はい。第二次世界大戦の戦勝国のままで据え置き続けるのは、すでに世界の実状に合わなくなったとして、イギリスとフランスを常任理事国から解任。イギリスと欧州諸国から、1国のみを代表で選出するよう申しつけ、拒否権は与えられませんでした。
新たな常任理事国としては、PAU、AUの代表が加えられました。さらに、安保理としての議決に必要なのは全会一致ではなく、過半数に変更。さらに拒否権の発動も単独や二票まででは無効で、三票以上としました」
「アメリカで一、欧州で一。つまり、これまでの自由主義陣営主導で国連を動かせなくなったって事だね」
「中国、インド、ロシア、PAU、AUの内、少なくとも一角を崩さないといけなくなった」
「今のところ、全てがうまく転んでいってるから、離間の計は成功しづらいだろうね」
「次に触れるのは、アメリカの大統領選挙についてです。ワースト・クリスマス以降、さすがに内輪もめしてる場合ではないと民主党系FDAと共和党系WSRが妥協策を検討。
ソランプ元大統領の呼びかけで、先ずWSRの武装組織が国軍や州軍に武装解除。その後ペロス大統領代行と共同で、彼女が選挙管理を行う形で、大統領選挙を行う事になりました」
「本選だけ行おうとしてたらしいけど、それはさすがに両党の議員から猛反対されて、形だけっぽい予備選もやったんだよね?」
「ソランプが出馬するのはともかく、ソランプから指名されたペロス代行の交渉役だったウェイン・リーってアジア系の男性は、議員ですらなかったから、確実に勝てる相手を勝手に指名するなんて受け入れられないってね」
「で、カリフォルニア州知事と、あと一人民主党左派代表のおじいちゃん議員の三人で一ヶ月ちょいで予備選やって」
「大会やれたのはFDAの掌握してる州だけだったけど」
「絶対的不利な筈の下馬評覆して、ウェインさん勝っちゃったんだよね」
「本人も信じられないって表情してたけどね」
「大幅リードしてたカリフォルニア州知事カークが、この状況下で白人の自分がアジア系に負ける訳にいかないって失言しちゃって」
「プライベートな場での発言だったらしいけど、音声データだったから言い逃れ出来なくて、ソランプがWSRにようこそ!って悪乗りして拡散に努めて、74Mがカーク周辺にいる隠れシンパを暴露してったら、あれよあれよとリードが崩れていって、まさかの結果に」
「指名したソランプ側にしたら大満足だよね。出来レース的な共和党予備選勝って、本選でも、念願の再選果たしたし」
「歴史的瞬間的ぬか喜びに終わったけどね」
参加者達が活発に討議してた合間に、船越君がスクリーンにニュース映像を映し出した。ここ最近だと、世界で一番再生された動画だろう。
ソランプ再選を祝福するパーティー会場。共和党系議員達に取り囲まれたソランプの元に、深紅のドレスに身を包んだ妙齢の美女が歩み寄り、祝辞の言葉をかけ、ソランプをハグして、その耳元に何かを囁いた。満面の笑顔を瞬時に強ばらせたソランプが抱擁から逃れようとしても離さなかった女性は天に向かって絶叫した。
「アポカリプスの日よ来たれ!終焉を告げる天の御使い達よ、そのラッパを吹き鳴らし給え!」
そして、会場全体が閃光と爆発に包まれて・・・。
元大統領にして次期大統領就任予定だったソランプは文字通り消滅。勝利が確実視されていた彼の祝勝に集まっていた共和党系国会議員の半数以上が死亡。残りの半数近くも重軽傷を負い、ほとんどが執務不可能。
ソランプ支持者達74Mは当然、FDA陣営、もしくは中国の関与を疑ったが、主犯は自陣営とも言えるアポカリプスの日の教祖にして主催者の女性の現行犯が全世界に中継されていた。自爆テロ直後に自身の公式サイトに掲載された犯行声明で、ウェイン他FDAの関与は否定されていた。
「終焉の日をもたらすという約定を彼は守ろうとしなかった。だから行動を起こした」と。
同日。FDA系の有力者達もまた74M系の報復(八つ当たり)攻撃に巻き込まれ、カリフォルニア州知事は重傷、ペロス代行は軽傷、FDA執行部も他に十名以上の死傷者を出し、内戦は最悪の形で再発した。
その数時間後、国連安保理は、大量虐殺や核ミサイル強奪や発射を含めた最悪の事態を未然に防ぐ為として、PKO派遣を即時決定。
アメリカや欧州代表となっていたポーランドは反対したけど、安保理評決は5対2で確定。AU(アフリカ連盟)からの兵士を中心に特に共和党系WSRの勢力圏に暴動鎮圧用ドローン群隊と共に展開を開始。フロリダやテキサスの州都から制圧。
大統領選の本選に負けてソランプの副大統領に就任予定だったウェイン・リーが就任式を略式で済まして事態の沈静化に努め、一刻も早いPKOの派遣解除を目指したものの、AU・アフリカ系とインド・アジア系の混成軍隊の展開に74Mや一部の州軍までが反発。ソランプやWSR議員爆殺が中国主導のテロだったと主張して徹底抗戦を呼びかけ、このままアメリカ合衆国として中国やその同調国に対し宣戦布告するようウェインにも迫ってきた。もっと言うと核ミサイルの発射サイロなどでは、かなり際どい事態も複数起こっていたらしい。新国防長官が手配していたAIとドローンによるインターセプションが機能して、何とかアメリカ発の核戦争勃発は免れたんだとか。
そんなハリウッド製アクションサスペンス映画的な、一般に報道されてなかった裏事情とかまでぽんぽん飛び交う中、話題は第48代アメリカ合衆国大統領に戻った。
「当初、ウェイン・リーは国連安保理によるPKOの申し出を却下しましたが、受け入れられませんでした」
「最悪の形で分裂したままで、戦える訳も無いって意図は分かるんだけど」
「情勢がもう・・・ね」
「無制御私兵集団化した74Mから潰されてってるしね」
「PKOらしい活動しかしてないし、結局欧州からも部隊は派遣されたし」
「だけどもう理性失った奴らはとことんイっちゃってるから」
「南部州は半分近くPKO管轄下に置かれた事もあって、それがさらにWSR支持者の反発や危機感をあおってて」
「第二次南北戦争とか、独立戦争再び、みたいなね」
「一部民主党系の支持者も中国の陰謀ではないのかって疑ってて、分裂抗争に拍車をかけてしまっている」
その後も活発な討議は続いてたけど、一区切りついたところで、また船越君が問いかけてきた。
「あなたはどちらだと思いますか、田中理恵さん?」
少しだけ考え、最近見たり読んだりした中国側の報道なんかも踏まえて答えていった。
「当然だけど、中国は関与を否定してますね」
「ええ。でもそれが真実だと思いますか?」
「わかりません。でもそれが真実にされるとは思います」
「ほう。どうしてそう思います?」
船越君が愉しげにまた眼鏡のレンズをきらめかせた。
「国連の力学でそう決められる事が確定してるから」
「ま、そうですね。これまで常任理事国、特に英米とかがメディア操作してやってきたのと同等以上の事が、国連という正道の筈の舞台で、再現され、確定されるでしょう。
で、神国日本はどう動くべきだと?」
私はちらりと英宏に視線を向けてみた。
「好きに答えたらいいよ。みんないちいち気にするほど狭量じゃないし」
ははは、と朗らかな笑い声が周囲からこぼれて、私はそれで気を楽にして言った。
「これで鎖国を急ぐ事は無いんでしょう?どうせ中国とはつながってるんでしょうし、規定路線をそのまま進んでいけば問題無いじゃないの?」
誰も否定はしてこなかった。だけど上辺だけの笑顔は消えて、眼差しが一段と真剣なものに変わったのが感じられた。
船越君がぐるりと講堂内にいる面々の表情を伺い、私の隣、和奏さんに視線を留めると、彼女が問いかけてきた。
「じゃあ、質問を変えてみるわね。神国日本、というかこの国は、このまま進むべきだと思う?」
「・・・・・たぶん、答えは、Noだと思います」
幾人かが息を飲み、別の幾人かは口笛を吹いたりもした。視線が若干険しくなった人もいたけど、柔らかくなったり、意味合いが変わったような人もいたようだった。
「どうして?」
「鎖国は、仕方ないのかも知れません。でもその先に待ってるのは、行き止まりだけだから」
がばっ!と、気がついた時には和奏さんに抱きしめられてた。
「うん、この子気に入ったわ!ちょうだい、英宏!」
「あげませんよ。ほら、放してあげて下さい」
何の香りかはわからないけど、とても良い香りがしてどきどきしてしまったが、それはさておき、和奏さんは私をじっと見つめながら改めて尋ねてきた。
「どうして行き止まりになるの?」
「単純に、殺しすぎてるのもあるし」
「他には?」
「対外的には結局中国がその気になったら止められないし、対内的には本気で天皇の外戚が天皇制廃止に反対する人達に担ぎ上げられた時、それが数十万とか数百万とかそれ以上になったら、さすがに忠臣組でも殺しきれないというか、全員殺しちゃったら支障があるんじゃないかと思うので・・・」
「英宏」
「理恵にはまだ話してないですよ。そもそもが昨日の今日くらいの話じゃないですか」
「何の話?」
「擽、例のを」
「わかりました。田中さん。これはまだ報道管制が敷かれてる件ですので、ご家族他には口外しないで下さい」
そう前置きされてスクリーンに映されたのは、たぶん、どこかにある大きな古墳の上で、奈良時代風衣装のコスプレ集団が何かの儀式らしき物を執り行い、その中心にいた男性が、撮影してるカメラの前に進み出て語りかけた。
「大半の日本国民の皆様には、初めましての挨拶となります。私の名は、桐生睦紀。明治帝の第六皇男子として桐生宮当主となった為久を曾祖父とした、皇籍から外れたいわゆる外戚の一人です。
忠臣組による神国日本樹立以降、政治的に利用される事を恐れ、有志の方々に匿われ、身を潜めておりました。
その間、神国日本は国体をこれ以上無いほど苛んできました。英仁様を始めとした無辜の皇室の方々の命を奪い、天皇という世界に誇るべき無比の存在を尊ぶ人々を娯楽の様に数え切れないくらい虐殺してきました。
そして、この春。ついに国民投票という手段を用いて天皇制の廃止を決めてしまいました。何たる不遜。言語道断な悪逆です。
もう、隠れてはいられません。取り戻すべきものが増えすぎました。天皇制はもちろんの事、民主主義や基本的人権も取り戻さなければなりません。取り戻さなければ、忠臣組による非道な専制政治は続いていってしまいます。その圧政による犠牲者は増え続けていくでしょう。
私たちは止めなければなりません。天皇制は廃止させません。男系による皇統を止める必要性もありません。私が皇籍に復し、愛子内親王殿下を娶り、子を成していけば何の問題もありません。一部報道で騒がれている韓国人アイドルとのゴシップ記事がもし事実だとしたら、許すまじき行為です。忠臣組はどこまでこの日本を、皇室を汚せば気が済むのでしょう?
かつての輝かしい日本を取り戻したい皆さん、かつてのヤマト朝廷が開かれた奈良の地へ集結して下さい。数が増えれば増えるほどに、忠臣組も手を出しづらくなり、かつての日本を取り戻す一歩につながっていきます。
天皇制も、男系による皇統も、民主主義も基本的人権も、取り戻せます。まっとうな心を持つ日本人である皆さんが心を一つにして、私に力を貸して下されば、実現は可能です。
それでは皆さん。奈良でお会いしましょう」
映像が途切れた後、私は所感を口にした。
「えっと、忠臣組のやらせ?」
この場にいた数人のツボに入ったらしく、吹き出したり笑いをこらえたりしてたが、船越君は苦笑いしながら尋ねてきた。
「どうしてそう思います?」
「だって、こんなの、把握してなかった訳無いでしょう?だとしたら、見逃しててわざとやらせたとしか考えられないもの」
「まあ、そうですね。彼は旧皇族の中では名前の知られてる方でしたし、要注意人物として監視対象でした」
「もしかして」
「いいえ。匿ってたのは我々ではないですよ。ちゃんと所在や潜伏中の活動内容などは把握していましたが」
「つまり、こういう時の為に温存しておいて、世の中にリリースして、そういう連中を引き寄せる役目として使い倒そうとしてるの?」
「理恵の忠臣組への信頼が厚すぎる件について」
「英宏さんと付き合ってるくらいですから、何の幻想も抱いてないでしょうね」
「ぼくの扱いが酷すぎる件について!異議あり!」
「却下します。
さて、現状を説明しますと、奈良畝傍山で儀式を行った桐生睦紀は、数百の支持者と旗揚げした後、じわじわと支持者を増やし、現状で三万五千ほど。報道管制をかけた状態でなければ、その数は数倍から十倍以上には軽く跳ね上がるでしょう。
そこで、あなたならこの状況にどう対処しますか、田中理恵さん?」
「え、もう全員殺す事は確定してるんじゃないの?」
「・・・理恵の中での忠臣組イメージがどん底過ぎる件に関して」
「それは主に自己責任ですから我々にその責を分かち合おうとしないで下さい」
「ひどっ!ぼくだってまだぜんぜん子供だったのに!」
「それはそれとして、殺す事がもし決まっていたとして、それは最善の策だと思いますか?」
「原爆一発で亡くなったのが十万くらいだとして、その数発分を単純に殺そうとするのは、いくら何でも忠臣組に致命的なイメージダウンを引き起こすんじゃないのかな、と思います」
「ではどうしたら、そのダメージは避けられると思いますか?」
「・・・たぶんだけど、その外戚だったっていう男性を暗殺とかで消すのは、今更、下策になると思う」
船越君はただうなずいて先を促してきた。
「かといって、数万から数十万を皆殺しにしてくのも、たぶんもっと下策になるかも知れない。一番まずいのは、民主主義を復活したい人達が彼らに取り込まれてしまう事。だから新憲法で、基本的人権が部分的にでも保証されるか、男女不平等を解消されるとか広まれば、一定の歯止めにはなると思うんですけど」
「もしも天皇制が継続になってたら、女系天皇になっていくって事もあって、平等というか、男女不平等な女性優位の内容に変わっていく予定だったんだけどね」
「でも、廃止になったっていう事は、その未来は却下されたって事ですよね?」
「それがそうでも無いんだけど。う~ん、どうしようかしら。ねぇ、英宏?」
「判断はお任せしますよ。あなたが卜部なのですから。ただし話したら、理恵もその両親もここに強制収容になりますよ?」
「へっ?私そこまでして聞きたい理由が無いんですけど?」
「いいじゃない。どうせこれからもっと物騒になるんだし、2人の愛の巣にしちゃってもいいから!」
「勝手に話を進めないで下さい!」
でも和奏さんは微笑で私の抗議をスルーした後、瞳を閉じて黙し、しばし天を仰いだ。十秒くらいそのままでいた後、瞳を開くと言った。
「駄目ね。やっぱり、理恵ちゃんのは見えないみたい。だから、これは私の独断で決めるわ」
「姫の判断なら、年嵩連中も文句は言えないでしょう」
「ありがと、擽」
「あの、姫っていうのは?」
「神国日本は、新憲法制定の時に併せて、本来の名前、倭国に国号を復します。そして私は遠祖比干に血裔を連ねる、比の女の巫女。倭の姫にして、次代の王になる者なの」
えっと、比干て誰?とか、倭国に国号が戻るとか、巫女でお姫様って何?次の王って?!とか、私の思考回路容量は一瞬で飽和した。
ちなみに今日夕方には、韓国と北朝鮮が真羅という統一国家を成立させていた歴史的な一日だったのだけど、私の記憶的にはこちらの方がよほどインパクトが大きかったし、私のこれ以降の人生に関しても同じだった。




