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18.2024/12/25 ワースト・クリスマス

2024/12/25

ウェイン・リー


 本来なら、2024年はアメリカ大統領選挙がある筈の年だった。そういう動きが民主党系FDAと共和党系WSRの間で協議されてなかった訳ではない。ただし、アメリカとヨーロッパ諸国などの艦隊兵力が一方的に全滅させられた8.14で、そういった話は吹き飛んでしまった。

 時折アレックスとはテレビ会議で話し合ったが、WSR内部はこちら以上に大変だったらしい。キリスト教原理主義過激派の筆頭であるアポカリプスの日は、これこそ神が定められし最終戦争アルマゲドンの啓示ですと74Mを煽り立て続けた。

 74Mの大半、WSRの過半が第三次世界大戦の開戦を望んでいるという状況だった。

 ただ、アレックスを通じてソランプを含めたWSR首脳陣の意志も確認したが、中国との開戦は無理という判断は、こちら(FDA)とも、イギリスやEU諸国首脳達とも合致していた。なにせ、軍隊を送り込みたくても、その手段が無いのだから。

 FDA内部でも、新国防長官を据えた国防総省や各種諜報機関とも、何度も確認してみたが、開戦は無理という判断は変わらなかった。


 そうこうしている内に時が経ち、インドが六番目の常任理事国になった。これでとりあえず中国の外交攻勢は一段落つくんじゃないかって考えは、甘過ぎた。

 PAUの成立から即時のイスラエルの侵攻。過去の中東戦争との違いは、中国というハイテク大国がその後ろ盾となり、イスラエルの精強な軍備をたった一日で丸裸にしてしまい、一週間でイスラエルを消滅させてしまった。

 海洋ドローンへの対策を至上最優先課題として進めていた国防総省の対応方針は、ひっくり返されてしまったと言っていい。

 ただ一人。FDAとWSRを納得させられた国防総省からの推薦人物、AIとドローンの専門家、アンガス・グィージーという変人の新国防長官だけは、開発してない筈が無いと警告は発していた。ただし、余裕が無くて研究は後回しにしていたし、アンガス自身も、根本的な対応策はほぼ無いと言い切っていたのもあった。イスラエル消滅後は、暫定的な対処策は在外米軍にも本土の米軍施設や兵装にASAPで施したけれど。


 数百万のユダヤ難民の内、150万人以上が、アメリカへの移民を希望し、この難民への対応もFDAとWSR共通の悩みの種になった。

 国内ユダヤ人団体がエルサレム解放騎士団なる私兵団を創設し、その本部をNY州に設置した事は、FDAにとって更なる厄介事にもなった。


 だが、中国はちっとも攻め手を緩めてくれなかった。ゲームのチェスと違い、攻め手は律儀にターンをこちらに与えてはくれない。

 イスラエル消滅から一週間後、南アフリカと、PAU参加国を除いたアフリカ諸国が、アフリカ連盟(African Union。略称AU)を結成。中国と歩調を合わせる事を発表。

 その二週間後、ブラジルやアルゼンチン、チリ、ペルー、ウルグアイなどの南米諸国も、中国・インド・ロシア側につくという声明を発表。

 その一週間後、パナマを含む中南米諸国の大半が、やはり中国の側につくと発表し、アメリカや欧州諸国の船はパナマ運河の自由航行権まで失ってしまった。ほぼ同時にキューバやドミニカなどのカリブ海諸国まで同様の声明を発表したから、ほとんど世界中を敵に回したような状況に陥ってしまった。


 イギリスやアメリカを中心に、8.14への非武力行使な報復手段として、経済・金融制裁を課そうとはしていた。自分達にも跳ね返ってくる諸刃の剣だったとしても、何もしないという選択肢は無い筈だった。

 ただ中国は、何もせずにその制裁を待ち受けはしなかった。イスラエルを消滅させ、地球的な逆包囲網を敷いてきた。やれるものならやってみろと。


 そして、最も暗いクリスマスが訪れた。PAUやAU、南米や中南米、カリブ海諸国は、中国・インド・ロシア軍に自国領土や施設の軍事利用を許可。

 WSRの中核であり、ソランプが滞在するフロリダ州から目と鼻の先にあるキューバに、中国のドローン兵器用の移動基地が設置されたと発表された。第二次キューバ危機の発生だ。

 さらに、いわゆる西側全体に王手チェックをかけてきた。


 2024年12月25日0時0分。イギリス沿海で航行あるいは港に停泊していた全てのイギリス海軍の艦艇の航行装置が同時に破壊された。

 そして、中国からの宣告が下された。

「これはかつて阿片戦争という理不尽にさらされ、香港や上海などを無理矢理租借地として奪われた事への報復である。

 そしてインドもまた、イギリス王国による理不尽に長らく被害を受けた当事者である。イスラエルの一方的な建国により被害を受けた中東諸国もまた当事者である。

 果たして、イギリスはその傲慢な歴史に真摯な謝罪と賠償を一度でもしただろうか?いや、無い。どこまでも驕り高ぶり、アメリカと共に自由主義陣営の宗主の地位に居座り、世界に争乱の種を撒き続け、軍事影響力が減じてからは金融で影響力を及ぼし続けた。

 

 これはイギリスへの、降伏勧告であり、武装解除命令である。そちらに拒否権は無い。かつての我々に拒否権が与えられなかったのと同じだ。12時間以内に受託宣言を発しなかった場合、軍船に限らず、全てのイギリス船を沈める。民間の漁船などの区別をつけない。その後も受託宣言を発しなかった場合、地上の兵装なども、イスラエル軍のそれと運命を同一にするだろう。

 ロンドンは中国とインドによって租借される。期限は無い。香港が租借された時も期限は無かった。インドのムガル帝国は滅ぼされた。

 なお、EUやNATOなどの枠組みで英国を助けようとした国は、英国と同じ運命を辿る。いわゆる西側自由陣営と呼ばれた国々で、植民地をアフリカや中東やアジアやアメリカ大陸で得ていなかった国があろうか?いや無い。フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガルなど、皆同じ穴の狢だ。今回の挙行は、あなた方の過去の行いに実質的な償いを求める物だと捉えてほしい。


 ただ、我々は、あなた方がかつてそうしたように、植民地として支配し、奴隷を得ようとするような下賤な利益を目的としていない。


 我々は、これから起こるだろう世界的な人口増を直視している。短絡的に人口を減らそうとする核戦争や世界大戦は不要だ。だが我々は地球複数個分の資源や食料などが最低でも必要になる。これからたった数十年でそれだけの宇宙開発が可能になる確率は低いだろう。だから、我々は決めた。


 一つ。第二次ロンドン軍縮条約を締結し、いわゆる西側諸国の軍備を全て、核軍備を含めて、廃棄してもらう。繰り返すが、欺瞞と浪費と汚染と枯渇と争乱とを振りまき続けたあなた方に、拒否権は無い。


 一つ。海洋資源の保護。我々の持つ海洋ドローンで、それは実現可能だ。アメリカやヨーロッパその他の国々がそれぞれの沿岸領域を越えて漁業を行おうとした場合、その船は撃沈される。拒否権は無い。


 一つ。農薬や種子ビジネスで、長い歴史をかけて培われてきた農業を各国から奪ってきた企業を滅消せよ。これもあなた方に拒否権は無い。彼らが持っていた債権などを含む全ての権利は滅却され復活される事は無い。我々は、自由と民主主義を掲げてきたあなた方が、なぜあのような巨悪を放置してきたのか、非常に理解に苦しむ。


 一つ。力ずくでどうにかならなければ、あなた方は資本や金融の力で人々の意志や力をねじ曲げあるいは押し潰し、自分達の意志を押し通し世界を構築してきた。それは終わりを告げる。もしそういった行為を再び試みた場合、あなた達は即座にその報いを受けるだろう。


 白き人々よ。あなた方は人類の英知と善意とを司り、人類を導いてきたという自覚で満ちあふれていただろう。その虚慢の歴史は今日をもって終わりを告げる。

 我々が告げたような事項を拒絶する国々は当然、発生するだろう。だが、考えて欲しい。あなた方のどの国が、アジアや中東やアフリカや南米他の資源などを抜きに経済を成り立たせられるのだろうか?スエズ運河もパナマ運河も、あなた達の手中には無いのに。

 あなた方の原油の備蓄が切れるまでの日数が、最終回答までの期限となるだろう。


 そして最後に、アメリカ合衆国に対して警告しておく。

 我々はあなた方の国に侵攻し征服する意図は持ち合わせていない。あなた方から核ミサイルを撃ち込まれない限り、我々からあなた方へと核ミサイルを撃ち込む事が無いのも、これまで繰り返し伝えている通りだ。

 アメリカと中国の二国だけでも、世界経済の何割かを占める。我々が協調し協力できる余地は存在する。

 すでにあなた方は世界の警察として失敗し続けていた。イラクは、あなた達の虚偽の断罪で滅ぼされた。アフガンでもシリアでも、目的を達せないまま撤退を余儀なくされた。

 そして今、白人至上主義を隠そうともしない人々がアメリカ国民の約半数を占めている。だから我々は、それらの人々に敵対する勢力を支援する準備がある。

 世界中の有色人種を蔑視し、暴力による支配欲を隠そうともしない連中を打破し、あなた方が掲げていた筈の、誰もが平等な基本的人権を持つ社会を取り戻して欲しい。これは中国だけではない。インドや、その他我々に協力する国々からも賛同を得ている共通意志である。


 我々も、アメリカ合衆国本土に対して手荒な手段を取りたいとは思っていない。何か一つ間違えば、核戦争を生じてしまうからだ。

 だからといって、我々が欧州諸国に対して求めた事項の全ては、あなた方にも要求されていて、逃れる術が無いのは同じだ。

 あなた方はその気になれば、世界中の多くの人口を道連れに滅ぶ事も可能だろう。だが、少なくとも半分近くのアメリカ人は、そんな愚かな選択肢を選ばないと、我々は信じている。

 我々が言う義理は無いのだろうが、あなた方があなた方の信じた民主主義を取り戻す事を期待している。


 今夜の発表は以上だ。

 英国政府は、あと11時間30分以内に回答するように。検討中といった時間稼ぎを一度する毎に、最終期限が一時間以上失われるとも告げておこう。


 それでは、メリー・クリスマス」


 中国側の発表が終わるのと同時に、ドロシー・ペロス大統領代行から緊急首脳会議の召集依頼が入り、承諾。アレックスにも連絡して彼のボスを捕まえてもらい、国防長官と副長官達もあちらから会議招集を送ってくれていたので、その会議に、計四人で参加した。


 その最高機密会議には、オブザーバーとして、前国防長官も参加していた。現国防長官の要望らしかったので、FDA側としては不問とした。ソランプもアレックスも構わないらしい。


「で、どうすんだよ?要求受け入れるしか無いのか?交渉の余地なんて無ぇんだろ?」

 ソランプのおっさんは、いつも通りだった。

 ドロシーは、なるべく平静を装って、指折り、現実的なオプションを並べた。

「最初の一つは、交渉のテーブルを蹴って、すぐに核ミサイルのボタンを押す事。今の世の中は少なくとも地球規模で終わるでしょうけどね」

「却下だ。俺も死ぬじゃねぇか」

「私だって死にたくはないわ。でもあなたの支持者達なら、これまでだって5割を余裕で上回ってたのが、8割くらいに達するんじゃないの?第三次世界大戦を開戦しろっての」

「殴って倒せる相手なら、俺だってそうするわ。だけどな、あれは、今の中国は、違うだろ。ほとんど世界中だぞ」

「おおよそ同感ね。さて、核戦争を望まないのなら、残りはおよそ二つくらいしか選択肢は無いわ」

「もったいぶるな。とっとと言えよ」

「・・・単純よ。開戦して抵抗するか、それとも降伏して従うか。どちらがマシ?」

「開戦して抵抗したい。でもよ。ヨーロッパが抑えられちまったら、後は身近なメキシコとカナダくらいしか味方はいないんじゃねぇのか?」

「メキシコは誰かさんのせいでアメリカの味方なんてしたくも無いでしょうしね。カナダも、海外資源がいっさい手に入らなくなるなら、折れてしまう可能性もあるわ」

「連中が言ってた、もう一個のオプションについては?」とアレックスが尋ねた。

「論外、と言いたいところだけど、私たちの支持者の間では、それなりに支持を得てしまったでしょうね。それでアメリカ合衆国を再び一つに戻せるんだから」

「返事を引き延ばせば引き延ばすほど原油などの資源はより早く枯渇していき、経済への被害なども甚大になるでしょうね」と自分も発言しておいた。


 各自がじっと考え込み、アレックスが発言した。

「ソランプの旦那。アメリカにとっては中国とその連合国に対し戦いを挑むなら、その前に最低でも、アメリカは一つに戻ってないと話にならない」

「・・・まぁ、そりゃそうだろうな」

「で、だ。中国はWSRを世界の敵として名指しした。俺らを倒せばアメリカは一つに戻る。世界の敵(ラスボス)として倒される未来は回避できるって、FDA支持者達には、特に有色人達には認識されただろう。ここまではいいかい?」

「うむ・・・」

「だが、74M、特にアポカリプスの日みたいな破滅志向の連中は、アメリカが滅びようが世界中に核ミサイルが降り注ごうが構いやしない。それこそが望ましい未来なんだから。だから、これは、旦那が世界のヒーローになる場面だと思うぜ?」

「俺が?スケープゴートになれって言うんじゃねぇだろうな?」

「違う違う。そんな役割頼んだって引き受けないだろうが。だが、断ったってこの役割ができるのはあんただけで、断り続ければ中国の支援を受けたColored Armyとかに押されて、WSRは滅ぼされて、FDAの白人勢力もだいぶ削られるだろうな」


 ドロシーの様子を見ると、気色ばんで言い返すでもなく、青ざめていた。充分あり得る未来だと理解しているのだろう。


「で、俺にどんな道化を演じろってんだ、アレックス?」

「道化じゃなくて、ヒーローですよ。先ずはあんたが、アメリカ内戦の終結を呼びかけ、74Mを最寄りの州軍や米軍基地に対し武装解除させる。その実績をもって、ドロシー、あなたと連名で、第48代アメリカ大統領を選出する選挙を実施する」

「俺と、ドロシーとでか?」

「いいや。ドロシーは大統領代行として、選挙が公正に行われるかの選挙管理の方に集中して欲しい。だから、ソランプの対立候補として出馬するのは、君だよ、ウェイン」


 まさか、ここで自分の名前が出てくるとは思わなかったので驚いた。


「何の冗談だ、アレックス?アジア系議員ならFDA内部に何人でもいる。議員ですらない俺では有権者は納得すまい」

「ソランプの旦那だって議員経験なんて無かったけど、大統領を4年勤めたぜ。心配すんな」

「それでも、FDA内部をウェインで調整するのは無理があるわ」

「いいえ、ドロシー。そこは我々が指名すれば済む事ですよ。ウェイン以外のFDA関係者は、中国に買収されている可能性が否めないと」

「無理があるだろ。そっちの支持者だって納得しないんじゃないのか?」

「バカだな。アジア系の相手をソランプの旦那がやっつけるっていう構図がいいんじゃないか」

「でもそれでそちらが勝ってしまったら、結局中国はWSR勢力をどうにか倒そうとするんじゃないのか?」

「選挙だからな。公正にやろうとするなら、それなりに均衡して、こちらが勝つ可能性だってある。だが、勝った方は負けた方を副大統領にすりゃいい。それと上下院の選挙も同時にやりゃいい。そしたら、少なくとも選挙期間中はそっちに夢中になる連中は増えるだろうさ」

「選挙を実力で妨害しようとする連中も出るんじゃないのか?」

「そこは州軍も含めた米軍に警備を万全にしてもらうしかないだろうな」


 ここまで沈黙を守っていたアンガスが発言した。


「つまり、内戦状態を収束させる大統領選挙を行う事で、時間を稼いでくれるって事か?本当なら、6ヶ月から一年は欲しいんだけどな」

「予備選からじっくりやるんなら、それくらいかけられたろうけど、一発勝負だ。どれだけもったいぶっても3ヶ月が限度だろう。EU諸国からも離脱する国が出始めてしまったら、もう完全な手遅れになる。アメリカ一国がまとまれたとしても、もう中華連合に立ち向かえなくなる」

「OK。各種コンセプトを定めるまで一ヶ月。製造と試験に一ヶ月。量産に一ヶ月以上。これまで開発を進めてきた分もあるからゼロからのスタートじゃない。

 中国も対策される事を読んではいるだろう。ドローンのSwarm戦は質もあるけど量の勝負でもある。資源量はもう天と地の差がついてしまったけど、ま、でも何とかしてみるさ。ITの素地と知の集積という見地なら、こちらに数十年のアドバンテージがまだ残っているから」


 新国防副長官(海軍のパイロットからのたたき上げの女性)と元国防長官も、選挙プロセスを含め、その期間の国内治安保全に全面的に協力を約束してくれた。

 話がまとまり始めたところで、ドロシーの携帯に着信があった。外務省からで、英国政府からの緊急救援依頼だという。

 ドロシーがWeb会議画面から離れたところで、アレックスに個別チャットで問いかけた。


「どうして俺なんだ?」

「君が特別だからだよ、ウェイン」

「どう?」

「君はとっくの昔から中国に声をかけられてた。だけど断り続けてる。だろ?」

「・・・知ってたのか?」

「だから信頼してるんだよ。君は特別なブランド物だしね」

「・・・」

「君の曾祖父は、日本軍とも戦った、毛沢東の戦友だった。アメリカともだけどね。中国共産党内部の方針の分裂で、アメリカへの移住を決めた。どんな民主党議員だって、君の来歴には適わないんだよ。中国共産党にとって、君という存在は、格別なんだ」

「理解してはいるが、だからこそ、俺がアメリカ合衆国大統領なんてあり得ないだろ?」

「いいや。中国共産党のラブコールをはねつけ続けてるという事実を公表すればいい。それは連中にとっても、信頼し得る相手だという評価を高めるだろうさ」

「逆じゃないのか?」

「いいや。彼らの立場になって考えてみればいい。彼らにとって必要なのは、言いつけ通りに動く操り人形かも知れない。でもそれより必要とされてるのは、アメリカをまとめて、核戦争を起こさないリーダーなんだよ」

「だから、両頭制みたいな感じにするのか」

「そういう事だ。だからさ」


 アレックスはいたずらっぽい表情を浮かべると、小声で囁いた。


 全部うまくいったら、俺をお前の好きにしていいぞ?


 一瞬で脳内が沸騰したのがわかった。

 くすくすと笑いながらアレックスが個別チャットから退席した。

 奴をにらみつけていると、音声は聞こえてなかったソランプが怪訝な顔をして俺達に言った。


「お前ら、仲良いな」

「ええ。ウェインは、ぼくにとって特別ですから」


 自分は適切な言葉を見つけられなかったので、顔をそらして黙り込んだ。

 ドロシーが戻ってきた事で、会議は再開され、アメリカの今後にとって重要な事がいくつも決められていった。

 でもその半分くらいは、自分の脳内をほぼ素通りしていった。

 解散となった時、ソランプが真っ先にいなくなり、アレックスはウィンクしてからいなくなった。


 頭がくらりとした。ドロシーにいぶかられたりもしたけど、FDA内の調整にすぐかかりきる事になり、頭を必死に切り替えた。


 俺がアメリカ大統領戦に出馬するってだけで猿を太陽系外の居住可能な惑星探査に送り出すくらいの暴挙だというのもヒドい頭痛の元になったが、アレックスと、アレックスを・・・、という想像が何度も脳裏にちらついて、その度に頭を振って妄想を振り払おうとした。その度にドロシーに心配されたけど、仕方なかった。


 気付かれないように振る舞ってきた筈だったのに。誰にも気付かれないでいた筈なのに。秘めていた気持ちを、当人に気付かれていたなんて・・・。


 結局、Web会議は、外務省や国防総省やCIAなどの幹部達とのセッションなどメンバーを入れ替えながら、夜通し続いた。


 イギリスは、緊急の議会を開き、ぎりぎりまで粘ろうとした。自ら離脱したEUにももちろん助けを求めた。だが、今や世界の大半を勢力下においた中華連合に真っ向から立ち向かうのはどの国にも厳しかった。

 さらにイギリス議会は、中国に問い合わせた。イギリス王室の扱いはどうなるのかと?中国は即答した。高齢のイギリス女王は、そのまま母国で没することを許されるが、当然租借地内で監視保護下に置かれると。さらに彼女の後継者たる王族達は北京で国賓扱いの捕虜として保護されると。これは核戦争回避の為の策として、他にも王族や貴族階級を持つ欧州諸国に同様に要求されるとも説明された。


 イギリス議会と軍、諜報機関、王室が限界まで折衝を続け、設けられた12時間の期限の5分前に、エリザベス女王自らが中華連合からの勧告を受け入れる事を発表した。ただし、第二次ロンドン条約による軍縮については、イギリス他民主主義国家がその体制を維持される事を最低限の条件に付けた。


 中国は、英国や欧州の王族や貴族や要人の一部は、インドやロシア、中東やアフリカなどにも分散して保護対象となり、核戦争抑止の為の人柱となると返答した。その条件が受け入れられた場合、イギリスやアメリカその他欧州諸国が軍事的手段で中国とその友邦に立ち向かおうとしない限り害される事は無く、当面、現在の国家体制も自治という形で許容されるとも発表された。


 ただし、ロンドン市の扱いは即日で中国とインドの租借地として召し上げられた。中国が、ロンドン中心のシティ・オブ・ロンドン、つまりロンドンの金融街の中心を。インドがそれ以外のロンドン市全域を租借する事が発表され、イギリスに拠点を置く金融企業の全てが、中国の監視下に置かれた。具体的には、通信の自由が奪われた。全ての通信は物理的に監視や遮断が可能な状態に置かれてしまった。これは対ロシアなどの意味合いでも、ほぼ完全敗北を意味した。


 当日中に現地に現れた中国高官や技術官僚などは百名に満たなかったが、これから三ヶ月以内に租借地としての体制が確立されていくとも発表され、ロンドンに本社機能を持っていた企業は、その資本を含め移転が禁じられた。もし人員が一人でも逃れようとすれば、世界中からの制裁が降り注ぐ事になるだろうと警告が下された。


 この日は、いわゆる白人達にとって、歴史上最悪の(ワースト)クリスマスとして記録され記憶される事になったのだった。


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