17.2024/12/7 左大臣峰岸典子の場合
2024/12/7
峰岸典子
一周年当日は摂政が。二周年当日は右大臣が。三周年当日には、左大臣である自分、峰岸典子が、記念のスピーチをする事になった。
とはいえ、ほとんど連絡事項を伝えるだけだ。
予定通りに終えた後、皇居へと移動。皇太子ならぬ皇太女となった愛子からの面会希望を受けていたから。希望はずっと前に受理していたが、その回答が今日の発表待ちなところがあったので、会合日時を引き延ばしていた。
旧国会議事堂や皇居周辺は一般人の立ち入り禁止区域となっているので、人通りの無い通りを装甲車でさくっと移動。護衛の車と共に門を通り、面会用の建物の個室へ。
現天皇や上皇も同席を願ったらしいけど、愛子自身の希望で断っていた事からも、今日の相談内容がある程度透けて見える。なぜ自分を相談相手に選んだのかという理由を含めて。
「お久しぶりです、愛子様」
一応敬称は付けて呼んでいる。その方が気楽だからだ。
「お呼び立てしてすみません。左大臣殿」
「峰岸でも典子でもいいですよ」
「じゃあ、峰岸さんで」
「どうぞお好きに」
宮中に仕える侍女兼護衛達が、茶や茶菓子などをセットして室外へと退出した。
「発表、お疲れさまでした」
労いの言葉には、微笑と言葉で返した。
「ありがとうございます。何か、特に興味を引く事項はありましたか?」
「はい。一番のは、後回しにさせて頂いて、他のだと、8.14以降の国際情勢の変化が、大きいかなって」
「そうですね。先月国連内の調整も終わり、インドが6番目の安保理常任理事国となりましたが、それは端緒に過ぎませんでした」
「中国、ロシア、インドの後押しを受けて、エジプト、ヨルダン、レバノン、パレスチナ、シリア、トルコが氾アラブ連盟(Pan-Arabism Union。略称PAU)を結成。イラク、サウジアラビア、カタール、オマーン、イエメンや他にも北アフリカのいくつかの国々も参加を表明して共同軍を設立。そして・・・」
「イスラエルに宣戦布告。おそらく中国製小型ドローンのスウォーム(swarm:群隊)でイスラエル軍の航空・地上戦力の大半は戦わずして無力化されてしまい、実質24時間もかからずにイスラエル軍は戦闘能力を喪失。
翌日からPAU軍がイスラエル領内に進駐し、全土を一週間でほぼ無血占領。核兵器を使わせずに終わらせました」
「ニュースでもやってたけど、これでまた多大な恩を中東諸国に売った中国は、実質的にスエズ運河というか、中東産の石油資源のほぼ全てを差配する権利を得たとか」
「クゥエートもイラクの再侵攻を受けて併合されましたからね。PAU軍と言うべきでしょうが」
「アメリカもEUも超激怒してるけど・・・」
「8.14の敗戦から三ヶ月足らずですからね。実力行使は無理です。中立的保護国として中国とインド、ロシア、非イスラムのアフリカ諸国がユダヤ人達を隔離施設に保護。彼らが希望し、先方が受け入れを許可すれば、彼らをイスラエルから安全に他国へ移送すると」
「それ、国外退去処分じゃないの?」
「希望するなら、PAU領内に留まれるそうです。ただし、エルサレムや、最近まで成立していたイスラエル領内は除外されますが」
「また、宗教戦争が起きるの?十字軍みたいな」
「そこは、イスラムでもユダヤでもない軍隊が共同管理する保護区域を設定する事で、欧州やアメリカその他のキリスト教徒が訪れる事は許容されるそうですけどね。
それで、なぜこのお話を?」
「中国って、どこまで宗教に介入してくるの?」
「それは、神国日本に対しても同様に介入してくる事をご心配されているのですか?」
「まぁ、ね。神国日本って、とっくに、中国を後ろ盾にしているんでしょ?」
じっと見つめられて、私は思った。愚昧な存在ではないのだろうなと。
とはいえ、全部は話せないのだ。どこまで話したものか。
しばし考えた後に、こう返してみた。
「心配される事はありませんよ。我々は介入されない為にも、いずれ鎖国すると公言しているのですし」
「でも、実力行使されたら?」
「防ぐ事はむずかしいでしょうね。けれど、例えば分散していた方が都合が良かった筈なのにPAUの成立に手を貸すとか、彼らの宗教に介入するような愚は犯さないでしょう。我々への介入も、その必要性を感じさせなければ良いのです。それだけですよ。彼らも無駄を嫌いますからね」
ここで愛子様は、いったんため息をついてから、直球で尋ねてきた。
「あのね。国民投票前に、私が辞退したい、って公表するのは、無しなの?」
これが、上皇や現天皇の同席を拒絶した理由だったのだろうなと得心がいった。
「あなたは、天皇制の継続を拒否したいのですか?」
「それが、あなた達の利益とか目的にも添うんじゃないの?」
「これまでの我々の言動を連ねれば、そう結論付けられるのは正しいでしょうね。しかし我々としては、どちらでも構わないと言えば構わないのですよ」
「どうして?続かない方が都合が良いんじゃないの?」
「我々には、意図的に皇室を潰すつもりが無いからですよ」
「自分達の手にかけたくないって事?」
「12.7でも申し上げた通り、皇室が尊ぶべき血筋の末裔であるのは確かですから」
「・・・でもさ、その尊ぶべき血筋って、普通の人のいう皇統のを意味してないよね。あなた達にとっては」
そこまでは、察せられて当然か。
「あなたが知る事は無いでしょう。知らせるつもりもありませんので」
「教えてくれなければ辞退するって言っても?」
「それはどちらでも構いません。すでに秋篠宮家の長女は、母親の無理心中に巻き込まれて死去。次女は一命をとりとめたものの正気を失ってしまっている状態。現天皇が亡くなった時、国民が天皇制維持を選択していてもあなたが皇位を固辞されるのであれば、そこでやはり天皇制は終わるでしょう」
「あなた達はそれを待っているんじゃないの?」
「繰り返しお伝えしている筈ですよ。無理矢理終わらせるつもりは無いと」
愛子様が口をつぐんで何かを言うのをためらっているように見えたので、私も直球で訊いてみた。
「あなたが訊きたいのは、あなたが自由の身になれるかどうか、では?」
「・・・無理、なんでしょ?」
「はい」
「即答か・・・」
「残念ながら。あなたが皇位を継ぎたくないと公表し、天皇制が廃止された後の世の中に放たれたと仮定しましょう。即座に誘拐され、無理矢理にでも皇位を継承したと発表され、少なくとも数十万から数百万人単位の人々があなたを次の日本の国主として担ぎ上げるでしょう」
「でも、そんな事言ったら、例えば私じゃなくても、明治天皇や昭和天皇の親類なんて、それなりにいるでしょ?」
「皇籍からはすでに外されていますし、担がれるのなら、とっくに担がれていてもおかしくありません。彼らがもし担がれるとしたら、あなたが死ぬか殺されるかした後でしょう」
「はぁ。私が自由になる道は、無い?」
「でしょうね」
「結婚も、強制?」
「天皇制が継続となった場合は、特にそうでしょうね」
「子供も産めって事だよね。好きでもない相手と」
「ご愁傷様です」
「ずるい・・・」
「立場とは、そういうものですよ」
「あなただって、結婚してないんでしょう?」
「私にも、私なりの立場というものがありますので。その都合と、私の気が向かなかっただけの事です」
「でも、忠臣組の神国日本なら」
「その例外の為の特級組員という立場の中の、さらに最上位に近い立場なのですよ。本当なら、こんな雑事に関わりたくなど無かったのですがね。あまりにも、傀儡達が愚かすぎたので」
「クグツ?」
「わからないならそれで構いません。それで、なぜ自由をお求めに?」
「自由になった事が無いから?」
「12.7以前でも、あなたに自由など認められていなかったでしょうに」
「でも、今なら、天皇制が国民投票で否定されたのなら・・・」
「誰か、好きな人と結婚できるかも、と?」
愛子様はうなずいた。宮内庁職員の話では、まだ浮いた話は無かった筈だ。とすると・・・。なるほど、これはさらに父親や祖父達には聞かせられない話だ。
「秋篠宮の長女が詐欺親子にひっかかって、結局破談になった話は忘れていないでしょう?」
「忘れてないけど、でもさ、例えば、ほんとーに例えばの話なんだけど、日本人以外とも、結婚、出来たりするかな?」
「12.7以前でしたら、絶対に不可能でしたでしょうね。12.7以降でも、例え先方の男性があなたとの結婚に同意してくれたとしても、彼はほぼ一生を囚われの身になって過ごす事になりますよ?あなたは、あなたの想い人をそんな境遇に落としたいのですか?」
「彼は、そのまま、自由という訳には」
「いきません。先ほどの話と同じです。皇配となった男性を、もし忠臣組が野に放って自由にさせようとしたとしても、皇室をどうにか自分達の思い通りにしたい者達が放っておく筈がありません。あなたが目に留めるような国際的な有名人ならなおさら、他国の政府も何らかの外交的手段に使おうとするでしょうね」
「・・・・もしかして、いや、でもそうか。監視してるもんね」
「ええ。あなたがどんなコンテンツをインターネット上でご覧になられているのか。どんな特定の誰かに特別の関心を払われているかは、把握しております。それで、どの程度本気なのですか?」
「まぁ、無理だろうなってのは、わかってるよ。どうせ忠臣組から何人か引き合わされて、その中から選ばされる未来しか思い浮かばないよ。以前は皇室会議ってのが似たような事してたしね」
「その人にせめて想いを告げられねば、喉を突いて死ぬくらいの覚悟は?」
「いや、それどんな地雷女?」
「でも、想いは告げられたいのでしょう?どれだけ可能性が無いとしても?」
「そうできたらいいな、って思ってる。相手にしてみたら、単なる勘違い一ファンからの気狂いな妄想願望だろうけどさ」
「気狂い、上等ではありませんか。恋など、それ以外の何者でもありません。愛子さん、飯豊青皇女、あるいは飯豊天皇はご存知で?」
「もちろん。あの人くらいじゃないのかな。天皇になったかもって女性で、自由恋愛っていうか、自分を好きに出来た人は」
「彼女の様に振る舞ってみたいと?」
「もし、可能なら。そのただ一度が、許されるのなら」
私は、考えてみた。
世間一般ならともかく、忠臣組の中枢部であれば、おそらく問題は無いと判断される。本来あり得ない事が通るような千載一遇な状況でもある。
「本当に尊ぶべき血筋の方々も、全て、選ばれるべき方はご自身で選ばれていたのですよ。そうやって、本来の血筋は保たれてきました。数千年前から、延々と」
「えっと、それは皇室の話じゃないよね?」
「ええ。それでは、いくつか回りくどい話をしますが、よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「まず、あなたは日本が近代化する課程の中で、朝鮮や中国や他の国々を虐げた事を、正当化するお心はお持ちですか?」
一瞬、反射的に答えようとして、しばし考えてから、決心したように断定的な答えを返してきた。
「無いよ。そんなもの」
「それでは、皇居前に、いわゆる慰安婦像が設置された事については?」
「・・・それ、すごい事したよね。まさか神国日本が、忠臣組が自ら設置するとか、誰も想像してなかったでしょ。相当批判されたし、撤去とか破壊とかしようとしたのも大勢いたでしょう」
「人質となった人々への代償を支払う確約を得る時の交換条件の一つだったのですよ、正確には。まさかこちらが受け入れる筈が無いと」
「まぁ、普通は、そう想像するよね」
「こちらは、ある程度地均ししてから設置すると回答し、それで納得して頂きました」
「よく納得してくれたね」
「5年以内に設置しなければ、北朝鮮から核ミサイルを撃ち込まれても文句を言わず、その時点で残っている人質も全員無償で返還するとまで条件を付けましたからね」
「もしかして、あの公開処刑とか、ネトウヨとかをさんざん狩ってたりしたのも、その地均しとかいうのだったの?」
「国家運営に邪魔でしかない存在でしたからね。神国日本成立二年後に設置した時には、ひっそりとですが、摂政と右大臣と私と、韓国大使と北朝鮮の特使とで、式典を行いました。あなたのお爺さまとお父様も車内からですが、参列されました」
「・・・知らなかった」
「設置時に、特殊なガラスで覆いました。銃弾や爆発物に耐えられるようにと。護衛も数人常時起きましたが、未だに馬鹿者達がかかりますよ。どれも即時射殺されています。あの一カ所だけで累計で数百人は死んでます」
「ゴキブリホイホイみたいだね。ものすごく効率的な」
「良くご存知ですね」
「降嫁する可能性が無かった訳じゃないからね」
「それで、お答えは?」
「うん、すごいと思うよ。12.7以前なら、与党政治家とか、あいつらの大半が加入してた会議の連中なら絶対に死んででも阻止してたろうし、何があろうと許可する筈が無かったけど、そうか、だから・・・」
「ええ、だから、可能性はあります。目に見える形の誠意というのは、ちゃんと、相手に届くものなのですよ」
「でも、届けていいものなのかな。ただの迷惑じゃないかな?」
「8.14以前でしたら、たぶん、無理でしたでしょう。しかし、今なら、ゼロ以上の可能性はあります」
「8.14がどう関係あるの?」
「まだ非公開の情報ですが、韓国と北朝鮮はまとまります。このままでは、個々に中国に取り込まれるだけだと」
「え?!でも、韓国には米軍が」
「米軍にとっても、在韓米軍は、中国に対する貴重な基地兵力です。北朝鮮の核が自分達ではなく、韓国でもなく、中国側に向くのであれば、利の方がかなり大きくなります。
8.14は、米国の余裕を少なくとも二十年分くらいははぎ取りましたからね。イスラエルが一週間で占領された事も大きな衝撃でした。彼らはもうなりふり構ってられる状況では無くなったのです」
「核ミサイルのボタンに手をかけ続けるって公言してて、やられたしね・・・」
「ソランプ元大統領は支持者達の突き上げを食らって毎日苦慮しているようですがね。中国も、自らの絶対的なリードがおそらく1ー2年しか保たない事を理解しているので、急いているのでしょう。だからこそ、韓国や北朝鮮も急いでいるのです」
「えーと、だから、何が、可能になるの?」
「同盟ですよ」
「えっ!?でも、神国日本て、鎖国するんじゃ?」
「そうですね。しかし、縁をつないでおく事は無意味ではありません。恋文、今、お持ちなのでしょう?」
「ええと、うん。持ってきてる、けど」
「韓国語は添えられてますか?」
「ネットの自動翻訳レベルのなら・・・」
「お預かりして、内容を改めさせて頂きます。我々に不都合な事はおそらく書かれてないとは思いますが、ちゃんとネイティブにも見てもらって、添削してもらった内容を、あなたが直筆で書き直して、日本語の手紙と一緒に先方に送ってみましょう。返事が来るかどうか、あなたが望んでいるような内容の物になるか、それ以上の事が起こり得るのか、私にも、わかりかねます。ただ、先方にそれが届くところまでは確約しましょう」
「そう、だね。そこまでしてもらえるのなら、私も、あきらめられるかな」
「返事も来ない内からあきらめないように。ちゃんと生きて、その日を心待ちにしていて下さい。そうでないと、仲介する方も張り合いが無いというものです」
「でも、さ。本当に夢の様なお話が現実になるかもってなったら、忠臣組は、邪魔しないの?」
「する理由がありませんよ。男の相手など、あなたがそう望む相手なのであれば、ほぼ誰でも構わないのですから」
「でも、韓国の人なんだよ?」
「何の問題もありません。あなたの祖父が何度も言っている通り、皇室には百済の血も入っていますから。と言うよりも・・・」
「と言うよりも、何?」
「愛子さんは、記紀は読まれました?」
「一応は。身の上に一番関係ある書物だし」
「中国史書も読んでおく事ですね。韓国の方に関わろうとするのであれば、三国史記も」
「わかった。どうせ何ヶ月もかかるだろうし、読んでみておくよ。でも、中国史書の方はどうして?」
「あなたにも、全ての日本人にも関わりがある事だからですよ」
「へ?」
「・・・今回の交換条件というわけではありませんが、秘密は守れますか?」
「は、はいっ!絶対に守ります」
「本当に尊ぶべき方々の祖は、中国から渡ってきたのですよ」
「へっ!?」
「倭は、今の日本には無かったのですよ」
「っ!!!???」
「史書を読み込んでみる事です。答えは史実の中に記されていますから。ただ、あなたがその答えを公的に語る事はお勧めしませんが。
さて、長居してしまいましたね。諸々の手配などがありますので、これで下がらせて頂きます」
「あ、はい。お忙しい中、お時間ありがとうございました」
「いえ。良い気分転換になりましたよ」
半分くらいは嘘では無かった。
私は旧首相官邸、現摂政邸で、その主の親子と会った。というか今日はその孫まで来ていたが。
「ずいぶん話し込んだそうじゃないか?」
「覗き見してたんでしょう?なら報告は要らない?」
「そうはいかない。もうそれなりに遅めの時間だが、夕食はまだだろう?用意してある」
私は愛子の手紙を彼らに渡し、夕食を摂る間に受け答えの大半も済ませた。その後、食後酒を嗜みながら、さらに今後について話し合った。
「相手は世界的なスターと言っていいグループの一人だ。願いが叶う可能性は極めて低い、が」
「真摯な対応が返ってくる可能性は低くはないね」
「皇居前にあの像を設置するだけでなく、自国民を犠牲にしてでも守り続けている姿勢は、かなり評価されているそうだから」
「在日の人々をも守り、少数の犠牲が出ていない訳ではないが、どんな報復行為をしたのかも報告しているからな」
「あの像を設置した事は大々的に宣伝はしていないし、報道各社にも慎むよう伝えてはいるが、それなりに情報は広まっているから。日本人の間では、特にそういう連中の間では総スカンを食っているけどね」
「8.14を見て、それでもまだまともに中国に立ち向かえとか言ってくる連中の戯言など、相手をする必要などない」
「天皇制継続の国民投票も、参考にされるのは、一般組員までだからね」
「投票は、未成年でも可能とした。が、有効票として数えられるのは、あくまでも一般組員以上のみだ」
「結果がどちらになっても構わないように準備しているのは、私も関わってるから知っているけれど、この件、公表はしないわよね?」
「もちろん。まぁもし万が一、事が成って、結果も伴い、両者が公表を望むのなら、そうなるかも知れないが」
「篭の鳥にしたくないのであれば、公表しようとはするまいよ。どちらにとっても、おそらく害を加えられる機会を増すばかりだろう」
「そうでしょうね。それで、統一される北朝鮮と韓国の新国家、真羅からの同盟の申し出には、どう回答されるのです?」
「確たる同盟を結んでしまえば、中国から危険視され、優先順位を上げられてしまう。だから、なだめて落ち着かせ、つなぎを保っておくくらいで良いだろう」
「彼らも、ここ1ー2年が正念場ですからね」
「中東を抑えた事で、8.14直後以上に、欧州もアメリカも、首を締められた格好になった。イスラエルを失い、実質的にスエズ運河の自由航行権を失い、PAU成立でジブラルタル海峡まで将来的に失われる可能性まで出てきた。もう、この流れは止められまい」
「オセロで言うなら、角を三つ取られたような状態だよね」
私は、ふと、ここまでじっと聞き耳を立てているだけで発言はしていない英宏君の意見を聞いてみようと思った。
「英宏君はどう思う?」
「どの事についてですか?」
「愛子様の事とか、どれについてでもいいわ」
「う~ん。ぼくだったら、公表しちゃっていいと思いますけどね。当人達の了解とか、あんまりヒドい結末に終わらなかったらとか、いろいろ条件はあるかも知れませんけど」
「状況次第というのは当然としても、どうして公表した方が良いと思ったの?」
「神国日本の対外的イメージが180度くらい、いやまぁこれまでもネトウヨとかの言葉が通じない類を殺しまくってて、だいぶ当初のイメージからは何か違ってるぞってのは伝わってはいますけど。
望まぬ結婚を強いられてきた皇室の女性、それも近代では初めての女性天皇で、かつ初の女系天皇になる時の相手が、ずっと犬猿の仲だった韓国の男性から選ばれたとか、ものすごく、国民感情を変えるでしょうね。まっとうな夫婦というのは、互いの憲法とか法律が邪魔して無理だとしても、二人の間に子供が産まれて、それが新たな皇統になっていくとか、どんな日本人がお相手に選ばれるよりも、到底比較にならないインパクトが生まれるでしょう。
もちろん、愛子さんも幸せに生きられるでしょうね。そうならなかった時よりも、ずっと」
「それはそうだとして、中国からの介入はどう考えるの?」
「支配すべき対象だとしても、真羅も神国日本も、最後くらいですよ。どっちも全く警戒に値しないから。警戒されるべき相手にならない間は、ずっと平和でいられますよ。介入は、そうですね。愛子さんの子供の相手に、中国の誰かを勧めてくるとかはあるかもですね」
「まぁ、もし本当にあったとしても、子供ではなく孫とかその先とか、お互いにそう望む間柄になれたら、というのが前提条件にはなるだろうがな」
「そうだね。お爺ちゃん。だからね。最初から、そういう実績を作っていけたら、後に続く女性天皇も、好きな相手を選べるようになっていくんじゃないのかな?」
「同盟を結ぶかどうかはさておき、互いの国民感情を劇的に変化させる起爆剤にはなりそうだね。もっとも、ちゃんと保護しないといけないけど」
「そこは、お父さん達の仕事だと思うよ。内務省含め各省庁は基本的に右大臣の管轄、大連や連は基本的に左大臣の管轄。忠臣組は摂政の直轄なんだし、みんな、大変だと思うけどがんばってね!」
「お前がそう他人事だと振る舞えるのも、あと3年くらいだけどな」
「えー。普通に学生生活とか楽しみたいと思ってたんだけどな~。理恵とも、普通にデートしたいのに」
「無理だな」
「無理だろうね」
「無理ね」
「みんなしてヒドい!子供のささやかな願いを何だって踏みにじるの?!」
「いや、愛子様とそのお相手が日本国内でデートしようとするのと、同程度以上に危険じゃと思うぞ?」
「ぼくも同意見だよ、英宏」
「どうしてもと言うなら、テーマパークとかを借り切るくらいの勢いは必要でしょうね」
「そんな大げさでなくていいのに。普通に映画館とかゲームセンター行ってファーストフード店でだべるとか、そういうのやりたいのに」
「コロナが蔓延してる今だとむずかしいじゃろうな」
「いや、マスクしてるのが普通なら、後はカツラとかめがねでだいぶ誤魔化せるんじゃない?」
「そっか!典子さん天才!?」
「いや、そのくらいの変装考えなかったの?」
「どっちにしろ出かけて感染するリスクのが怖かったりしたからね」
「まぁねぇ。変異株の増加ペースも落ち着いてきたし、だんだんとだけど新規感染者や死者のペースの伸びも鈍化してきたから、ずっとは続かない、筈」
「そうだね。ここまで我慢してきたんだから、羽目を外して感染して重症化とか一生の後遺症とか、馬鹿らしいだろ」
「理屈ではそうわかるんだけどね・・・」
「ま、とにかく、天皇制継続するかどうかの国民投票は、4ヶ月先に迫ってきたし」
「2ヶ月くらい前からすると、組員の間でははっきりと、廃止の方が増えてきたな」
「それでも、有効票を投じる為だけに一般組員として申し込んで来てる人たちがだいぶ増えたから、均衡してるくらいだけどね」
「メディアの世論調査では、社会全体だと7-3から6-4くらいで継続が優勢だからね」
「国民の間で、七割五分未満くらいまでで伸び悩んでた一般組員の数と一割くらいの準組員の割合が、八割五分と五分くらいにまで変わったからな」
「残り一割の内、五分くらいが政治犯とかを含めた奴隷だから、実質的な非組員の人口比率は五分程度にまで減った」
「別に十割を組員にする必要は無いし、そのつもりも無い」
「とはいえ、もしも、愛子さんの望まれる相手が、最低限の条件として、彼女の拘束を解く事や、日本国内で行われている一般的には"虐殺"と呼ばれる行為を無くす事を前提としてきたら、どう対応するつもり?」
「無理、だろうな」
「あの拘束も、安全な皇居内に留まらせる枷でもあり安全対策として機能している。無くなれば、その時とばかりに救出せんとバカどもが押し寄せてもくるだろう。愛子さんのお相手を保護する意味でも、そういった輩を殺すことは避けられない。それ以外の手段ではどうせ止まらないのだから」
「その線で理解を求めるしか無さそうでしょうね」
「もし先方が、あちらでの婚姻を望まれた場合は?」
「迷惑を輸出する形になるし、あちらの反対派に狙われて不幸が起きる可能性が非常に高い。無理だろうな」
「それでも、単なる種馬になって欲しいというのは、相手も断るでしょうし、落としどころを見つけないといけないでしょうね」
「天皇制継続が否定されていれば選択肢は増えるが、さてどうなる事やら」
その後もいくつかの事を話し合ってから、現摂政邸の客室に下がった。
客室付きの浴槽で体を休め、携帯に入っていたいくつかのメールに返信を返し、ベッドに腰を下ろしたタイミングで、電話がかかってきた。
着信時の音楽で相手はわかっていた。
「こんばんは、和奏様。何かお急ぎのご用でも?」
「そんな他人行儀な事は言わないで。先代様」
「お勤めから解放されてた筈なのに、こんな雑事に煩わされる身にもなって頂ければと」
「まぁ、任せすぎにしてきたツケが貯まりすぎたって事で」
「そう仰られると身も蓋もないのですけどね」
「英宏や私の代まで続いてるようなら、もう少し楽に出来るようにお願いね」
「仰せの通りに」
「だから、そんな他人行儀にならないでよ。も~」
「仕方ないでしょうに。それで、本当の用事は?私が今夜相談を受けていた誰かについて?」
「そんな感じ。手紙を先方に渡す際にね。ちょっとした一文というか二文未満くらいを添えて欲しいの」
「それは、手紙の書き手には伝えず、ですか?」
「そうだね。相手がもしも食いついてきて、物事がうまく進みそうになったら、教えてあげてもいいかもね」
現卜部で、実の娘。その関係は忠臣組の中枢部にしか明かされていない。卜部としての実力は、娘と私とでは比べものにならない。だからこそ私はお役を御免された筈だったものを。
私は娘からのメッセージを受け取ったが、暗号の様なそれはそのままでは意味が不明だった。翌日、信頼できる韓国語ネイティブな者に翻訳をしてもらったが、彼女にも意味が取れなかった。
ともあれ、それを皇居に持ち寄ってその場で直筆で認めなおしてもらい、暗号文の様な何かも書き写してもらい、同じ封筒に納めて、さらに翌日に摂政と右大臣にも内容を改めてもらってから、韓国大使に手紙を託した。
差出人についての情報はある程度出さざるを得なかったが、神国日本のトップの一人である私から直接手渡され、それが持ちかけられた同盟の話の行く末にも重く関係してくるものと言われれば、トップシークレット扱いで、即日にでも母国に持ち帰り韓国大統領と対応を検討しますと確約してくれた。
さて、どうなる事やら。




