15.2024/8/14 戦いとは言えない戦いとその後の戦い
2024/8/14
中国時間11時(アメリカ ハワイ時間8/13 17時)
中国共産党
人民解放軍海軍司令部
司令部を構成する数人の中将達が話し合っていた。
「ついに、今日、長き屈辱の歴史に雪辱を果たせる」
「アメリカも欧州諸国も、これ見よがしに過大な戦力を集めた。きっと、勝利を疑っていないのだろう」
「彼らの求める勝利は、政治的に、手に入る筈が無いのに」
「もはや、我々の勝利は動かしようがない。問題は勝つ事ではなく、勝ち過ぎない事。勝ち過ぎて絶望させて、彼らを追いつめ過ぎてはいけない」
「それはおそらく問題あるまい。今回の示威行為に参加させてない艦艇だけでも、今の中国海軍の規模からすれば数倍に当たる。アメリカ一国だけでも、な」
「それでも、今日の損失が生じれば、もう二度と再生産はされまい。もし万が一されるような事があっても、その時は我々の戦力も技術力も今より長程を刻んでいるだろう」
「先ずは、今日の勝利を確定させ、多くを救う事だ。その行為こそが、無意味な核戦争を防ぐ筈」
「彼らに理性が残る事を願うよ」
「まったくだ」
「その意味では、神国日本は賢明な選択をした」
「彼らとは良い関係を続けられそうだ」
「ああ。間違いない」
そうして彼らは最終意志決定を終え、それは中国共産党トップにまで伝えられ、そこでも行動案の最終許可が問題無く下された。失敗を不安視するような声は誰一人からも聞かれなかった。
2024/8/14
アメリカ ハワイ時間0時(中国・台湾時間8/14 18時)
アメリカ太平洋艦隊司令官ショーン・D・アマリーノ大将は、平時はアメリカ第七艦隊司令官を勤めるウィラー・L・マース海軍中将、今はアメリカ・イギリス・フランス・イタリア・カナダ・韓国など十三カ国の海軍が参加するFree Pacific Fleet(太平洋解放艦隊)司令官から、毎日の定時連絡を受けていた。
「そうか。ではシンガポールから北上し南沙諸島付近を遊弋してから台湾南の近海を目指している部隊も、グアムから台湾北の近海を目指している部隊も、それぞれの集結地点までは予定通りに到着できそうなのだな?」
「はい。台湾南には、アメリカ海軍のジェラルド・R・フォードとジョージ・H・W・ブッシュの両空母、イギリスのプリンス・オブ・ウェールズ、フランスのシャルル・ドゴール、イタリアのカブールといった空母を中心とした艦隊50隻が。
台湾北には、アメリカ海軍のセオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン、ニミッツのそれぞれの空母打撃群を中核とした艦隊とカナダや韓国などからの派遣艦隊で50隻が集結予定です」
「ふむ。沖縄にジョージ・ワシントンは結局残したのだね?」
「ええ。本当の万が一に備えて。予備部隊として、本当の有事が起こった時に沖縄から出撃する部隊にも航空支援は必要ですし、沖縄から台湾は近いですからね」
「結構。予定ではあと6時間ほどだったか?」
「その通りです。現在まで滞りなく進んでおり、中国海軍にもこれといった動きはありませんので、示威行為で済むと思われます」
「本当にそれで終われば良いのだがな。結局引き金を引けないという事になれば、ベトナムとフィリピン海軍を見殺しにしてしまった時の二の舞になりかねない」
「それは、参加者全員が痛感しております。またこのような大規模な艦隊を世界中からかき集めるのは大変でしょうしね」
「そう何度も出来る事ではあるまい。それで、中国海軍の動きが無い事に、現地からも不安視する声は出ていないのか?」
「中国本土の台湾沿岸部や台湾の漁師や輸送船業者などを大量に徴発しているというお話は先日お伝えした通りですが、彼らが大挙して海に繰り出してきたとしても我々は彼らを巻き込まないように演習を行うだけですし、それに現在までのところ、彼らが我々の集結予定地点に向けて出港し始めているという情報も入ってきてはおりません」
「そうか。全て杞憂に終われば良いのだが。私は寝る。君も明日からが本番なのだから、早めに休みたまえ」
「はっ!お気遣いありがとうございます」
「何か異変が起きれば、いつでもかまわない。私をたたき起こせ」
「それこそ気遣う余裕も無く何度でもコールさせて頂きますよ」
「そうしろ」
二人の会話が切れた後、ウィラー・L・マース海軍中将は、各国の司令官や自分の同僚達から緊急の連絡などが入っていないか改めてメールボックスを確認してから、太平洋解放艦隊の旗艦となった、アメリカ最新鋭の空母ジェラルド・R・フォードの士官用食堂へと向かった。
2024/8/14
中国・台湾時間23時50分頃(アメリカ ハワイ時間 8/14 5時50分頃)
アメリカ海軍空母セオドア・ルーズベルトを旗艦とする第9空母打撃群に所属するアーレイパーク級駆逐艦ラッセンの舷側で、二人の当直兵が月明かりに照らされた暗い水面を見つめていた。
「台湾から大量の漁船とかが出航したって時は騒ぎになりかけたけど、結局沿岸部に留まっててこっちには近づいてこなかったな」
「まぁ何隻かは50キロくらいまでは近づいたけどな。こっちに気が付いたら逃げ出してくれて良かった」
「いちおう、台湾を解放する為に来てる筈だしな。俺たち」
「そこまで踏み込む予定は今回は無いけどな。あまり中国を刺激し過ぎないよう、揚陸艦はいないわけじゃないくらいしか混ざっていない。本気で台湾を落とす気なら、沖縄戦くらいの準備が必要だろう」
「そりゃそうだ。そこに混じりたいともあまり思えないけど」
「同感だ。沖縄なんて小さな島であれだけ激しい戦闘だったんだ。台湾なんて中国の目と鼻の先にあるとこでなんてな。いくら人が死ぬ事やら」
「核戦争まで起きちまったら、その比じゃなくなるけどよ」
「まったくだ。だから中国さんよ。今回はおとなしくしててくれよ。メンツがかかってるのはお互い様なんだ。少なくともこっちから本気でちょっかい出すつもりは無いんだし」
「向こうは、ありそうなんだよなぁ・・・」
「それが問題だな」
「今回アメリカ海軍だけでも充分なのにわざわざ欧州とかからも引っ張りだしてきたのは、それだけのリスクを相手に負わせる為だってのは誰でもわかる筈なんだけど」
「兵装や兵力的な差異からも、普通に考えたら向こうが手を出してくる筈は無い。そりゃ対艦弾道ミサイルって怖いのがあるのも知ってるが、使えばそれこそ核戦争すれすれまでは確実に行く」
「今第三次世界大戦が始まれば、中国、負けるもんな」
「それがなぁ・・・」
「うちらみたいな下っ端が考えるよーなことは、お偉いさん達が考えて対処してくれると信じよーぜ」
「だな。早いとこ帰って故郷で釣りでもしたいぜ」
「今夜とかも夜釣りに向いてるんじゃないか?」
「さすがに任務中にゃ無理だけどな」
そこで会話していた海兵の片方、ロイが暗い海面の下に目を凝らすと、エイ、それも大きめのイトマキエイの群が見えた。
「イトマキエイの群だ。けっこうでかい群だな」
「良く見えるなお前」
「時々夜釣りやってると慣れるよ。くそ、任務中じゃなきゃ動画撮っておくのに」
「あきらめな。お、俺にもちらっと見えたぞ。ちょっとした反射くらいだけど」
「まぁ直に通り過ぎるだろうし、その頃には当直の交代が来るだろうよ」
海兵の片方、ジャックが腕時計を見て言った。
「残り2分だな。ていうか、何か騒がしくなってないか?」
「・・・群が、いつまでも途切れない・・・。それに、こいつら、この海域に留まってるっていうか、さっきの先頭に見えた連中、その中心って事は、空母に向かっていったのか?」
今では艦隊の全ての艦からサイレンが鳴らされ、サーチライトが海面に向かって投射されていた。
交代の当直兵達もやってきたが、その時には艦底からごつんごつんと何か重い物が当たるような鈍い衝撃が続き、彼らは走りながらもよろめいていた。
「まさか、こいつら」
「ドローンなのか!?」
二人の腕時計が8月15日午前0時を指した瞬間、艦隊の中心にいたセオドア・ルーズベルトの艦底からも、いやどの艦の底からも一斉に数十数百の爆音が吹き上がった。
ロイとジャックは幸運にも舷側のバーに掴まって転落は免れていたが、空母の巨大な艦体は目に見えてじわりと沈み込み、未だ連続する爆発によってその沈下の速度を早めていた。
その10分後。台湾南の近海に集結していたFree Pacific Fleetの半分、指揮官であるウィラー・L・マース海軍中将は、相次ぐ被害報告と、目の前の水平線が傾きながら迫ってくるような錯覚でない感覚に抗いながら、矢継ぎ早に指示を出していた。
「飛ばせるヘリがあれば飛ばしておけ!人は後からでも拾い上げさせろ!周辺友邦諸国にも救難申請を出しておけ!」
被害報告からすると、爆発は同時に起こったようだが、駆逐艦の様な小さな船から沈められていた。海中を見張っている筈の潜水艦も同時に多数のエイに群がられひっつかれ爆発攻撃で沈められていったと報告があった。
司令室のスクリーンに映るまだかろうじて浮かんでいる船の全てが沈みかけていた。イギリスの最新鋭の空母を含め、各国の空母とその随伴艦の全てが。
「原子炉はまだ無事か?」
「緊急停止はさせました」
「あれが吹き飛べば、この海域にいる全員が死ぬ。ガッデム!中国は本気で第三次世界大戦を起こそうとしているのか?!」
「司令官、こんな時になんですが、台湾沿岸部で待機していた漁船などが一斉に、壊滅した南北の太平洋解放艦隊に向かっているとの報告がありました」
「連中は漁民に虐殺でもさせようとしているのか、パウロ艦長?」
「いいえ、一人でも多く救え、すくい上げろ。誰もこれ以上傷つけようとするな。出ている指示はこの三つだけのようです」
「くそっ、連中は俺たちをコケに・・・。違うか。捕虜に、なるしかない流れだな。数万人の捕虜を台湾や中国本土に連れて帰れれば、それだけで中国に報復の核攻撃をする可能性は低くなる。畜生め、連絡士官!手分けして各国の艦隊司令部から母国に伝えさせろ!決して核攻撃はさせるなと!我々は否応なく捕虜にされる。漁民を買収しようとしたり、個別に離脱しようとするなと伝えろ!その方が核戦争は起こらない!」
その後ウィラーはぎりぎりまで艦内に残ってハワイのショーンを通じて分裂したアメリカ合衆国政府に報復の核攻撃を思い留まらせるよう説得を続けた。
2024/8/15
日本時間3時頃(中国・台湾時間2時頃、アメリカ ハワイ時間 8/14 8時頃)
田中理恵
私は、午前1時頃に英宏からスマホにかかってきた電話で叩き起こされ、すぐに中国の速報ニュース番組に見入った。
英宏からすでに起こった事の概要を聞いてから両親も叩き起こし、居間のテレビでCNNやYoutubeにも流れ始めた映像に見入った。
両親は、ありていに言えば愕然としていた。
「まさか、中国の軍事力が米国に追いつくまであと二、三十年かかると思っていたのに・・・」
「これから、どうなるんだろうね・・・」
ニュース番組は、繰り返し伝えていた。アメリカの空母五隻、イギリスとフランスとイタリアそれぞれ空母一隻を合わせた八隻を含んだ、台湾の北と南に展開していた百隻の大艦隊、その名も太平洋解放艦隊が、戦わずして、というより演習を始める前にも、文字通り全滅してしまったと。
テレビ画面は対象海域に群がった中国船籍の漁船などに次々と救助される海兵達の姿を映しながら、コメンテーター達が、第三次世界大戦か、それを飛び越した核戦争の現実味を真剣に論じあっていた。
「理恵は、英宏君に教えてもらって見始めたんだよね?」
「そうだよ」
「彼は、これからどうなるって言ってた?」
「中国は、第三次世界大戦も、核戦争も起こす気は無いって言い切ってた」
「でも、これだけの事をされたら、特にアメリカは黙ってはいないだろう。今すぐにでも核ミサイルを撃てとかいいそうなリーダーもいるし」
「その人は言われてるほど凶人じゃないって。煽るだけ煽るけど、自分の身は決して危険にさらしたがらないから、核戦争には踏み切らないんじゃないかって」
「まぁ、確かに。そう言われればそうかも」
「議会占拠事件の時もそうだったものね」
ニュースでは、漁船などに引き揚げられた海兵達は、貨物船などにも載せ替えられながらいったん台湾に運ばれて、そのまま中国各大都市近郊に用意される特別な収容所に捕虜として滞在するという中国共産党の声明を流していた。
夜を徹したピストン作業で台湾まで運ばれた総勢五万人以上の13カ国の捕虜は、一部の重傷者を除いて、大半が中国各地に分散空輸されていき、中でも各国の高官や要人はまとめて北京に送られ到着したと朝一のニュースで伝えられた。
中国共産党政府報道官は、中国時間13時に重大な発表を行うので、各国ともそれまでは軽率な行動をくれぐれも控えるよう繰り返し伝えていた。
さすがに、リモートでも、学校は休校となった。会社とかも大半が臨時休日にしたらしく、そうでない会社は社員が有給を取ったりして、社会の大半は固唾をのんで中国政府の重大発表を待った。
幸運な事に、それまでの間に、核戦争は始まらなかった。
たぶん、1945年8月15日の日本どころじゃないくらいに、世界中が中国共産党による発表を謹聴した。
彼らは言った。
「我々が今回の捕虜を慎重に迅速に中国各地に送った事からも、我々がこの戦いを憎しみに駆られて始めていない事は明白になっている。我々の側に、第三次世界大戦や核戦争を始める意図は無い。
捕虜を取り戻そうとしたり脱走させるような試みは謹んで欲しい。もし脱走に成功した者が出れば、無関係な捕虜が同数、不幸な結末を辿る事になってしまう。これは、今回捕虜になった兵士達にも重ねて言い聞かせてある。状況が落ち着きさえすれば、限定された環境下で、家族の接見なども許されるだろう。アメリカのグアンタナモ刑務所で行われていたような非道な振る舞いは行われないと、中国共産党の名誉にかけて保証する。
また、すでに一部報道で推測されている通り、今回の戦いで用いられたのは、海洋ドローンを兵器化させたものだ。小型の物でも500キロ、大型の物なら1.5トンの爆薬を相手の船体に付着し、爆発させる事が出来る。その詳細についてはここでは触れない。なぜなら、遅かれ早かれ似たような兵器は開発され普及してしまうからだ。
しかしだからこそ、我々は明言する。あらゆる戦争は、これで死に絶えてしまったと。すでに核戦争という究極の手段で通常の戦争手段も死に絶えてしまったようなものだったが、今回の様なドローンの飽和攻撃を防ぐ方法は無い。単独での遠洋航行さえ可能なのだ。
それが何を意味するか?軍艦に限らず、全ての海洋を行き交う船の安全は根本的に失われた。かつて大西洋などで猛威を振るった潜水艦による通商破壊を完全に上回る。
核兵器もコンピューターもインターネットも西洋社会が先に手にした。我々が手にしたのはほんの一時的なリードに過ぎない。我々自身に対して同じ力が振るわれた時、我々自身も抗し得ない事を我々は理解している。
海上輸送無くして、世界の経済は成り立たない。食料を含めた物資の輸送全てが標的にされたら、世界中が干上がるまでそう大した日数はかからないだろう。
だから、始まってもいない戦争ではあるが、我々は恒久的な停戦、そして終戦を申し出る。
一応、我々が勝者の立場であるから、敗者である国々に要請する。
一つ目。インドを国連安保理の常任理事国に任命する事。
二つ目。アメリカや欧州諸国で蔓延するアジア系排斥運動を本気で取り締まる事。これを取り締まっていない国、例えばアメリカには国連によるPKO派遣を、我々中国政府は提案する。
これら二つの提案については、当事国のインドや、常任理事国のロシア、そして他の国連参加国の過半数からの賛同を既に内々に得ている。
三つ目。WHOが否定し世界中の医学者も否定しているCOVID-19が中国で開発され意図的に広められたという根も葉もない噂を各国政府が暗黙に広めるのを止めろ。これは依頼ではない。命令未満の要請と捉えて欲しい。
もし検討に値しない、まだ自分達には中国海軍など比べ物にならない兵力を有していると暴挙や報復に及ぼうとするなら、さらなる不幸がその国に起こるだろう。
また、一般市民の方々にも注意して頂きたい。我々は今回の捕虜を人道や国際条約に配慮して扱うつもりでいるが、今回の敗戦の腹いせにアジア系の一人を痛めつけたり傷つけたりする度に、捕虜の誰かが同じ様な目に遭うだろう。過激派は、捕虜を殺させる為にわざと殺そうとまでするだろうが、止めておく事を強く推奨する。
アメリカや欧州諸国の多くは信じようとはしないだろうが、我々は平和を望んでいる。
捕虜をいつどうやってどれだけ解放するかについては、我々の提案に対する回答次第だけだと言っておく。
発表は、以上だ。
賢明な回答を望む」
太平洋解放艦隊に艦艇を派遣していた国の中で、真っ先に反応したのがオーストラリアだった。三隻のフリゲート艦と二隻の潜水艦を出して全滅させられていた。
「インドの常任理事国入りは検討の余地がある。二つ目は、政府が助長してる訳ではない。これまでも取り締まってきているし、どちらかと言えば、疑いの目を向けられるような振る舞いをしてきている側にその責任があるのではないか?三番目は、やはり政府が公式発表で何と言おうと、世界的な風潮として、疑いの目を向ける人々の数が増えてしまうのではないか。その責任は我々ではなくあなた方にあるのではないかと、オーストラリア政府は考える」
その一時間後、広大なオーストラリア各地に分散配備されているオーストラリア海軍のフリゲート艦六隻とミサイル駆逐艦三隻が、海洋上にあるものも港に停泊している物も、同時に爆沈させられた。
15分後、オーストラリア政府の猛抗議の最中に、ドックにいた潜水艦などの艦艇以外、沿岸警備隊で使うようなパトロール船までを含めて、全て、同じ運命を辿った。
30分後、オーストラリア政府は、中国政府の提案を全て受け入れると発表した。
その30分後、オーストラリアのお隣さんのニュージーランド政府は犠牲を出す前に中国政府の提案を受け入れた。
そのほとんど直後に、カナダ政府も後を追った。こちらもフリゲート艦三隻に潜水艦一隻、補給艦一隻を送ってどれも失っていたが、追加で犠牲を出す事は無かった。
常任理事国であるイギリスやフランスが態度を表明するまでには、国会での激しい論戦を必要とした。
イギリスは、もう一隻の空母、クイーン・エリザベスや、イギリス唯一の核抑止力でもある原潜達まで失う訳にはいかないというのと、捕虜になった派遣したイギリス艦隊司令官のピコラス・ハイネ第二海軍卿が貴族でもあるのと、インドの常任理事国入りはかつての宗主国でもある為イギリスの不利には働かないだろうという判断が働いたらしく、中国からの提案を基本的に受け入れると発表した。高齢のイギリス女王が体調不良になっていたところに大敗北の知らせが追い打ちをかけ、戦争に踏み切るべきようなタイミングではないという国民心理が働いたせいもあったようだ。BBCなどの英語ニュース曰く。
イタリアはカナダの後くらいに提案を受け入れていたし、イギリスが提案を受け入れた事で態度を保留していた他の欧州諸国からも同様の発表が続いた。
空母シャルル・ドゴールを失ったフランスも、自由主義陣営としてかなり熱の入った議論を続けていたけど、イギリスが折れてしまった事で、自分達単独では戦えないと中国の提案を受け入れると発表した。元は宗主国であったアフリカの国々からの強い要望も後押しになったという。
という訳で、最後はアメリカだった。
アメリカ軍が厳重な警戒を敷いた国会議事堂にひさびさに上下院議員が民主党系も共和党系も集い、国防総省やら様々な略称の委員会や諜報機関の分析や敗戦責任の押しつけ合い、国防長官の更迭や後任人事にまで議論は飛び火し、久々のリモートでない議会開催に大量のロビイストまで跋扈し、軍警備の目の前で開戦派と和平派のデモ隊の衝突が議会前だけでなく、アメリカ各地で繰り広げられた。
アメリカだけでなく欧州諸国でもアジア系迫害は強まりを見せたところもあったけど、取り締まりも強くはなったようで、中国政府は米国政府からの正式回答を待って対応を行うようだった。
そして世界は、次の段階へと進んでいった。




